第20話 20、パトロール機との空中戦 

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 三本と千はその男が太く短い尻尾を持っていたことからこの星の原住民であると思った。

二人は男の前の空中50㎝にスカイカブを浮遊させて言った。

「こんにちわ。僕の言葉が聞こえるかい。」

男は驚いた。

変な乗り物の男が話しかけ、その男の声が言っていることは分からなかったが、頭の中で理解できるその男の声が聞こえた。

「聞こえる。」

「僕の名前は三本。さ、ん、ぼ、ん、だ。君の名前は何と言う。」

「ニュートだ。」

 「ニュートって聞こえた。『ニュート』でいいのか。」

「それでいい。『さんぼん』でいいのか。」

「それでいい。ニュートはこの星の原住民か。」

「そうだ。」

「僕たちはこの星の人間ではない。この星に遊びに来ている人間でもない。夜の空の星から来た人間だ。」

「宇宙人か。」

 「宇宙を知っているのか。」

「知っている。だが行けない。」

「宇宙に行ける宇宙船がないからか。」

「それもある。」

「宇宙に行けない他の理由は何だ。」

「宇宙船を作らせてもらえないからだ。」

「この惑星に遊びに来ている人間が禁止しているのか。」

「そうだ。」

 「君はこの星に遊びに来ている人間を何と呼ぶのだ。」

「『よそ者』だ。」

「よそ者の言葉は分かるのか。」

「分からない。」

「そうか、かわいそうにな。」

「よそ者に会ったことがあるのか。」

「ここにくる前に出会った。『ナロン連合』とか言っていたから『ナロン人』とでも呼ぶのかな。よく分からない。」

 「『ナロン』は二つ向こうの軌道を回っている惑星の名前だ。」

「この星の名前は何と言うのだ。」

「マロンだ。有人惑星は太陽から順番にマロン、ハロン、ナロンと言う。」

「この星系はナロン人が支配しているのだな。」

「そうだ。ハロン人は農奴になっている。」

「それだけよく星系を知っているとは驚いたな。以前はマロン文明があったのだな。」

「そうだ。ナロン人が来るようになってマロン文明はなくなった。」

「征服されたのだな。」

「そうだ。」

 「かわいそうにな。ナロン人は今でも危険なのか。」

「危険だ。見つかれば殺される。巡回パトロールに森の外で見つかったらまず助からない。」

「だから森に住んでいるのだな。」

「そうだ。パトロールは森の中には入ってこない。」

「なぜ入ってこないのだ。」

「森は密で複雑だ。」

「なるほど。」

 「黒い透明な物はお前の宇宙船なのか。」

「そうだ。あれは搭載艦だ」

「どうして向こう側が見えるのだ。宇宙船の内部が見えないから単に透明と言うわけでもない。」

「なかなか鋭いな。あの宇宙船は隣接7次元に存在している。」

「隣接7次元か。久々に聞いた言葉だ。幽霊の次元だな。この世界の位相は何と呼ぶのか。」

「驚いたな。そんなことも知っているのか。この世界の7次元位相は『ゼロ位相』と呼んでいる。」

「7次元ゼロ位相か。適切な名前だ。」

 「ニュートは勉強したのか。」

「昔した。だが今では無駄な知識だ。」

「この星系でこんな話ができるとは思っていなかった。すまなかった。君と話をしたいために兵士に君の動きを拘束させてしまった。・・・千さん、拘束を解いてもらってください。」

千は「了解」と言って右手をあげた。

ニュートは急に脚が動けるようになって数歩歩いてから三本に言った。

 「兵士も辺りにいるのか。」

「1000名ほどの兵士が森に潜んでいる。」

「気がつかなかった。」

「まあな。それこそ本当の透明だから見えない。」

「強いのか。」

「兵士だから強いと思う。まあ負けないだろう。」

「それならパトロールに出会っても安心だな。」

「そう思う。」

 「お前が乗っている乗り物も隣接7次元にいるのか。透けて見える。」

「隣接7次元にいる。」

「森の木々も障害にならないのだな。」

「そうだ。」

「海に入っても濡れないのだな。」

「濡れないが長時間は潜れない。」

「ふうむ。光も空気も一部は通るようだな。不思議な位相だ。」

「そう思う。僕にもよく分からない。」

 その時、大隊長からの連絡が入った。

「千様、お話のパトロールらしきもの2機が近づいて来ます。どうしましょうか。」

「相手が敵対したら消しなさい。それから1小隊を実体に戻し、ニュートさんの周囲を盾で囲み安全を図りなさい。」

「了解。敵対したら消滅します。」

 千はニュートに言った。

「ニュートさん、パトロール2機が近づいて来ました。ロボット兵士がニュートさんを守ります。何者も通さない盾でニュートさんを囲みます。驚かないでくださいね。」

「分かりました。ありがとうございます。でも三本さんたちは盾で防がなくてもいいのですか。パトロール艇の銃は結構強力です。」

「心配してくれてありがとう。でも銃弾は私たちを通り過ぎますから。」

「そうでしたね。隣接7次元に居るんですものね。便利です。」

 パトロールとは大きなものではなかった。

20mほどの長さで穴の開いた三角翼を持ち、穴の中にはタービン型のローターが回っていた。

垂直尾翼も付いているから高速飛行もできるようだ。

パトロールは森と海岸線の間を100mほどの高度を取って急速に近づいて来た。

目標は森の上から頭を出している搭載艦らしい。

おそらく森の中には諸所に監視装置が置かれているのだろう。

 パトロールは搭載艦を通り過ぎてから急上昇から横反転をし、上空から機銃掃射を始めた。

機銃掃射は3発の弾丸を撃ち出して止まった。

パトロールはロボット兵の分子分解銃の斉射を受けて分子に分解されたからだった。

大隊長から「パトロール2機を消しました」と報告がなされた。

「めちゃくちゃだな。警告もなく撃って来た。」

三本は呆(あき)れたように言った。

「どうやらこの星ではナロン人は徹底的にマロン人を粛清しようとしているみたいですね、先生。」

 「千さん、ナロン人はパトロールからの連絡が途絶えたから調査隊が来るはずです。今度来たら戦ってもいいかな。死なないようにするから怪我をしたら治療してください。」

「ふふっ先生。空中戦をしたいのですね。」

「機銃による空中戦なら危険はないと思います。弾を当てられたら反省してあとはロボット兵に任せます。」

「了解、先生。」

 ニュートは二人の会話を聞いて言った。

「三本はパトロールと戦うつもりか。」

「そうだ。僕は冒険をするためにこの星に来た。」

「そんな小さな飛行機で戦うつもりか。」

「そうだ。結構強力な兵器を積んでいる。」

「パトロールを一瞬で消した武器だな。」

「それも付けているがそれは使わない。戦いは相手と同程度の武器で戦ってこそ勝利の美酒を味わうことができる。」

「羨(うらや)ましい立場だ。」

 果たして10分後に3機のパトロールが同じコースを高速で近づいて来た。

三本はしっかりとシートベルトを締め直し、上空に飛び上がった。

千は樹冠まで上がり三本を見ていた。

ロボット小隊は相変わらず盾でニュートを守っていた。

他のロボットの大部分は空中に姿を隠してあたかも観客のように浮遊していた。

大空コロシアムでの三頭の大牛と一人の闘牛士の戦いだ。

 三本は相手の正面からまっすぐ近づき5㎜機関銃を2秒間撃ち続けてから急上昇しながら反転し相手の動きを見ながら相手の次の動きを想像した。

5㎜機関銃での射撃はこちらの意思を伝えるためだった。

5㎜機関銃の装弾量は100秒間分だ。

相手は左右と上に散開すると思ったのだが3機のパトロールはそのまま飛び続けた。

変な飛行体にいきなり銃撃を食らって動転したのかもしれなかった。

自分たちはいつもそれをやっているのだが逆にやられると動転するらしい。

 三本は容赦なく少し遅れていた3機目のパトロールの背後上空の位置に来て間近から20㎜機関砲を1秒間撃ち込んだ。

機関砲の弾は10秒間分だ。

機関砲弾はパトロールに100個くらいの穴を開け、パトロールは1秒後に爆発した。

三本は再び反転上昇し、頭上方向にいる眼下の相手機の動きを観察した。

2機のパトロールは左右下方に別れて一旦逃げてから地表間際で急上昇した。

三本はその動きを予測し、右に行ったパトロールの背後になるように加速し、相手が上昇から水平飛行に入ろうとした時に相手の後部下側から機関砲の1秒射を加えた。

相手機はすぐさま爆発して墜落して行った。

 3機目のパトロールはそれを見ていたはずであり、三本より上空にいるはずだった。

三本はそのまま加速し戦闘空域から一旦外れてから機体を急上昇させてスパイラル大ループに入り、時々機体を反転させてブラックアウトやレッドアウトを避けながら相手機を観察した。

相手機が上昇して近づいて来ることを認識した三本はループの頂上で相手機の方に機体を向け、上空からスパイラルをかけながら相手機に突っ込んだ。

相手からの機関銃の銃弾は螺旋の中心、三本の頭上遥かを通り過ぎて行った。

相手機が衝突を避けて左上に上昇しようとした時、三本は相手機の下部に機関砲の1秒射を加えて相手機の下を通り過ぎた。

相手機は爆発もなく空中分解して四散した。

 三本はゆっくりと千のところに戻って来た。

「へへっ、千さん。3機撃墜。」

「お見事でした、先生。」

「最初の一機はオマケみたいものものですけどね。」

「先生は本当に機体の状況が分かるのですね。」

「スカイカブを使えば航空自衛隊の戦闘機にも勝てるかもしれない。」

 三本と千はニュートのところに戻った。

「ニュート、パトロール3機を撃墜した。パトロールの機体は脆(もろ)い。20㎜機関砲で簡単に穴が開いた。」

「すごいな。その飛行機はなんて言うんだ。」

「スカイカブって言う。意味は『空の小狐』だ。ニュートは狐を知っているのか。」

「知っている。森にはたくさん住んでいる。」

 「ふーん。ニュートが知っている森の動物を頭で想像しながら教えてくれないか。想像しないとうまく通訳ができないんだ。」

「一番強いのは熊か虎だ。だが群れを作る狼も強い。それらの餌もたくさんいる。狐はその一つだ。もちろん狐の餌もいる。餌の兎(うさぎ)や鼠(ねずみ)もいる。」

「ふーん。ほとんど哺乳類だな。鳥はいるのか。」

「大きな鳥はいない。大きい鳥なら梟(ふくろう)が最大だ。」

「爬虫類はどうだ。」

「大きな爬虫類はいない。どれも小さく鳥の餌になっている。」

 「ニュートは宇宙に出たことがあるのか。」

「ない。」

「そうか。ここから15光年離れた惑星には巨大な爬虫類が住んでいる。恐竜だ。高さはそうだな、この森の木の高さの三分の一くらいだ。空を飛ぶ翼竜もいる。巨大な翼竜だ。そんなことは知っているか。」

「知らない。だがこの惑星には大昔にそんな恐竜が住んでいたことは知っている。」

「そうか。隣接7次元を知っている文明があったからな。歴史もよく研究されていたのだろう。」

「三本はよく知っているな。」

「この方面にはまだ初心者だよ。」

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