第24話 24、オンドル国の宇宙戦艦 

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 「ミミーさん、実況放送をありがとう。僕はバカだったね。宇宙戦をこの目で見れると思っていた。実時間観測なくして宇宙空間での実際の戦闘なんて見れっこない。クローズアップできる映画やコミックとは違う。なんせ相手が遠すぎて目で見えないんだからね。」

三本は超弩級宇宙戦艦千夢の操縦室の電脳ディスプレイのコンソールの前で中のミミーに礼を言った。

「どういたしまして、先生。」

 「それにしてもどちらの司令官も賢(かしこ)かった。ナロン連合の司令官の鶴翼コーン戦術は良かった。相手が単艦だったから。誤算は相手の加速力を見誤ったことかな。鶴翼陣形が崩れた時に艦隊を加速させたのもよかった。あれで結集させることができた。相手の光線砲の射程もすぐに分かったんだろうな。だが結集したら短い射程距離でも対抗できる。もっといいのは結集してから相手の母艦に向かったことだ。まさか母艦が逃げ出して消えてしまうとは思っていなかったみたいだ。」

 「相手の戦艦はどうでした。」

千は興奮して話している三本の顔を見ながら楽しそうに言った。

「相手戦艦の艦長は歴戦の戦士っていう感じだった。まず先制攻撃がそれだ。最初から戦うことを決めていた。実際、3隻の戦艦を葬(ほうむ)ったんだからね。誤算は鶴翼の陣形を破った時に予想通り相手艦隊が混乱するだろうと思ったのだろうけど、相手艦隊の司令官が賢かったのを見誤ったことかな。それと母船から離して艦隊を星系内部に誘導しようと思ったらしいけど、それも外れた。そんなとこかな。」

 「今後はどうなると思いますか、先生。」

「そうだなあ。次は戦闘機の戦いかな。ナロン連合の艦隊は相手の加速が良くて射程距離も長いということが分かったはずだ。そしたら加速で対抗できる戦闘機を繰り出すはずだ。戦艦には当然数機の戦闘機を積んでいるから大編隊を組むことができる。いかに射程が長い光線砲を持っていても狙いは一機ずつになる。集団で襲いかかれば肉薄できるはずだ。もちろん葉巻型戦艦も戦闘機は出すだろうけど数はそれほど多くないと思う。互いに肉迫できる空中戦なら数が多い方が勝つと思う。問題は葉巻型戦艦の形だ。余計な物を一つも外に出していない。それは防衛力に自信を持っていることだ。相当厚い装甲を持っている証拠だ。だからひょっとして戦闘機は温存して出さないかもしれない。分厚い皮膚を持った犀(サイ)は周りを飛ぶハチを無視して大きな相手に突進するのかもしれない。」

 「そしたら犀が勝ちますね。」

「それは分からない。相手は蜂の集団を味方につけた狼の集団だからね。光線砲を外殻から出したらそこを蜂に狙われる。」

「楽しそうですね、先生。」

「少し興奮しているかな。戒(いまし)めなければね。」

 「ミミー、状況はどうなってます。」

「はい、千様。説明しやすいように葉巻型戦艦を1、2、3とします。最初に出てきた戦艦が戦艦1で、左右に分かれて連合艦隊が追って行った戦艦を戦艦2、残りを戦艦3としますと、どれも星系内に向かっております。どれもまだ恒星からおよそ1光時の位置です。戦艦2を追尾している連合艦隊1は反転が必要でしたから戦艦2には追いつきません。

ナロン星からは新たに2群の艦隊が出発しました。一応それを連合艦隊2と連合艦隊3とします。連合艦隊2と連合艦隊3の加速は大きくありません。突破されて母星に向かわれることを警戒しているみたいです。前後に二段構えで密集陣形を敷いております。」

 「先生、次はどうしましょうか。」

「ふーむ。葉巻型の戦艦は何となく忍者の戦いと似ているような気がします。まともに正面から戦わないで少しずつ相手の戦力を減らしています。そうだとしたら次に何かが起こるのは戦艦2だと思います。足の遅い敵は必死で追いつこうとしています。撒菱(まきびし)を撒くには好都合です。」

「了解。ミミー、戦艦2の横に遷移して距離を取って並走しなさい。」

「了解、千様。遷移後、並走します。」

 三本の予想は当たった。

葉巻型戦艦2を追っていたナロン連合第一連合艦隊の後方で5発の核爆発が同時に起こり、巻き添えを食らった2隻の戦艦が舷側の一部を融解させてから爆発した。

第一連合艦隊に追尾されている葉巻型戦艦2が敵艦隊の通過する時刻を予測して浮遊核機雷を打ち出したからだった。

第一連合艦隊は直ちに陣形を広げ、コーン型に追尾陣形を変えた。

「お見事、先生。予想が当たりました。マキビシのかわりに核機雷でした。」

 「へへっ。不謹慎ですが戦争ゲームをしているような気がします。・・・まあ、実際にはまだ戦争ゲームはしたことはないですけどね。・・・ゲームってのは血を見ないから楽しいんでしょうね。空軍と海軍は敵の死体を見ることは少ないですね。死体を見るのは味方がやられて仲間の死体を見る時でやがてすぐに自分も死体になるわけです。ですから生きている兵士は死体に対するおぞましさは感じていない。僕は実験でマウスを何匹も解剖しました。気分が悪くなったのは最初だけで、それを過ぎると慣れてしまうんです。白兵戦をする陸軍の兵士もそうなるんでしょうね。・・・いや、失礼。次は葉巻型戦艦3の目的を知りたいですね。」

「了解。ミミー、戦艦3の近傍に遷移。並進します。」

「了解、千様。」

 超弩級宇宙戦艦千夢は葉巻型宇宙戦艦3の横100㎞に遷移し、相手艦とぴったり並走した。

実時間観測で相手宇宙船の内部を詳細に調査した。

葉巻型宇宙戦艦の長さは300m、最大の幅は50m。

外郭はジェットの噴出口を除いて50㎝の鋼鉄で覆われていた。

推進ジェットは深そうな位置から噴出されるようだった。

たとえ後方から噴出口を光線砲で狙われてもジェットを噴出している限り損害は及ばない。

 葉巻型宇宙戦艦に搭載している搭載艇は有翼小型宇宙戦闘機が20機、有翼シャトル機が2機だった。

地上戦は想定していないようだった。

乗組員はおよそ200名で30人が操縦室におり、いくつかの担当ディスプレイの前のシートにシートベルトでしっかり固定されていた。

各ディスプレイは2名の乗員によって操作されていたが、一人は予備人員のようだった。

実際の戦いに備えているようなので外部の観測先端も複数個準備されているのだろう。

 戦艦の艦長らしい男は操縦室の中央前方にある3次元ディスプレイの前でパイプを燻(くゆ)らせて寛(くつろ)いで座っていた。

副官と思われる男はキャップテンシートから少し離れて3次元ディスプレイをじっと眺めていた。

3次元ディスプレイにはナロン星系の全体像が現れていて、ナロン連合艦隊が赤色で表示され3隻の葉巻型戦艦は緑の点で表示されていた。

 三本はそれを見ながら千に言った。

「千さん、たとえ超空間通信で通信できたとしても相手の言葉が分からない限り話はできないですよね。そんな時にはどうするのですか。」

「どうにもできません、先生。」

「やはり相手と会わなければ会話はできないですね。」

「ふふっ、冒険しますか、先生。」

「やってもいいですか。」

「どうぞどうぞ。未知との遭遇、その4です。」

 三本はミミーに巨大翼竜ギギーのミニチュアを作ってもらった。

ロボット兵一小隊の準備ができると、最初にそのミニチュアを相手の操縦室の3次元ディスプレイの上に遷移してもらった。

ミミーはご丁寧に艦長のクローズアップの画像を隅の方に映してくれた。

 ゆったりとくつろいでパイプを楽しんでいた艦長は小さな破裂音と共に3次元ディスプレイを飛ぶように自分の膝に落ちてきた翼竜に凍りつき、口の前に持っていたパイプを落としてしまった。

艦長はパイプより翼竜の方を気にかけたようで、思わず膝から翼竜のミニチュアを払いのけた。

払われた翼竜は今度は横に座っていた副長の足に当たって床に跳ね落ちた。

シートベルトをしていた副長は脚を慌てて翼竜から遠ざけた。

 操縦室に一瞬の静寂が訪れた。

ディスプレイの前に座っていた乗組員は破裂音で音の方を向き、飛ぶように船長の膝に落ちた翼竜を見た。

そして船長と副長のとっさの素早い対応を見た。

だが、誰も笑わなかった。

船長を笑うなんてとんでもないことだった。

 船長は副長の足元に転がっていた翼竜のミニチュアを片手で持ち上げ、じっとミニチュアを眺めてから宇宙船内の全員に命令した。

「全員シートベルトを締めろ。戦闘体勢。全速前進。最大加速だ。急げ。他部署のことは気にするな。とにかく全速前進だ。」

葉巻型戦艦の尾部から凄まじいジェットが噴出され、葉巻型戦艦は速度を上げた。

超弩級宇宙戦艦千夢はそれに合わせて並走を開始した。

 千が言った。

「そろそろ無駄なことだと言うことを教えた方がいいわね。ミミー敵船の加速を止めます。この船を7次元ゼロ位相に戻しなさい。ゼロ位相に戻ったら相手艦をこの船に拘束しなさい。7次元シールドは張ったままです。かわいそうだから相手船の下側から接舷して上げなさい。」

「了解、千様。7次元ゼロ位相です。相手艦を下側から拘束します。」

 突然、葉巻型戦艦の加速はほとんど無くなると同時に床側に強い加速度が生じた。

乗員はシートの背に押さえつけられていた自分の体が急に上から押さえつけられたことからも分かった。

葉巻型戦艦の推進力がどれほど強力だとしても地球と同じ質量を持った宇宙船を一緒に動かすことはできない。

葉巻型戦艦の艦長は唖然とした。

戦艦はまだ全力加速をしているのに加速感は無くなり下方に強烈な加速度が生じた。

 「操舵手、何が起こったのだ。」

船長が怒鳴った。

「分かりません、艦長。何かが船体に取り付きました。本艦はまだ全力加速中ですが加速しません。まるで地上実験の時のようです。地上に固定されての全力噴射と同じです。」

「むむむーっ。これまでか。・・・操艦手、加速を止めろ。生活加速度にしろ。」

「了解、通常加速にします。」

 相手艦のジェット噴射が無くなったのを見て千は言った。

「ミミー、拘束を解きなさい。距離を100㎞に取って並走。隣接7次元に戻しなさい。」

「了解。拘束を解きます。隣接7次元で距離を取ります。」

「それが終わったらロボット小隊を相手艦の操縦室に遷移させなさい。目的は制圧です。テレキネシスで全員を拘束しなさい。」

「了解、千様。」

 葉巻型宇宙船の操縦室の後方に盾と小槍を持った黒色のロボット兵が輪状に出現し、ゆっくり床に降りてきた。

操縦室の全員は何かの力で拘束され、体を動かすことができなかった。

目は動かすことができ、呼吸もできた。

 黒色ロボット軍団の小隊長は輪の中心に持って来たアタッシュケースを転送機に変え、しばらくすると三本が転送機に現れた。

野球帽型の通訳ヘルメットを冠った三本は転送機から出て、ロボット兵の輪の内から言った。

 「私は神聖マロン帝国の三本です。皆さんと話をするためにここに来ました。言葉が通じない者同士では通信機での会話ができないからです。皆さんは私の口から出ている声を耳で聞くことができているはずです。でも意味はわからないと思います。同時に皆さんは私の声を頭の中で聞いていると思います。そして、その私の声は意味が分かると思います。私の意思を皆さんの頭に伝え、それを皆さんの頭が自分の言語で再構築しているからです。みなさんが言葉を発すればその声は私の頭の中で私の言語で再構築されます。もう少し皆さんの科学レベルが上がれば皆さんも作ることができると思います。私が冠っているヘルメットは言葉を持たない動物と会話をするための通訳機です。」

 三本は続けた。

「これから皆さんの拘束を解きます。どうぞ反抗しないでください。敵対行動を取った方は兵士の小槍で消されます。兵士の小槍の威力は大きいのでその際この操縦室は重大な損傷を受けることになります。・・・小隊長さん。拘束を解いてください。」

「了解しました、三本様。」

乗組員の拘束が解かれたようなので三本はキャップテンシートに座っていた船長に言った。

 「貴方がこの戦艦の艦長ですね。先ほどは驚かせてすみませんでした。プレゼントした翼竜に驚いてパイプを落としてしまいました。どうぞパイプを拾ってください。・・・さて船長、最初にお願いがあります。他の乗組員に操縦室に入らないように命令してください。無用な殺生はしたくありません。行動を許可します。」

船長は黙ってキャプテンシートに付いていたマイクを取って言った。

「艦長のランクルだ。誰も操縦室に近づくな。カメラで見ることは許可する。」

 「ありがとう、ランクル艦長。改めて自己紹介します。神聖マロン帝国の三本です。ランクル艦長の所属はどこですか。」

「オンドル国第一艦隊の所属だ。」

「オンドル国はどこかの惑星にあるのですか。」

「・・・ある惑星にあった。」

「正直ですね。と言うことは今は違うのですね。」

「・・・違う。」

「それは貴艦や円盤型の母艦がこの星系に来た原因の一つですか。」

「・・・そうだ。」

「言いにくいようですね。その惑星はまだあるのですか。」

「まだあると思う。」

 「そうですか。頼みがあります、ランクル艦長。」

「何だ。」

「椅子を用意してくれませんか。私は老人です。長く立っていたくありません。」

「そうでしたか。それは失礼した。・・・副長、お前は席を立って何処かに立っていろ。ワシがそこに座る。」

「了解。」

 ランクル船長は副長をどかし、自分が副長のシートに座って三本に言った。

「この部屋に予備の椅子はありません。どうぞ私のシートに座ってください。」

「ありがとう、ランクル艦長。そうさせてもらいます。」

そう言って三本はキャップテンシートに座った。

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