第25話 25、300隻と3隻の宇宙戦 

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 三本は少し大きめのキャップテンシートに深々と腰掛けてランクル艦長に言った。

「ランクル艦長、そろそろ状況を話してくれませんか。たくさん会話をすればオンドル国の言葉の語彙が増えて、わざわざ操縦室に来なくても通信機で会話できるようになります。」

 「うむ。そうだな。・・・オンドル国があった惑星の名前はレグホーン星という。ここから20光年ほど離れた位置にある。レグホーン星がある星系はキジー星系と言う。その星系には居住可能な惑星はこの星系と同じように3個あるのだが、ここと違って三重惑星だ。同じ惑星軌道を回っている。名前はレグホーン星、ライホーン星、リンホーン星だ。同じ惑星軌道面の同じ環境にある惑星だ。宇宙に出ることができるようになると当然の事ながら争いが生ずる。言葉も違い生活習慣も違う三星だ。互いに競り合い、科学は急速に進むようになった。争いのきっかけというものは特になかったと思う。レグホーン星のオンドル国がワープ技術を開発し、星系外に行けるようになった頃からレグホーン国内で小さな争いが起こった。今から思うとその争いはライホーン星かリンホーン星の援助を得ていたのかもしれない。忠誠を誓っていたはずの国軍まで反乱軍に寝返る始末だった。早い話がオンドル国は反乱軍に敗(やぶ)れ、逃げることができた一族郎党を引き連れて落ち延びて来たのが現状だ。ワープができるようになってから開発された超空間通信機にビーコンシグナルが入ったのでそれに導かれてこの星系に来た。」

 「この星系の科学レベルはどうでした。」

「キジー星系より少しだけ遅れているように思っていた。戦艦の加速は悪いし装甲も薄い。長年宇宙で戦って来た我々より劣ると思っていた。三本に会うまではな。」

「神聖マロン帝国は特別なのです。ご先祖は皆さんが狩猟生活を送っていた頃に大宇宙に進出し、大宇宙の地図も作ってきました。その頃の大宇宙にはどんな文明も発達していなかったそうで、どこもあまりにも幼いので征服するのは止めたようです。」

 「神聖マロン帝国はこの星系にあるのか。」

「あります。三つの有人惑星のうち最も内側にある惑星の一角にあります。その惑星の名前はマロン星です。神聖マロン帝国はマロン星に小さな国を作っています。ここに来たのはお願いと脅しを伝えるためです。」

「どんなお願いと脅しですか。」

「お願いというのは『マロン星を攻撃しないでほしい』というお願いです。脅しというのは『攻撃したら母星を消す』というのがいつもの言い方なのですがオンドル国は星がないのだからせいぜい宇宙船を消すと言うくらいしかないですね。」

「分かった。マロン星は絶対に攻撃しない。」

 「それはありがたいことです。今日はこれで引き上げます。あとは皆さん、勝手にやってください。見物させてもらいます。」

そう言って三本はキャップテンシートから立ち上がり、床に落ちていた翼竜のミニチュアを拾い上げ、ランドル艦長の膝の上に置いて言った。

 「このミニチュアは僕の友達の翼竜のミニチュアです。ギギーっていう名前で翼長は10mを超えます。・・・おっと、度量衡が違いましたね。・・・この部屋くらいの翼長です。言葉は幼いが会話はできます。翼竜は鳥類の先祖です。皆さんの遠い先祖だと思います。プレゼントします。」

三本はそう言って転送機に入り、消えた。

小隊長は転送機をアタッシュケースに変え、一瞬で消えた。

周囲のロボット兵もそれを見てから一瞬で消えた。

 「神聖マロン帝国の三本か。」

ランクル艦長は膝の上の翼竜のミニチュアを持ち上げて呟(つぶや)いた。

艦長はキャップテンシートに座り直すと副長に命じた。

「副長、加速を開始しろ。予定通りに行動する。本艦を予定に合わせろ。」

「了解、艦長。予定通りの行動を行います。」

そして葉巻型宇宙船は星系内の惑星に向かって加速を開始した。

 ランクル艦長は起こったことを仲間の戦艦に伝え、第一有人惑星には絶対に近づかず絶対に攻撃してはならないと伝えた。

それにしても相手の戦闘力は想像を超えていた。

推測すらできないほどだ。

最大加速している大戦艦を拘束して動けなくし、操縦室に武装兵を送り込ませることができた。

 ランクル艦長はそこまで考えると少しだけ相手艦の限界を見たような気がして少し満足した。

相手艦は高加速を続けている艦には操縦室には物を送り込むことができないと思ったからだ。

だが、直ぐにそんな考えは捨てた。

 加速を止めたのは三本と言う人間を送りこむためだったからだ。

高加速を続けている船に人間を送り込んだらその人間は操縦室の壁にぶち当たる。

三本を送り込むためにわざわざこの艦に接舷して加速を止めたのだ。

相手艦はとんでもない質量を持っていることになる。

三本がこの艦にいる間はこの艦の磁気警告音が鳴っていたが、兵士が去った後はそれが止んだ。レーダーには一度も船影は映らなかった。

相手は探知できないのだ。

 三本は『見物させてもらう』と言った。

ランクル艦長は自分たちが闘鶏場で戦う闘鶏になったような気がした。

三本は大宇宙という逃げられない囲いの中で互いに生死をかけて戦う戦闘を見ようとしているのだ。

ランクル艦長は生死をかけて戦うのがバカらしくなっていた。

 「千さん、ただいま。今回も未知との遭遇だった。」

三本は千が差し出したコーヒーカップを受け取りながら言った。

「ご苦労様、先生。これでマロン星が宇宙戦争に巻き込まれることはなさそうですね。」

「僕もそんな気がしました。でも、あの艦の目的を聞き出すことはできませんでした。」

「まあ、見ていればそのうち分かると思います。」

「そうですね。」

葉巻型戦艦1号はナロン星から1光分辺りでナロン星から来た艦隊2と出会うことになった。

その頃には葉巻型戦艦2号も追尾する連合艦隊1を引き離してその空域に到達していた。

加速をし続けた葉巻型戦艦3号も戦艦2号とは離れた位置からその空域に達していた。

ナロン星から来た2群の連合艦隊2と連合艦隊3は相手艦の長い光線砲の射程を考慮して密集隊形を取っており、ナロン星への攻撃を防ぐために前後に離れた陣を敷いていた。

すなわち葉巻型戦艦の3隻はたった3隻だったが広い鶴翼の陣形で、縦に並んだ二つのナロン連合の密集艦隊と出会うことになった。

 ナロン連合の連合艦隊2の正面に位置した葉巻型戦艦1は前面の連合艦隊2に向かって最大加速をかけて接近し、途中で前方に多数のステルス核ミサイルを発射した。

宇宙空間での核ミサイルは相手艦の近傍で爆発しなければ有効な破壊力を発揮しない。

それは分かっていたが葉巻型戦艦1は探知不能なステルス核ミサイルを多数発射した。

別に当たらなくても良かったのだ。

 核ミサイルは前方の連合艦隊2の前から中央深くにまで亘って順に爆発した。

葉巻型戦艦1は加速を緩めず核爆発の中に突っ込んで行った。

葉巻型戦艦の外殻は丈夫なのだ。

核爆発の後なら入っても大丈夫だ。

 それに核爆発の熱は宇宙では急速に冷める。

核爆発の中に居れば敵から探知されることはない。

探知されなければ敵から光線砲で狙われることもない。

こちらは敵船の位置が判っているのだからあらかじめ狙いをつけておくことができる。

敵は核爆発に向かってレーザー砲もミサイルも発射することはないだろう。

 葉巻型戦艦1は核爆発に沿って敵艦隊の中央を高加速で通過し、周囲の敵艦に向けてメックス砲(Mex: Microwave Emitter by-on-with X ray)の全門を開き周囲の敵艦を計算通りのタイミングで照射し30隻の敵戦艦に穴を開けて爆発させた。

そして葉巻型戦艦1はナロン連合の連合艦隊2を突破した。

葉巻型戦艦1の第二の目的は前方にいる連合艦隊3だった。

それを突破すれば敵の母星に核ミサイルを撃ち込むことができるのだ。

 ランクル艦長の乗る葉巻型戦艦3は葉巻型戦艦1と違って加速をかけ続けて来たので最初に連合艦隊3に高速状態で接近することになった。

葉巻型戦艦3は葉巻型戦艦1と同じように最初に多数のステルス核ミサイルを連合艦隊3に発射し、核爆発の中に突入し周囲にメックス砲を撃ちまくった。

味方は自分一人だけで周囲は全て敵だった。

敵味方の確認の必要はなかった。

葉巻型戦艦3は結局、敵戦艦32隻を葬って戦闘空域から離脱した。

葉巻型戦艦3はメックス砲を撃つと同時に多数の時限式核機雷を周囲に打ち出していた。

次に突入する予定の葉巻型戦艦2に核爆発という煙幕を張るためだった。

 連合艦隊1に追尾されていた葉巻型戦艦2は途中から加速し、葉巻型戦艦3が戦域を離脱した直後に連合艦隊3に接近した。

葉巻型戦艦2は同様にステルス核ミサイルを発射してから連合艦隊3に突入した。

最初に葉巻型戦艦3が撒き散らした核機雷が各所で爆発し、その後ステルス核ミサイルが爆発した。

 葉巻型戦艦2は核爆発の嵐の中で加速を落とし、進行方向を変えてから周囲の敵戦艦にメックス砲を撃ちまくった。

連合艦隊3の戦艦は葉巻型戦艦2を核爆発の中では探知できず、葉巻型戦艦2の予想進路に向けて光線砲を乱射した。

しかしながら、葉巻型戦艦2はその位置には来なかった。

葉巻型戦艦2の戦いでは核機雷で破壊された戦艦もあったので40隻の戦艦が破壊された。

 葉巻型戦艦2が戦域を出た時、その戦闘空域に残っていた連合艦隊3は28隻の戦艦群が混乱してバラバラの状態になっていた。

その時、連合艦隊2を突破した葉巻型戦艦1が連合艦隊3に接近して来た。

葉巻型戦艦1は相手がバラバラだったので遠距離からメックス砲を斉射し、敵船を一隻ずつ素早く破壊して行った。

 25隻が破壊された時、連合艦隊3に残った戦艦は3隻で母星の方向に逃走を始めた。

既に艦隊の司令官は死んでいたのだろう。

しかしながら、その3隻は生き残ることができなかった。

葉巻型戦艦2と3は艦隊を突破した後に敵の母星の方に進路を取っていた。

逃走した連合艦隊3の三隻の戦艦は葉巻型戦艦2と3と並走する形になり、簡単にメックス砲の餌食になった。

連合艦隊3は全滅した。

 連合艦隊の損害は甚大だった。

連合艦隊1は5隻の戦艦を失い、連合艦隊2は30隻の戦艦を失い、連合艦隊3は全滅した。

葉巻型戦艦2を追跡して来た連合艦隊1はようやく戦闘空域に達し、残存していた連合艦隊2と合流した。

連合艦隊2の司令官が乗っていた旗艦が爆発したからだった。

 ナロン連合の宇宙船力は今や165隻の戦艦からなる寄せ集めの連合艦隊になってしまった。

外宇宙から来た、たった3隻の宇宙戦艦にあっという間にやられたのだ。

戦闘力の彼我の差はそれほど大きくなかった。

相手は加速が良く、少し射程の長い光線砲を持っているだけだった。

だが作戦で負けてしまった。

まさか核爆発の中を突っ切って来るとは思わなかった。

 連合艦隊1は母星の方に向かった3隻の敵艦を追って最大加速で母星に向かった。

母星が攻撃されるだろうことは確実だった。

連合艦隊1の司令官は母星に状況を報告し、警戒するよう伝えた。

そして司令官は艦隊を再編成した。

5隻の戦艦を一つの単位にした。

5隻が一つの戦艦となって敵に向かい合うのだ。

5隻の光線砲を同期させれば光線砲の射程は伸びるし、たとえ一艦がやられても反撃できる。

装甲が強くなったことになる。

大昔から乱戦では複数人数で強い一人と戦うことは常識だ。

 葉巻型戦艦1と2と3は第3有人惑星、ナロン星の前で合流し、ナロン星の首都らしい場所に向けてステルス核ミサイルを一発ずつ発射した。

高層の建物と巨大な工場群と超空間通信ビーコンの発信場所に一発ずつだった。

今後制圧できるかもしれない星を核で汚染することは極力避けなければならなかった。

 惑星地表での核爆発は宇宙空間と違って圧倒的な威力を発揮する。

大気は核爆発の高熱で強烈な爆風と熱風を作り出す。

地上の建築物は甚大な被害を被る。

ナロン星の首都は壊滅したが超空間ビーコンの発信が止まったことはナロン連合にとっては僥倖だったのかもしれなかった。

 葉巻型戦艦3のランクル艦長は憂鬱だった。

作戦はうまく当たって艦対艦の戦いに持ち込むことができた。

敵艦隊のおよそ半分を葬ったが、相手の戦艦はまだ150艦以上もあり、こちらは相変わらずのたった3艦で、増援の見込みは全くない。

次からは相手は警戒するし対抗策を立てて来るだろう。

小型の戦闘機が出て来るかもしれない。

先の長い話になる。

 相手は物資を補給できるがこちらは弾薬を撃ち尽くしたら終わりだ。

それに宇宙空間での戦いと惑星の制圧とは全く別の次元の話だ。

惑星の制圧には陸軍が必要だ。

それはこちらにはない。

航宙兵力を壊滅し、空からの核威嚇で相手の降伏を待つしかない。

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