ヴェノムシード②
浅い眠りはリレンと名乗る雲のようなものを纏った
「時間の勝負なんだから行くわよ。時間が経てば緑地もまた荒れ地に侵食されるんだから。緑地を荒れ地にまた侵食されたらもう後がないのよ分かってる?」
「正直あんまりよく分かってない」
「ざっと言えば貴方の
「そんな……どうすれば」
「今は緑地を広げて少しでも親玉のヴェノムシードに近づくしかない」
リレンは一日二日の戦いだと言った。今はそれを希望に進むしかないようだ。
「リレン、ヴェノムシードはどっちだ」
「ざっと言えば貴方から見て十二時の方角ね」
「見渡す限り遮蔽物の無い荒れ地だし、ざっとでいいか」
緑地の終わりまで歩いていく。
何もない荒れ地をただ歩いて進むだけだ。リレンはあくまでガイド役なようで談笑は出来ないと突っぱねられ、無言で歩く。
不思議と気は狂わなかった。ただ生きなければという意志は強まった。
緑地の果てに付いた。
荒れ地に手を置きリレンに問う。
「生きたいと、願うんだっけか」
「そう。強い意志は力になる」
生きたいと願い体に力を込めると、どっと体力を失う代わりに荒れ地は見る見るうちに緑地へと変貌していく。
腰が抜けたようにへたり込み、地平線を見るように視線を上げる。
「なんか、先に、木が、ある」
「随分早く付いたわね。あれが枯れ木の大木。親玉のヴェノムシードよ」
「もっと禍々しいと、思ってたけど」
思いの外、普通の枯れた木だった。
ただ、親玉だけあって緑地は徐々に侵食され始めている。これは連戦だな。
「くそっ体力がっ!」
「やはり私だけでは体力が……って上を見て!」
「あ?」
「救援物資よ!」
雨が降ってきた。大雨に打たれ何故か体力が少し回復した。恵みの雨とはいうがそれは枯れ木の大木である親玉ヴェノムシードだってそうだろうと目を向けたが、雨に濡れてすらいなかった。
よくわからないが、今がチャンスだ。
「行くぞ! 生きたい! こんなよく分からんところで、死んでたまるかああああ!」
行きたいという意志を強く願い、手のひらを枯れ木の大木の親玉ヴェノムシードに向ける。
バチバチと力が拮抗するするように手のひらを押し返してくる。負けられない。負けると死に直結しているのだから。
一際激しく押し合い、後に完全に押しのけた。
途端に視界が弾けたように光に包まれる――
◆
――ぼうっと天井を眺めている。
真っ白なベッドに薄桃色のカーテンで囲んだ部屋。
腕には管が刺さっていて、管の先には液体の入った袋が吊るされている。
「はれ、ほれは」
しゃがれた老婆のような声が聞こえた。それが直ぐに自分の声だと気が付いた。
水が飲みたい。
不意にカーテンが開かれた。
「邦彦! とりあえずナースコール!」
矢継ぎ早に動く姿を目で追う。
母さんだ。なんだかホッとしたようで深い溜息を付いていた。
母さんの言葉でここが病院のベッドだと気が付いたと同時にお医者さんが看護師さんを連れてカーテンを開けて入ってきた。
「意識は……うん。大丈夫だね。覚えているかな、インフルエンザの吸引薬を摂取した後に気を失ったんだよ。それで二日間眠っていたんだ。病院に自力でたどり着いたから体力が無くなったんだね。でももう大丈夫。すぐにでも退院出来るけど、念の為、半日はここで過ごすといい。お母さんもそれで大丈夫ですか?」
「はい。お世話になります」
お医者さんが会釈をしてカーテンを閉めて行った。
「水」
「はいはい」
唇を濡らす程度の水滴は、じんわりと皮膚に染み渡る。
「なんか、凄い旅してたような、気が」
「何言ってんの。疲れて変な夢見たの? まだ半日あるんだし、ゆっくり寝なさい。ほら、おやすみなさい」
「うん」
母さんの声が心地よくて、瞼を落とすと直ぐに意識を手放した。
ヴェノムシードとの戦い 昼夜 @purunpurun
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