ヴェノムシードとの戦い

昼夜

ヴェノムシード

「邦彦!」


 薄れゆく視界の先には体を支えてくれている母がいた気がする――



 目が覚めると真っ暗闇の中にいた。

 体は動かず、ただただプールに身を委ねたように浮力と重力の間にいるようだ。

 そんな中、暗闇の先に今にも消え入りそうな光が灯る。

 希望に感じた。

 行かなければと感じた。

 光に手を伸ばすと現れたんだ。

 天使を彷彿とさせる姿をした母親が。


「なんて格好してんだ母さん!?」


 母さん天使はこちらの驚愕など気にもならないのか、一つ頷くと今の状況の説明を始めた。


「この姿は貴方が思う強い人物の姿になります。時間も多くはありませんので淡々と説明します。時間があれば質問は最後に設けますので静かに聞いてください」


 貴方は生と死の間にいる。貴方の命を救うには、ある世界の救出を持って成される言わば人質の状態です。

 この使命は放棄する事が出来ません。

 放棄は即ち死を意味します。


「この世界に蔓延るヴェノムシードの除草が貴方の使命です」


 ヴェノムシードというのは、外の世界から飛来した益をもたらさない悪の塊です。

 飛来し根付くと木の根のように広がるさまからヴェノムシードと名付けられた。

 ヴェノムシードは緑地のエネルギーを糧に枯れ木の大木へと既に遂げています。それでも尚、成長している為、このままでは世界は崩壊するでしょう。


「貴方には抗体スキルがあります。荒れ地に注ぐと緑地へと変えられますが、とても体力を使います。急ぐとはいえ無理はしないでください。無理に体力を使うと死に繋がります。これから荒れ地に送ります。そこでガイド役と出会い進行していってください。思いの外時間がありません! 私は貴方でもあります。気を強く持ってく……――」


 母さん天使は最後まで言い切る前に光の粒になり消えていった。

 一瞬にして暗闇の世界の戻ったが、それも瞬く間に情景に変化が起きた。

 

「っと」


 不意に足元に感覚が現れ、自分が地に足を付けていることに気がついた。

 砂埃の舞う乾いた荒れ地が地平線の先まで続いている。

 この光景を見ると何故か胸が苦しい。息苦しい。


「荒れ地を緑地に……か」


 地に手のひらを当ててみたが何も起きない。当たり前だ。急に力を貰っても使いこなせる訳がない。

 苦しい。辛い……。呼吸が……。

 意識が朦朧とする中、何かに腕を引っ張られる感覚を得る。


「力を、使って!」

(そんなことを言われても、どうやって)

「気を強く持つの! 生きたいって! 強く!」

(生き、たい……生きたい!)


 渾身の力でカッと目を見開き意思を強く持った途端、地に付いていた手のひらから瞬く間に緑地が広がっていく。

 荒れ地だった地平線の向こう側まで緑が生い茂る。


「凄いっ」

「体の力、戻ったでしょう?」

「確かに」


 呼吸や胸の苦しさは緑地の拡がりと同時に消え失せ、疲れはあるものの意識ははっきりとしている。


「素晴らしい。貴方の力よ。諦めるには早計だと思わない?」

「え、うん。えっと君がガイド役っていうの?」

「ざっと言えばそうねリレンとでも呼んでもらおうかしら」


 リレンと名乗る女性の声のそれは、白い雲のようなものに人形ひとがたのシルエットを隠した何かだった。妖精の類だろうか。


「何がどうなっているのやら」

「ざっと言えば、荒れ地は貴方を苦しめ、緑地は貴方の力を強くする」

「ざっくりしすぎじゃない? それに緑地にすると疲れるんだろう?」

「それは運動したからよ。普通のことよね。貴方は緑地のある場所でしか生きることが出来ないのよ。荒れ地に力を奪われるのは体験済みでしょう」


 確かに。単純な陣取りゲームのように陣地を広げていくとやがてクリアするのだろうか。


「今はね。親玉のヴェノムシードには真正面から抗体スキルで衝突しないとだから、荒れ地から緑地への比じゃない辛さはあるよ」

「あれ……今声出したっけ」

「私はガイド役よ。それぐらいざっとこなせて当然でしょう」

「世界を救うその日まで、リレンさんよろしくお願いします」

「一日二日で片がつくわね」


 自分の命がベットされたデスゲームだ。早くクリアして自分の布団で休みたいよ。

 緑地で体を丸くして眠りに落ちた。

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