第21話 21、マロン星人ニュート 

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 その時再び大隊長から連絡が入った。

「千様、再びパトロール20機が近づいて来ます。どうやら近くに基地でもありそうです。どうしましょうか。」

「先生のたった一機に空中戦で3機が撃墜されたので仕返しに大群で来たのかしら。大隊長、全機を捕獲できますか。せっかく綺麗な場所なんだからこれ以上汚したくはない。」

 「無傷で捕獲できます、千様。搭乗員はどうしましょうか。」

「近くに島はありますか。」

「10㎞先に小島があります。」

「じゃあそこに投げ落としなさい。死なない程度の高さからです。」

「了解しました、千様。全機を捕獲し海岸に並べます。」

 大隊長は100小隊のうちの2中隊、20小隊にパトロール艇の拿捕(だほ)を命じた。

拿捕を命じられた20人の小隊長は色々な方法でパトロール艇の拿捕を実行した。

パトロール艇には5名の乗員が乗っていた。

 ある小隊はパトロール艇に10体がへばりついた。

兵士ロボット1体の質量は100トンあったのでパトロール艇は砂浜に押し付けられた。

タービンをどれだけ回転させようとジェットをどれほど吹かそうと機体は動かなかった。

小隊長はパトロール艇の操縦室に遷移して乗員を一人一人機外に遷移して運び、最後に一人残った乗員に「命が惜しければエンジンを切って船外に出ろ」と脅した。

パトロール艇を持ち上げて運ぶのは容易だった。

 乗員を離れ小島に運ぶのも遷移で一飛びだった。

反抗的だった乗員の場合は遷移しないで後ろからバンドを持って吊り下げたまま飛行した。

そして時々バンドを離して落下させる場合もあった。

 ある小隊は狭い操縦室に3体の兵士が入り、テレキネシスで3名の動きを止め、残り二人を腕力で拘束し、脅し、そして海岸の砂地に着地させてから乗員5人を小島に連れて行った。

またある小隊は乗員のシートベルトを外して一人一人抱えて遷移し、操縦していた残った一人にパトロール艇を砂浜に着陸させた。

とにかく20分間余りで20機のパトロール艇は海岸の砂浜にきっちりと並べられた。

目印にはちょうどいい。

自爆装置が取り付けられている可能性があるのでパトロール艇には以後は監視のロボット以外は誰も近づかなかった。

 「あのパトロール艇の横にテーブルとパラソルを出してナロン国の首脳と会談するのは流石に悪趣味ですよね、千さん。」

三本は樹冠の上に浮いていた千に言った

「それも面白いかもしれませんよ、先生。」

千が答えた。

 ニュートは森の端まで行ってパトロール艇がロボットによって持ち上げられ砂浜に並べられるのを見、そして再び搭載艇の近くに戻った。

三本と千は再びニュートの前に行った。

「ニュート、パトロール20機を分捕った。これでこの辺りの哨戒は少なくなるだろう。」

「すごいな、三本。パトロールは何もできなかった。」

「まあ、不意打ちだったからな。簡単に制圧できた。」

 「これでここは三本の小さな国になった。国の定義からそうなる。」

「国の定義か。すごい発想だな。僕は知らない。千さんは知ってますか。」

「居住できる領域があり、その領域を外部の干渉から防ぐことができることだと思います。要するに土地と強い軍事力を持った領域だと思います。」

 「ニュートの定義とはどんなものだい。」

「住民と領土と主権を持っている政治形態だ。主権の行使には軍事力や外交などが必要だ。」

「なるほど。強い軍事力があれば国の中に国を作ってもいいわけだ。あとは領土戦争だな。」

「ナロン人はマロン人の国の中にナロン人の国を作った。強い軍事力を持っていたからだ。」

「確かにそういう定義ならここは小さな国になるな。超弩級宇宙戦艦千夢が軍事力というわけだ。」

 「そこにある搭載艦は大きい宇宙船だが搭載艦の母艦はどこにいるのだ。」

「この星の度量衡はわからないがこの星の直径くらいの上空に留めてある。」

「母艦は大きいのか。」

「搭載艦の15倍ほどの長さだ。」

「強力そうだな。しかも別位相にいるんだろ。」

「そうだ。」

「それがあればこの星を支配できるな。」

 「・・・支配か。・・・一時的にはできるかもしれないな、ニュート。」

「どうして一時的なのだ。」

「僕たちは長くこの星に留まることはない。『国』の定義では『住民』が必要なんだろ。住民が居なくなれば『国』は成立しない。」

「そうだな。・・・残念だ。」

 「・・・ニュート。超空間通信機を知っているか。」

「名前は知っているが実際の物は見たことがない。おそらく7次元を使うんだろうな。」

「ナロン人の星から強力な超空間ビーコンが出ている。我々はそれを目指してこの星に来た。何が予想できる、ニュート。」

「第二第三の三本が来るだろうな。顔も姿も考え方も三本とは違う異星人が来るだろうな。」

 「そうだな。変化が起こる。ナロン連合はそれを歓迎すると思うか。」

「三本みたいな異星人なら歓迎するかもしれないがナロン人のような異星人なら歓迎しないだろうな。国を乗っ取られて皆殺しにされたり奴隷にされたりするかもしれない。」

「それはどうも。同じことをナロン連合も考えたようだ。ナロン連合の首脳が会談を申し込んで来た。ナロン星に行くのが嫌だったから景色が美しいマロン星で会談をすることにした。それでここに来たわけだ。数日後にはナロン連合の首脳がここに来るだろう。」

 「この辺りは騒がしくなるな。」

「そう思う。だがニュートの考え方は面白い。ナロン連合のマロン自治星の中で会談するのではなく『神聖マロン帝国』の国内で会談しても面白いと考えている。」

「三本もとんでもない発想をするのだな。『神聖マロン帝国』か。」

「どうせ国を作るのなら華々しい名前がいい。」

「神は三本だな。」

 「マロン星には宗教はあるのか。」

「もちろんあった。」

「どんな宗教なのだ。」

「宗教はたくさんあった。人がたくさんいれば、たくさんの宗教が生まれる。それはそれで健全な姿だ。一つの宗教しかない人間集団は恐ろしい。」

「ニュートは哲学者だな。一番たくさんの人が信じている宗教は何だ。」

「万物に、神が宿っているという宗教だ。」

 「僕の星にも同じような宗教がある。人にも動物にも植物にも大地にもみんな神が宿っていると信じる宗教だ。分け隔てがない。だが、僕の星の主な宗教はいくつかあるが全て人が一番えらくなっている。天国には人間しか行けない。たとえ可愛がったペットでも一緒に連れて行けないんだ。」

「遅れた宗教だな。それでは争いが生ずる。寛容は仲間内だけだ。」

「実は僕もそう思っているんだ。」

 その時ミミーから連絡が入った。

「千様、タロン5号から連絡が入りました。連絡を求めております。タロン5号はマロン星の衛星軌道に入っております。」

「了解、ミミー。そのまま待って。先生と相談する。・・・先生、どうしましょう。」

「もちろん神聖マロン帝国で会いましょう。僕が話してもいいですか。」

「よろしく、先生。」

 「ミミーさん、僕が話します。タロン5号と話ができますか。」

「このまま話しても大丈夫です、三本様。」

「了解。・・・タロン5号のルロス艦長。こちら超弩級宇宙戦艦千夢の川本三本。話をしたいと連絡を受けた。何でしょう。」

「こちらタロン5号艦長ルロス。三本さんはどこにおられるのでしょうか。」

「マロン星の地表です。位置は超弩級宇宙戦艦千夢のほぼ真下。海岸にパトロール艇20機が並べられている場所です。確認できますか。」

 「・・・確認できました。どうしてパトロール艇が並んでいるのでしょうか。」

「いきなり銃撃されたので拿捕しました。この他、2機のパトロール艇は消され、3機のパトロール艇は私に撃墜されております。これから敵のパトロール艇の基地を殲滅するために出発しようとしたところです。」

「なぜパトロール艇は銃撃したのでしょうか。」

「分かりません。私がお宅の首脳と会談する場所と考えていた美しい海岸で休んでいたら突然銃撃されました。警告なしでした。」

 「何かの間違いが生じたようです。」

「そうかもしれません。とにかくナロン連合の首脳との会談は卑怯な攻撃に対する落とし前をつけてからしようと思います。ルロス艦長はパトロール艇の基地の人間に基地から避難するように忠告したほうがいいと思います。完全に殲滅しますから。」

「何かの間違いです。」

「そう思います。それでルロス艦長のお話は何でしょうか。」

 「・・・三本さんに大統領との会談はこの星ではなくナロン連合の首都で行うようにお願いすることでした。でも状況が変わったようです。もう一度主星に帰って相談しようと思います。」

「了解しました。でも我々はこの星系から居なくなるかもしれません。長くは待てません。」

「了解。」

 しばらくして千はミミーに言った。

「ミミー、パトロール艇の基地が分かりますか。」

「もちろん既に特定してあります、千様。」

「大隊長にその位置を知らせておきなさい。そしてその周辺にロボット兵を近寄らせないように指示しなさい。近寄ると巻き添えになります。えーと、超弩級宇宙戦艦千夢でしたっけ、セム号から分子分解砲での攻撃を行います。」

「了解、千様。」

 三本は応答を聞いていたニュートに言った。

「ニュートはパトロールの基地の場所を知っているか。」

「知っている。ここから歩いて一日の距離だ。」

「基地の近くに仲間はいるのか。」

「絶対にいない。基地の近くは危険だ。森の中にいろいろな仕掛けが隠されている。それに基地の近くではナロン人は森に入ってくる。」

 「分かった。聞いていた通り、これからパトロールの基地を消す。直径はそうだな、10㎞くらいかな。円形で深さがそうだな、0.2㎞ってとこかな。1㎞というのは、えーと、普通に歩いて15分の距離か。・・・ダメだ、ニュート。マロン人の度量衡が分からないから説明できない。うーむ。わかった。水平線までの距離のおよそ2倍だ。」

「大きさはよく分かった。凄さもな。要するにナロン人が肝を冷やす大きさなんだろ。」

「本当(ほんと)にニュートは哲学者だな。とにかく誰も近づくな。原子に変えられてしまう。」

「分かった。森に帰って仲間に知らせておく。三本、今日は久々に楽しい思いをさせてもらった。ありがとう。」

ニュートは左腕を上げながら森の奥に向かって歩き出した。

振り返らなかった。

 ニュートが帰って1時間後、マロン星に直径10㎞、深さ200mの穴が開いた。

穴の縁(ふち)は海岸線に近かったので暫くすると穴と海との境が崩れ、遠浅の海から海水が穴に流れ込んだ。

遠浅の海岸だったので最初は注ぎ込む海水は少なかったが、次第に海水の通り道の地盤は削られ、泥色の海水が大量に注ぎ込むようになった。

その頃には穴には既に十分な海水が入っていたので穴の縁に大きな津波は起こらなかった。

5時間後にはその海岸には円形の泥色の波のない静かな湾が出来上がっていた。

 分子分解砲によるパトロール基地への攻撃の様子はタロン5号の他に多数の宇宙船やマロン星の治安警察の飛行機によって撮影されていた。

それらの艦船、航空機には異星人の攻撃に干渉するなとの厳重な通達が出されていた。

要するに基地が攻撃されても防御するなということだ。

 その通達は実際に起こった事を見れば妥当な通達だった。

一瞬で靄(もや)が発生し、靄が晴れると円形の大穴が出来上がっていたのだ。

基地に残っていたら一瞬で消されていた。

そしてその推論の妥当性は攻撃範囲を過小に評価して近づきすぎた十数機の飛行機が一瞬で消え去ったことからも明らかだった。

 ナロン連合の防衛司令部は直ちに異星人の攻撃を解析した。

そしてレプチル星の状況を撮影した無人偵察機の映像と比較した。

レプチル星では北極から南極に直径10㎞の円形の穴が開けられ、惑星核の重金属が吹き出していた。

マロン星では直径10㎞深さ200mの円形の穴が開けられた。

結論は簡単だった。

異星人は惑星そのものを消すことができる。

そして第三有人惑星のナロン星はそんな異星人を今も大宇宙から呼び寄せているのだ。

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