LAST.to be continued...



「――えー、本日はお集まりいただきありがとうございます!えー、妻が妊娠中で体調などを考慮しながらになりますが、えー、最後まで楽しんで行っていただけたらと思います!!」

「よろしく……、お願いします……」



 披露宴が始まった。


 ド緊張の光太郎の挨拶が可笑しくて、笑いそうになるのを何とか食いしばる。その隣で幸せそうに笑う山口。


 大きなお腹が目立ちにくい真っ白なAラインのウェディングドレスを身にまとっていて、すごく綺麗だ。


 あいつら、初体験まであんなに苦労してたのに……なんて場違いなことをつい考えてしまう。


 『子供を授かって結婚することになった』と光太郎から連絡をもらった時、不覚にもちょっと泣きそうになるぐらい嬉しかった。


 “里帆は結婚したいタイプの女の子だな!笑”


 5年以上前にそう話してた光太郎を思い出すと、あまりにも感慨深い。



「りほちゃーん。。すごく綺麗……っ」


 新婦の親族席で泣いている中学生くらいの女の子――あれ?この子どっかで……。


 そうだ。前にさくらの家の前で会った琴ちゃん。大きくなったなぁ。



 光太郎から以前、“里帆ん家は少し複雑な家庭だ”と聞いてはいたが、山口の母親は結婚式に来ていなかった。


 詳しいことは聞かなかったけど、まだ披露宴が始まったばかりだというのに、琴ちゃんの隣でわぁわぁと大声をあげて泣いてる親父さんを見れば……きっとあの親父さんと山口は、苦労を共にしてきたんだろうと想像できた。


 そしてあの美味い山口の手料理に、心を救われてきたのだろう。




「あの!すみません……もしかしてKAIさんですか?!」

「やっぱりそうだ!握手してください……!」


 新郎の挨拶、乾杯が終わると同時に、光太郎の大学時代の友人らしき女性たちが集まってくる。



「……いいですけど……、今日のメインあっちなんで」


 前方に手をやり視線を向けると、いーよいーよって両手で宥めるようなポーズを俺に見せてくる光太郎。……なんだか申し訳ない。


 でも光太郎はきっと、こうなることも理解した上で俺を今日呼んでくれたに違いない。



 さくらはまだかな……?

 そればっかりが気になって扉の方を何度も見る。


 さっき大野に聞いた話だと、さくらは現在フリーのイラストレーターとして活動する傍ら、美術系の専門学校で講師をしたり、時には出版社からも仕事をもらったりと大忙しらしい。


 もっとも、LINEの人気スタンプランキング上位を独占してるあのウサギスタンプを見れば、クリエイターとしてだけでも充分活躍してることが聞かずとも見て取れた。



 社交不安症も向こうでの生活の中で徐々に克服したと聞いた。……そして、吃音も。


 なんでもさくらは英語だと不思議なくらい症状が出なかったらしい。何にどう影響があって改善されたのかは定かではないけど、いつの間にか日本語もスムーズに話せるようになったと言っていた。


 完全に治るものではないけど、今では特に生活に支障はないらしい。



「さくら、強くなったよ」


 さっきの大野の言葉を思い出す。



 不意に、会場の各テーブル各席の前に置かれてる小さなメニュー表を手に取る。


 料理名の横には小さな挿絵が描かれていた。美味そうに、そして可愛らしくカラーで描かれたその絵。目の前に配膳されてくる料理の実物と見比べても遜色ないその絵は……きっとさくらが描いたものだろう。


 前に話していた『山口のレシピ本の挿絵を描く』という約束も、二人の間では現在進行形のようだ。



 披露宴の開始から15分ほどが経過し、少し酒も回ってきたからちょっとトイレへ。



 会場から廊下に出る――






「さくら……?」


 足早に会場へ向かってくるさくらの姿が、突然視界に飛び込んできた。反射的に声をかける俺。


 淡いピンク色のパーティードレスを着たさくらは……もしかして時間が止まっていたのか?と一瞬混乱するくらい、高校時代のそのまんまだった。




「…………かい」


 5年半ぶりに聴く透き通るさくらの声。

 何の滞りもなくさくらの口から伝って出た俺の名前。


 扉の向こうでワイワイと披露宴を楽しむ音が聞こえる中、廊下でポツンと二人……見つめ合う。





「……おかえり」


 無意識に発せられた言葉に、さくらは懐かしいあの笑顔――口角をキュッとあげて、ニコッと効果音が聞こえそうなあの笑顔を見せてくれた。



「ただいま」


 今日という日を、あれほど緊張して怖がって楽しみにしてを繰り返していたのが馬鹿らしく思えるほどに……


 その瞬間、お互いの気持ちが通じ合ったような……そんな気がした――






 盛大な披露宴も終わり、皆が二次会へと向かう準備をする中――ホテルのスタッフが俺の元へと駆け寄って来る。



「岸田様より、桜木様にこちらをと言付かっております」


 見ると、ホテルの部屋のカードキーに短いメッセージが添えられている。



『今日は来てくれてまじでありがとう!!二次会は来なくて良いから、二人でごゆっくり!』

『櫂くん、ファイト!』




「……あいつら……」


 光太郎と山口――あ、もう山口も岸田なんだな。二人が予約してくれたホテルの一室。


 きっと同じ部屋のもう一つのカードキーは……



 ぐるりと見渡しても、二次会に向かう集団の中にやっぱりさくらはいない。


 俺は急いで、その部屋へと向かった。






──部屋番号を確認し、ゆっくりと扉を開ける。



 正面には大きな一面のガラス窓。その向こうには都会の煌びやかな夜景が広がっている。


 ゆっくりと足を進めれば、夜景に見惚れたようにぼーっと外を眺めているさくらの後ろ姿。


 俺に気付いてこっちを振り返ったのとほとんど同時に、さくらに近付いて行く。




 力いっぱい、抱きしめた。

 5年分の想いを込めて。


 さくらも静かに俺の背中に手を回して、キュウッと抱きしめ返してくれる。






「さくら」


 身体を離して見つめ合う。

 名前を呼ぶと、ん?という顔をする君。


……やっぱり、好きだ。




「キスしてい?」


 聞けば、頬をピンクに染めている。


……やっぱり、大好きだ。





「……いいよ」


 そっと目を閉じる君。





 俺たちの初恋と青春の物語は……

 これからも、続いていく――






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チェリーブロッサム 望月しろ @shiro_mochizuki

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