第23話 23、異星人宇宙船の来襲 

<< 23、異星人宇宙船の来襲 >> 

 果たして数日後、ナロン星系外縁に4隻の宇宙船が現れた。

ナロン連合は4隻の宇宙船をすぐさま探知した。

レプチル星の遊星爆弾攻撃を防ぐため星系の周囲には何重にも探知網が廻らされてあったのだ。

それらの宇宙船はレーダーにもレーザーにもはっきりと映し出された。

ナロン連合の防衛司令部は宇宙船の映像からそれらの宇宙船がレプチル星の宇宙船とは違うことをすぐに知った。

 その宇宙船の一つは巨大な円盤型宇宙船で厚切りのハムを挟んだホットケーキのような形だった。

上下の円盤は互いに反対方向にゆっくり回転していたので回転で人工重力を出しており、多数の生物が乗っていることは明らかだった。

大きさと形状から見て上下の円盤は磁気浮上式のリニアモーター駆動されているようだった。

 4隻の宇宙船のうちの残りの3隻は葉巻型で明らかに巨大な戦闘艦だった。

船体には目立った突起物はなかったが船体の各所に様々な切れ目があった。

戦闘時にはそこから様々な砲塔やロケットランチャーが出てくるのだろう。

装甲も厚そうだ。

戦闘艦の形状は明らかにワープ遷移には不向きだったので長距離を移動するにはホットケーキ型の母船に係留されるのかもしれなかった。

 ナロン連合の哨戒艦タロン8号と9号は直ちに未確認宇宙船に向かい、タロン9号が相手宇宙船に近づいて緊急無線でナロン語で誰何した。

「前方の飛行体、こちらナロン連合の哨戒艦。このナロン星系は現在臨戦状態にある。貴艦のそれ以上の侵入を禁止する。所属および目的を明らかにせよ。繰り返す。それ以上は侵入するな。所属および目的を明らかにせよ。」

その呼びかけを受けた4隻の宇宙船はしばらく沈黙していたが、葉巻型宇宙船の一隻が哨戒艦の方に向きを変え、ゆっくりと前進を始めた。

 哨戒艦の乗務員は危険な職業に就いている。

相手艦が自分よりも弱そうなら問題はないが、相手が巨大で強そうだとしても同じように上から目線で誰何しなければならない。」

大戦艦に小型哨戒艇で対峙しなければならない。

 哨戒艦の乗員は近づいて来た葉巻型戦艦の舷側の一部がせり上がり、そこに砲身と思われる物を見たが、それが最後だった。

乗組員は砲身の先がほんのりと明るくなると同時に意識を失った。

哨戒艦の乗務員の体は沸騰して燃え、操縦室は赤熱して火花とともに融解蒸発し、そして哨戒艦は赤熱爆発して四散した。

距離を取ってそれを見ていた2隻目の哨戒艦は相手艦の砲塔がせり出してくるのを見て乗員が耐えられないほどの急加速をして難を逃れた。

そして敵艦が使ったのはおそらくレーザー砲かメックス砲(赤外線変調X線砲、Mex: Microwave Emitter by Coherent X-ray)だと司令部に報告した。

 葉巻型大戦艦は最初から戦いを選択した。

葉巻型大戦艦はゆっくりとナロン星系内部に入って行った。

ナロン星系の防衛艦隊が出動して来るのを待っているようだった。

 超弩級宇宙戦艦千夢の電脳ミミーはナロン連合の哨戒艦が爆発してから1時間後にようやく異星人宇宙船がナロン星系に入って来たのを知った。

1時間とは爆発現場から光が届く時間だった。

惑星がごちゃごちゃある環境で7次元ゼロ位相にある侵入者を見つけることは難しい。

ミミーは現場付近を実時間観察して4隻の宇宙船を発見した。

 「千様、未確認宇宙船4隻がこの星系に入って来ました。ナロン連合の哨戒艦を血祭りにしたようです。」

「どんな宇宙船なの。」

「円盤型の大型宇宙船1隻と葉巻型の大型宇宙船3隻です。戦艦千夢の記憶バンクには該当する記録はありません。」

「まあ、仕方がないわね。古いデーターなんだから。ホムスク人は宇宙に出なくなったし、私も長い間地球にいたし。この星系ではその間に狩猟民族から宇宙戦争ができるまでに発展している。他の星系で巨大宇宙船を造っても当然ね。それでどんな宇宙船なの。

 「はい、千様。どうやら植民目的の宇宙船みたいです。円盤型宇宙船には多数の人間が生活しております。航宙駆動系はワープで推進駆動は同じエンジンみたいです。あれではスピードは出ないですね。・・・残りの3隻の宇宙船は戦艦です。ワープ機構はありませんが強力な推進機構を持っているようです。装甲は分厚いです。宇宙船の各所に砲塔が内蔵されております。形状は光線砲のようですが、そうでないものも多数あります。実際に使用されて見ないと分かりません。」

 「人間が乗った移動用の宇宙船とそれを守る戦艦ということね。どんな姿の人間なの。」

「形は人型で男女の区別がありそうです。マロン人やハロン人のような尻尾はありません。特徴的なものは頭部です。毛髪は羽のような平たい髪の毛になっております。それと男性は頭頂に表皮が寄っています。トサカが萎縮したみたいです。」

「まあっ。トカゲとリスとサルが進化した星系にトリが進化した人間が来たようね。それでは争いになるわね。先生に知らせてあげなくちゃあね。ミミー、予備兵力は現在どれくらいありますか。」

「一個大隊が待機しております、千様。」

「分かりました。ミミー、この星系の外縁に行くかもしれません。準備しておきなさい。」

「了解しました。準備しておきます、千様。」

 千は海岸に行き、海岸の浅瀬で海に浮かんでいた三本に言った。

「先生、この星系にトリから進化した異星人が入って来たようです。異星人は早速哨戒艇を消したようです。」

三本は膝くらいの浅瀬に立ち上がり波打際に行って言った。

「宇宙での戦いが始まるかもしれませんね。千さん、頼みがあります。その現場に連れて行ってもらえませんか。どうなるか見たいんです。」

「了解。お昼ご飯を食べてから行きますか。」

「千さんが良ければ昼食は宇宙で食べたいと思います。早速着替えてきます。」

 三本と千は30分後に超弩級戦艦千夢で異星人が進入して来た空域に向かった。

「神聖マロン帝国はこのままでも大丈夫ですか。」

三本は千が用意した昼食の洋々亭の味噌ラーメンを食べながら聞いた。

「大隊長がいれば大丈夫だと思います。それに7次元シールドを張ってありますから。」

「異星人がトリから進化したってどうして分かったのですか。」

「トサカの跡と髪の毛が羽のようになっているそうです。」

「ふーん。ギギーの頭頂の羽がそんな髪になったんですかね。」

 異星人の戦艦は母船と戦艦2隻を星系外に残したまま単艦でマロン星系内にゆっくり入って行った。

ナロン連合の対応は早かった。

なんどき異星人が超空間ビーコンに導かれてナロン星系に入って来るのかを心配していたからだった。

 戦艦の攻撃から逃げのびた哨戒艦の報告を受け、1時間後には100隻の戦艦からなる第一ナロン連合艦隊が異星人の葉巻型戦艦に向けて発進した。

大艦隊の存在を見せて相手がビビって逃げてくれたら御の字だった。

こちらの戦艦も哨戒艦くらいなら大口径レーザー砲で大穴を開けることが簡単にできる。

 空中戦ならぬ宇宙戦は葉巻型宇宙船の先制攻撃から始まった。

葉巻型宇宙船は船体の各所から砲塔をせり出し、ナロン連合艦隊の先頭の戦艦に向かって赤外線変調X線砲、メックス砲の斉射を行った。

それはナロン連合艦隊の戦艦の射程外の距離だった。

 ナロン連合艦隊の戦艦の遠距離攻撃兵器はレーザー砲で強力な赤外線レーザーを使っていた。

赤外線レーザーは熱線レーザーであり、相手艦の装甲を溶解蒸発させて船内を焼き尽くす兵器だった。

葉巻型宇宙船のメックス砲も同じように相手艦の装甲を溶解蒸発させて船内を焼き尽くす兵器なのだが搬送波にX線を使っているのが異なっていた。

 メックス砲は二つの利点を持っていた。

一つは使っている電磁波の波長が赤外線よりずっと短いことだった。

波長が短い方が拡散は少なくなる。

遠距離から狙っても拡散が少ないので威力はそれほど落ちない。

つまり遠距離から射撃できる。

もう一つの利点は装甲に当たった時の浸透度が深いことだった。

赤外線レーザー砲は装甲を表面から溶かすがメックス砲は少し内部から装甲を溶かす。

すなわち宇宙船船内に早く達する。

 メックス砲の斉射を受け、ナロン連合の戦闘艦は何箇所もの穴が開た後、一瞬で爆発した。

戦闘艦の爆発を見たナロン連合の戦艦隊は環状に散開し、大きな穴が開いたコーン状に展開した。

敵からの集中攻撃受けにくくし、逆に敵に集中攻撃をかけやすい配置だった。

言ってみれば地上の戦いでの鶴翼の配置になった。

 葉巻型戦艦はメックス砲の斉射後直ちに高加速で公転軌道面から直角方向に加速した。

鶴翼の陣に対しては直角方向に移動することが効果的だ。

遠くに開いた艦は距離が遠くなって攻撃できないし、コーン面に展開した艦は味方艦が邪魔になって攻撃できない。

結局、鶴翼の翼の先端の艦だけが敵艦と対戦しなくてはならなくなり、通りすなにメックス砲の斉射を受けて真っ赤に溶けて爆発した。

葉巻型戦艦のこのような攻撃はその加速が大きいことに依っていた。

 葉巻型戦艦の行動は二つの目的を持っていた。

一つは母船に敵の光線兵器の射線を向かわせないためだった。

戦艦2隻が守っているとは言え、母船の装甲は戦艦と比べると薄い。

流れ弾に当たったら甚大な損害を被るのは確実だった。

 もう一つの目的は宇宙空間の戦闘を星系内の深部で起こすことだった。

星系内深部ではワープは使えない。

加速に勝るものが有利になるし、惑星や恒星の衝も利用できる。

相手の惑星を背後にしたら敵は簡単には攻撃できなくなる。

下手をすれば流れ弾が自分の星に当たるからだ。

 コーン型陣形の端の戦艦を爆破させた葉巻型戦艦はコーン陣形の外に出て反転し、コーンの最狭部の艦に向かって進み、5発の通常大型ミサイルを発射した。

もちろん光より遅い速度のミサイルが敵船に当たるとは思っていなかった。

相手がどのようにしてミサイル攻撃を避けるかを知りたかったからだ。

ミサイルは敵艦に近づく前に相手のレーザー砲で粉々に破壊された。

 それを見た葉巻型戦艦はその戦艦に対してメックス砲の斉射を浴びせた。

ミサイルが爆発した距離が敵戦艦の光線砲の射程距離ということだったし、その距離は自艦のメックス砲の射程距離よりもずっと短かった。

コーンの最狭部の戦艦は真空の宇宙空間ではあったが火を吹いて爆発した。

 ナロン連合艦隊は大混乱に陥った。

鶴翼の陣を敷いて敵艦を包み込もうとしたが敵艦は大加速で鶴翼から脱し、回り込んで最奥部の戦艦を攻撃したのだった。

 ナロン連合艦隊の司令官は全戦艦に最高速での前進を進命じた。

まず全速前進をして戦域から離脱して体勢を立て直さなければならなかった。

それと艦隊を密集陣形にしなければならない。

相手戦艦が射程の長い光線砲を持っているのなら、こちらは集中攻撃をかければいい。

たとえ光線砲の威力は落ちても集中させれば威力は何十倍にもなるはずだ。

 それに進行方向には相手の母艦と思われる宇宙船がある。

それを守っている戦艦は居るが、相手は母艦を守らなければならないから大胆な攻撃体勢は取れないはずだ。

そんなことをすれば肝心の母艦が攻撃される。

海戦でもまず航空母艦を叩くことは鉄則だ。

 ナロン連合艦隊の司令官は攻撃をかけてきた戦艦が最後部の戦艦を攻撃した後、ナロン星の方に向かったことを知っていた。

だがそれは相手の罠のような気がした。

ナロン連合艦隊をナロン星の近くに導けば戦いは有利に展開できる。

ナロン連合艦隊の司令官は敵艦一隻が母国に向かったことを緊急連絡した。

ナロン星に電波が着くのは1時間後だが、敵艦はもっとかかる。

第二ナロン連合艦隊が何とかしてくれるだろう。

 第一ナロン連合艦隊司令官の目論見は外れた。

連合艦隊が密集陣形で母船に近づくと相手の母船は星系外に加速を開始しワープして消えてしまった。

異星人のリーダーは思った。

別にこの星系に居る必要はない。

星系の位置は分かっているのだから、しばらく経ってから再び来ればいい。

その間に3隻の戦艦がこの星系を制圧すればいいことだ。

どのみちこの星系の軍事力を奪わなければならない。

相手が弱ければそれでいい。

相手が同等だったら逃げればいい。

不用意に超空間ビーコンを出している惑星ならそれほど優れた軍事力を持っているとは思えない。

 ワープで消えた宇宙船を探すことは不可能だった。

残った2隻の葉巻型戦艦は左右に分かれ、連合艦隊1と戦うことなく星系内部の方に加速した。

連合艦隊は二つに別れず、片方の戦艦を追って星系内に方向を変えた。

これから星系内での戦いが始まるのは明らかだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る