最強になれと言われても他の妹姉の方がずっと強いので無理と言ったら両親に泣かれ、じゃあ修行に行きますと言ったら姉妹に泣かれたんだがどうしろと言うんだ？

第46話 両面作戦 その1

「情報が足りない、他に何か知っている事があれば教えてほしい」

「うーん、実はもうあまり言える事はないさ。あとできる事があるとすれば、猟犬の性質を教える事くらいさ」

「猟犬の性質か、どんなものだ」

　はっきり言って生き物か怪しいとさえ思っているが。性質が分かればまだやりようがあるかもしれない。

「丸いものが嫌いさ」

「嫌い？」

「そう。嫌いなのさ、とっても」

「それで？」

「それだけさ」

「なるほど……ありがとうアソキア」

　それだけかぁ……

　もう少しだけ聞いてみるか。

「ちなみにどれくらい嫌いなんだ」

「殺したいほどさ」

「ん？」

「丸いものがあるのに耐えられない。それが猟犬の行動原理さ。村長が襲われるのも球体だからさ」

「たとえば、村長が四角くなれば襲われないのか」

「原則的にはそうなるさ」

「村長に四角くなってもらおうかな」

自分でも何を言っているか、よく分からない気もするが、思いついてしまったからには仕方がない。丸いから村長が狙われるというのなら、それを解消したらひとまず状況は好転するかもしれない。

　両方送り返すためには、準備が圧倒的に足りていない以上、外に出られるならその方が良いだろう。

「……その発想はなかったさ。というか、形を変えてもらおうとか直接伝える気さ？」

「そのつもりだ。村長はそのあたり寛容というか、気にも留めないだろう」

「変形、できると思うさ？」

「分からない、だから頼んでみる」

「怖くないさ？　村長は理の外のいるもの。しばらく会いたくない、ひどければ二度と視界にいれたくないというくらいの存在さ」

　何を言うと思ったら。そんなことは言うまでもないと思っていた。

「正直に言おう。ものすごく怖い、そしておぞましい」

「ああ、安心したさ。それが正常な気持ちさ」

「それはそうだけど」

　そうだ。それはそれとして。

「それは俺が家族への脅威を見逃す理由にはならない」

　当たり前だろ。

「……溺愛してる妹、もしくは姉がいるさ？」

「どうしてそれを」

「いや、【賢者の石】にも似たような目をしたヤツが居たさ。狂気にも似た愛、自分を度外視して他人のために行動に移せるヤツが」

「そいつとは良い友人になりそうだ。何席だ？」

「一席【賢者】のワイズマンさ。残念だけどもう死んでるさ」

　なんとなく予想はしていたが、やはり第一席は【賢者】だったか。賢者の石の連中はみんな殺しても死なないようなのが集まっているのかと思っていたが、そうでもないらしい。

「それは残念だな……」

「もう終わった話さ」

　あまりしたくない話のようだ。長話をする必要もない。村長に話をしに行くか。

『お待ちしてぇました。決まりましたぁか？』

　会う一瞬前まで嫌悪感を感じていたのに、いざ目の前に来るとなにも思わない。普通に話ができてしまう。

　これがおぞましい事だとも思わない。

　恐ろしい相手だ。

「村長にお願いがあるんだ」

『なんでしょう、でえきる事なら』

「村長は四角になれるか？」

『それは物理的な意味ですぅか？　それとも概念的な意味ですぅか？』

「見た目の話だ。その身体から丸いところを無くせるか」

『可能か不可能かとぉいう意味では可能ですぅが、それぇはあなた方も四角になることが可能というのと同じレヴェルの話でぇす。あなた方ほぉど致命的ではありぃませんが』

「それはできると捉えて良いのか」

『良いでぇす』

「やってみてくれないか、もしかしたらそれで事態が好転するかもしれない」

『分かりまぁした』

　それをなんとも言い難い光景だった。

　ゴキリゴキリと音を立てながら尊重が変形していく。なにか白い液体もドポドポと出ているあたり、村長の言うとおりの負荷がかかっているのかもしれない。

『できまぁした』

「すごい……まさか本当に四角になるとは」

　アソキアが言っていた事が本当ならこれで多少なりとも猟犬側に反応があるはずだ。

『……なんということぉでしょう。この形になった途端■■■■■の気配がなくなりまぁした。これはいったい』

　すごい効果だった。まさか本当に丸が憎くて襲ってくる相手だったとは。

「実はアソキアが似た連中の知識を持っていた。もしかしたらと思って試してもらったんだ」

『おお、おお、すごい、これなら面倒なことをしなぁくて済みます』

　触手をぴちぴちと跳ねさせて喜ぶ村長。よっぽど嬉しかったのか、跳ね回っている。

　ん？　

　跳ね回って？

　球体に？

　元の姿に戻っている？

　そうしたらまた来るんじゃないのか。

「村長！！　まだ戻ってはいけない！！！」

『大丈夫、もう居なぁくなりました』

「また来る可能性がある！！」

『そんなはず』

　それは金属が擦れる音だった。

　それが、奴らの声だった

「逃げるさ！！」

　そう言ったアソキアの死角には既に猟犬が居た。

「もう来てるぞ！！！」

　咄嗟に出たのは桜腕、纏ったのは紫炎。

「うぉおおおおおおお！！！」

「はぁあああああああ！！！」

　きっと同じように俺の死角にも猟犬がいたのだろう。交差するようにしてアソキアも攻撃をくりだした。

「背中合わせで死角を減らすさ」

「了解した」

　異常に硬い手応えと、まったく効いてない気配。

「さて……どうやって生き残るか」