第26話 26、三本の帝国構想 

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 連合艦隊1の司令官は母星が3発の大型核爆弾で攻撃されたのを見て心の中でニンマリとした。

相手の目的が分かったのだ。

相手はこれ以上母星を攻撃しない。

3発の核ミサイルはいつでも攻撃できるという脅しに過ぎない。

ナロン連合を破壊しようとしていたら最初からもっと多数の核ミサイルを発射していたはずだ。

相手は母星ではなくこの艦隊を殲滅させようと思っている。

これで母星を守らなければならないという制約無しで戦うことができる。

 葉巻型戦艦三隻はナロン星に核ミサイルを発射した後、惑星を通り過ぎて近づいて来る連合艦隊1に対して惑星を衝にした位置で集結した。

連合艦隊1が核攻撃された母星の救助や防衛に戦艦を割(さ)いてくれたら幸いだった。

 だが連合艦隊1は母星の惨状には目を向けず、ナロン星を通り過ぎてから太陽の方に進路を変えながら葉巻型戦艦の方にゆっくりと斜めに近づいて行った。

相手が動き出すとしたら太陽を背にして攻撃をして来ると思ったからだった。

 連合艦隊1の司令官は艦載戦闘機を出撃させた。

各戦艦から10機の宇宙戦闘機が発進し1650機の大編隊となった。

連合艦隊の戦艦は5隻が一つのグループを形成し、火器管制はリーダー艦が行い、リーダー艦の照準に他の4隻の戦艦の照準も連動するようにされていた。

連合艦隊の光線砲の威力は5倍に増強されることになった。

 一つの戦艦グループの戦闘機、50機のうちの30機はグループ味方艦の護衛と共にグループの狙った敵艦を戦艦の攻撃に合わせて攻撃するようになっていた。

残りの20機の戦闘機は4機ずつのグループを作って敵艦から出て来るだろう戦闘機と交戦するのだ。

とにかく目標はたった3隻の戦艦だ。

遠くから攻撃すれば負けるはずがない。

 葉巻型戦艦3のランクル艦長は1600機あまりの敵戦闘機群を見てますます憂鬱になった。

戦闘機の光線砲ならこの艦の装甲を簡単には破壊することはできないだろうが、こちらとしても素早い相手を簡単に破壊できるものではない。

相手が自由に近づけるようになったら戦艦外殻に接着機雷を磁気接着されるかもしれない。

そんなことになったら自由に砲塔を出すことさえできなくなってしまう。

 敵戦闘機の中には大型爆弾を積んだ雷撃機もいるかもしれない。

通常機雷ではなく核機雷を外殻に付けられたら終わりだ。

核ミサイルなら爆破したり避(よ)けたりすることができるが核機雷を外殻に付けられたらどうすることもできない。

そうならないためにはこちらも戦闘機を出さなければならないのだが数の差は圧倒的だ。

消耗戦になったらこちらが負ける。

 ナロン連合連合艦隊1は5隻ずつ33グループに分けられ、各グループから集められた660機の戦闘機は4機ずつの編隊、165編隊を作って葉巻型戦艦に向かって広範囲に散開して加速した。

葉巻型戦艦は戦闘機群が向かって来るのを見ると艦載戦闘機を出すことなく太陽に向けて全力加速をかけて逃走を図った。

まだ距離があるから逃げ出すことは可能だった。

追いつかれさえしなければ航続距離が長い戦艦に利がある。

葉巻型戦艦に向かっていた戦闘機群も相手が逃げ出したので深追いはしなかった。

 「これで第一ラウンドは終了ですね、千さん。」

三本はミミーの実時間観測の画像を見ながら言った。

「そうですね。オンドル国第一艦隊は総合戦力が足りなかったようです。」

「3隻対300隻ではよほど優れた兵器を持っていなければ正攻法では難しい。ランクル艦長らはこの先どうするんでしょうね。」

 「なかなか先は見えないですね。あの円盤型宇宙船に何人の人間が乗っているかは分かりませんが、仮に10万人が居たとして人間が居ない豊かな星を見つけたとします。地上に降りて生きるための生活を始めたとします。世代が変わるまでは何とか今の生活ができるでしょうが世代が替われば知識は失われます。数世代経てば造ることもできない理解もできない昔の戦艦と円盤宇宙船を持つ貧しい農耕小国になるかもしれません。まあ、あの宇宙船の中に優れた指導者がいて、しかも生きて行くことに心配がないのであればそうはならないでしょうが。」

「いつでも有名店の食事ができるホムスク文明ではそうなったのですね。」

「ふふっ、そうですよ、先生。お夕食にしましょうか。」

「よろしくお願いします、千さん。お腹が空きました。」

 三本は金沢とんとん亭のトンカツを食べながら千に言った。

「千さん、宇宙って大きいですね。セム号では広さは実感できなかったけど葉巻型戦艦も丸顎サメ型戦艦も外縁から星系奥に入るまで全力加速でも数日がかかりました。」

「そうですね。星系内でもそんなに広いんです。外宇宙に行ったら想像できないほど広くなります。」

 「そんな中にポツンポツンと惑星があって、その惑星も進んでいる星もあれば遅れている星もある。グルのような恐竜のいる星もあれば、星系からまだ出ることもできない地球みたい星もあれば、レチプル星のように他星系を侵略する星もあれば、ナロン連合のように同じ星系内の惑星を支配している星もあれば、オンドル国のように星系内の争いで放浪をしなければならない星もある。しかもそれぞれの星での言葉は全く違っている。恐竜の星では言葉はなかったし、地球では言葉の種類が多すぎているし、ナロン連合ではマロン人は別の言葉を話していた。」

 「先生は何をお考えなのですか。」

「まだはっきりとした考えではないけど、宇宙に共通語があればいいと思っています。千さんは知っていると思うけど、地球では共通言語としてエスペラント語が作られました。まあ、実際には英語が共通語になっているけど。僕は宇宙の共通語はホムスク語だと思っています。ホムスク語は一億年という文明を担(にな)って来た言葉です。当然、圧倒的な数の語彙があるはずです。ホムスク科学を語るにはホムスク語が必要です。」

 「それは神聖マロン帝国の言葉になるのですね。」

「そう、イスラム教みたいだけど『コーランか然らずんば剣か』の代わりに『ホムスク語か然らずんば消滅か』というフレーズになると思う。ホムスク語が通じればホムンクさんとも話すことができるし、ホムスク語の超空間通信を聞くこともできるしホムスク語で発信することもできる。『助けてくれ』って発信できる。地球のインターネットみたいにね。」

「宇宙がホムスク語で結ばれるのですね。」

 「そうなればいいと思う。少なくとも他星系への侵略には抑制がかかる。宇宙には自分よりもっと優れた異星人がいるって分かるから。」

「興味深い構想だと思います、先生。コーランの代わりにその惑星の言葉とホムスク語との通訳機を与えればいいのですね。」

「そうです。宇宙にはホムスク語だけが飛び交うことになります。愉快だと思いませんか。星系内の文化はそのまま保存され、ホムスク語で緩(ゆる)く結ばれることになります。コーランのイスラム教で言えば支配国の言語と慣習と文化を許したオスマン帝国の方式に似ています。言葉さえ通じれば宣戦布告も降伏もできます。誰も知らないうちに滅ぼされることはなくなります。」

 「ホムスク国も驚くでしょうね。銀河星系からホムスク語の超空間通信が発せられるのです。」

「ホムスク船がこの辺りに来るのは歓迎です。惑星の住民はホムスク星の圧倒的科学力を知るでしょうから。宇宙を支配しようなんて考えは萎(な)えるでしょうね。」

「先生の新しい冒険ですね。神聖マロン帝国です。」

「何かワクワクしますね。ホムスク語を話す者はみんな仲間です。・・・仲間って言うのは言い過ぎかな。争いもあるんだから兄弟くらいかな。『ホムスクの兄弟』って。へへっ。」

三本も千もトンカツを食べ終えてコーヒーを飲んでいた。

 三本と千は数日後に超弩級宇宙戦艦千夢でナロン星に行った。

マロン星から直接遷移してナロン星から30000㎞の位置に出現して全波長無線交信をナロン語で開始した。

「こちら神聖マロン帝国の三本。超弩級宇宙戦艦千夢から話している。敵ではない。感あれば応答せよ。」

 しばらくしてナロン星の非常通信周波数で応答があった。

「神聖マロン帝国の三本。こちらナロン連合連合艦隊。どこから通信しているのか。」

「ナロン連合連合艦隊。本艦はナロン星の対地同期軌道高度にいる。首都の真上だ。」

「神聖マロン帝国の三本。貴艦が確認できない。姿を現せ。」

「姿を現わすことはできない。本艦の質量はナロン星より重い。7次元ゼロ位相に現れたらナロン星は軌道から外れる。本艦の今の位置では惑星の軌道速度は遅くなる。ナロン星は太陽に近づくことになる。それでいいのか。」

 「そんなバカなことがあるか。」

「ナロン連合連合艦隊の愚かな通信士。貴官の姓名を聞いておこう。貴殿の名前はナロン星を太陽と衝突させた大罪人として生き残ったナロン人に記憶されることになる。たとえ貴殿がその責を追って自殺してもナロン星はなくなる。名前を聞こう、通信士。」

「・・・」

 「神聖マロン帝国の三本。通信者が代わった。ナロン連合連合艦隊司令のニードルスだ。貴殿の艦はどのような状態にあるのだ。」

「ナロン連合連合艦隊のニードルス司令官。本艦は隣接7次元に存在している状態にある。貴官の采配は見せてもらった。大したものだった。鶴翼の一端を攻撃されたが反撃しないで円盤型の敵母船に向かったのは見事だった。」

「見ていたのか。」

「全て見させてもらった。間近でな。」

 「何用で本星に来たのか。」

「ナロン連合の首脳は私と話をしたがっていたと聞いている。首脳と話すために来た。」

「どのような話だ。」

「司令官は首脳となられたのか。ナロン連合の首脳はオンドル国の核攻撃で死んだのか。」

「いや、生きておられる。オンドル国と言ったか。」

「少しは興味を抱くだろうと思って言ってみた。」

「・・・分かった。連絡してみよう。連絡するまでしばし待たれよ。」

「了解。通信終わる。」

 連絡は1時間ほどで来た。

「神聖マロン帝国の三本。こちらナロン連合連合艦隊司令のニードルスだ。応答を願う。」

「ニードルス司令官。こちら三本。貴国の対応を聞きたい。」

「大統領はお会いなされるそうだ。場所は地下司令部でなされる。それでどうか。」

「今の状況では止むを得ないな。地下司令部は秘密の場所だろう。案内してくれるのか。そこに行くにはいくつかの方法がある。」

「どのような方法があるのか。」

 「一つ目は地表での位置を教えてくれることだ。そうすればすぐに司令部は見つかる。二つ目は超空間ビーコンのカプセルを司令部に届けることだ。そうすれば司令部の位置が分かる。三つ目はこちらの代表を司令部に連れて行ってもらうことだ。そうすれば面会場所が分かる。」

「・・・三番目が適切だ。司令部の位置は公開したくない。」

「了解。貴官の操縦室にロボット兵一体を送る。ロボットを司令部に連れて行ってほしい。」

「本艦の操縦室にロボット兵を送ることができるのか。」

「できる。貴官が座っているキャプテンシートの後方4mの空中に送る。攻撃は絶対にするな。ロボットは攻撃されたら自動的に反撃する。操縦室には穴が開く。」

「分かった。」

 10秒後にニードルス司令官の後方空中に破裂音と共に暗黒外装のロボット1体が出現し、ゆっくり床に降りて来てからナロン語で言った。

「ニードルス司令官。三本です。ロボットを通して話しております。このロボットを司令部に連れて行って下さい。ナロン語は話せます。司令部には私本人が行く予定ですからご安心ください。

 暗黒の影が言葉を話すことは不気味だった。

ロボットの外装は完全に黒だったので輪郭だけしか分からなかった。

床にはしっかりと影が生じていたのだが、表面反射もなかったので黒い影としか見えなかった。

「分かりました。部下にナロン星の司令部に連れて行かせます。それにしても貴殿は私の艦を特定できて操縦室も見ることができるのですか。」

「位置が分かればどこでも見ることができます。位置は通信の発信位置から分かります。」

 暗黒のロボットはニードルス司令官の部下に連れられて操縦室を出た。

ロボットを案内する乗組員は完全暗黒のロボットが恐ろしかった。

口の位置も目も見えなかったのだ。

ロボットに「どうぞ」と言ったがロボットは暗闇の中から「了解」としか言わなかった。

ニードルス司令官は暗黒のロボットが居なくなるとドッと疲れが出たのだが、そんな様子を相手に見られていると思うとキャプテンチェアに座って目を閉じて瞑想にふけるふりをするしかなかった。

 それにしても相手が宇宙戦艦の操縦室にロボット兵士を送り込むことができるとは思いもよらなかった。

ロボット兵と毒ガスが同時に送り込まれたら戦艦は簡単に鹵獲(ろかく)されてしまう。

戦艦が爆破されるより始末が悪い。

それに「オンドル国」と言っていた。

三本は敵のことを知っているのだ。

それに三本の戦艦は隣接7次元にいて質量がナロン星以上だと言っていた。

どれも想像できないことだったが何となく本当らしかった。

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