第19話 19、美しい第一有人惑星
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ルロス艦長は操縦席の横から少し離れてから三本に言った。
「安心したより驚きました。川本三本さんはこの操縦室の中を見ることができたのですか。」
ルロス艦長が言った。
「見ることができたからロボット兵を遷移させることができたのです。」
「何処にも何でも送り込むことができるのですね。」
「いいえ。それはできません。この遷移はその空間の一点に強引に押し込む方法なので、例えば土の中や狭い場所に大きなものを遷移させることはできません。空中か水の中だけですね。それと宇宙空間も可能です。」
「凄いことです。」
「まあ、皆さんが狩猟生活を送っていた頃、大宇宙の宇宙地図を完成させていた種族ですからね。・・・ここに来たのはルロス艦長にお願いがあったからです。」
「何でしょうか。」
「第一惑星と第二惑星の原住民の姿を私に見せてくれませんか。できれば大昔の想像図と現在の姿の両方を見てみたいのです。」
「容易(たやす)いことです。」
そう言ってルロス艦長はコンピューターコンソールの前にいた部下に大辞典の挿絵をプリントアウトするよう命じた。
その乗組員はパネルを操作し、プリントアウトされた数枚の紙を取り出し、ゆっくり椅子から離れ、黒いロボット兵を横目で見ながら艦長のところに行き、プリント数枚を渡した。
ルロス艦長はそのプリントを見てから満足そうに三本に言った。
「これで分かると思います。」
そう言って船長はプリントを差し出した。
三本の横に立っていたロボット小隊長はプリントを受け取るために前に出ようとした三本を軽く遮(さえぎ)り、自分がロボットの輪から出てルロス艦長からプリントを受け取り、輪の中に戻ってから三本にプリントを渡した。
相手に敵対的な雰囲気を感じたのかも知れなかった。
ロボット小隊長はルロス艦長に言った。
「ルロス艦長、失礼があったら詫びる。人間の免疫のためだ。この部屋にあるかもしれない悪い病原菌にはなるべく三本様を触れさせたくなかった。」
ルロス艦長はロボットが自国語を流暢(りゅうちょう)に話したことに驚いた。
「なんてことだ。もう自由に話せるようになったのか。」
三本はそれを無視し、プリントを見終わってから言った。
「ありがとう、ルロス艦長。よく分かりました。確かにトカゲとリスとサルを連想させる原住民です。それが進化するとみんな似たような姿になるのですね。不思議なことだ。なぜだろう。ルロス艦長はその説明ができますか。」
「いや、そんなことは分からない。」
「周囲を警戒するより距離が分かる方が便利になったのかな。分からない。・・・いや、ルロス艦長。これで引き上げます。プリントありがとう。」
そう言って三本はプリントを持って転送機に入り、プリントを持った左手を上げて挨拶しながら消えた。
ロボット小隊長は転送機をアタッシュケースにし、他の兵士と共に一瞬で消えた。
操縦室には陰圧による小さな破裂音が生じた。
「なんてこった。」
ルロス艦長は小声でつぶやいた。
相手はこの操縦室を見ることができる。
壁の振動を解析すれば声を聞くことができるはずだ。
当然、他の場所も見ることができる。
ベッドで寝ているところも見ることができる。
そして爆弾でも毒ガスでも自由に送り込むことができる。
こちらの弾は通り過ぎて相手の弾は当たる。
そんな相手とまともに戦えるはずがない。
三本は宇宙船に戻ると千に言った。
「千さん、ちょっと顔を見せて来ました。多少の脅しも入っていました。」
「ふふっ、ご苦労様でした、先生。食事にしましょうか。お昼ご飯はチャーハンです。」
「ありがとうございます、千さん。チャーハンは好物です。」
「だんだん先生の好みが分かって来ました。カレーライスとチャーハンと豆腐ですね。」
「調理が楽でしたから。」
「今回は龍王飯店のチャーハンです。」
「戦争って不思議ですね、千さん。レプチル国の哨戒艦のオービス艦長とナロン連合の哨戒艦のルロス艦長に会いました。どちらもそれほど悪い人間ではないと感じました。」
三本は龍王飯店のチャーハンを千と一緒に食べながら言った。
「そうですね。レプチル国には不意打ちの核攻撃をする人間もいたし、ナロン連合には第一惑星の住民を皆殺しにした人間もいたわけです。ホムスク星でもそんな人はたくさんおりました。万様も私も数えきれない人間を殺して来ました。世の中ってそんなものです、先生。」
「そうやって人類は進化してゆくのですね。鳥の群れの方向が常に変わりながらも全体として進んで行くみたいものですね。紆余曲折(うよきょくせつ)をしながら全体としての方向が定まって行く。」
「集団としての特徴ですね。」
「私は集団についての思考基準に二つの拠(よ)り所を持っているんですよ、千さん。」
「どんな拠り所なのですか、先生。」
「一つはヘルマン・ハーケンが唱えた共同作用に神の力を加えたもので、もう一つは生命の階層についての考え方です。」
「どちらも知りません。」
「最初の協同作用とは例えば鳥とか魚の集団とかレーザー発振で起こる協同作用です。鳥とか魚の集団は仮のリーダーが生じて集団はそれに従い、レーザー発振では励起状態にある分子の最初の一つが自然放出するとそれにつられて誘導放出が起こります。どれも仮のリーダーが居るのです。ヘルマン・ハーケンはそれを共同作用(シナジェティクス、Synergetics)と言っているのですが、私は仮のリーダーの選出には神の関与があるはずだと考え、協同作用(シナジェスティクス、Synergestics)と言っています。アルファベットのsを一つ加えるだけです。」
「勉強してみます。もう一つの生命の階層とはどんな考えですか。」
「それは毎日細胞を培養していて思っていたことです。培養細胞は必死に生きようとしており細胞分裂して必死に仲間を増やそうとしているのです。でも細胞が個体の一部に組み込まれるとアポトーシスで自殺しなければならない場合もあるし、分化して発展を止められることもあります。そんなえらい個体も種全体の発展のために不要なものとか不良なものは殺されます。個々の細胞は第一階層の生命であり、人間のような個体は第二階層の生命であり、人類のような種は第三階層の生命だと思っていました。上の階層の都合で下の階層の構成員は簡単に生命を絶たれるのです。その考えを敷衍(ふえん)させれば大宇宙全体では第四階層の生命も考えられますね。大宇宙の存在のためには種の絶滅をさせるのです。」
「それに関してはよく分かります。大宇宙の存在のためには人類を絶滅させる必要があるかもしれないということですね。それがビッグクランチというわけですね。」
「そういうことかもしれません。殺されるのは嫌ですがね。」
「私もそうです。」
超弩級宇宙戦艦千夢が第三有人惑星から1光秒の位置に来た時、ナロン連合宇宙哨戒艦タロン5号のルロス艦長から連絡が入った。
「超弩級宇宙戦艦千夢。こちらナロン連合宇宙哨戒艦タロン5号艦長ルロスだ。ナロン連合の首脳は川本三本さんと会談することを望んでいる。会談の方法に要望はありますか。」
三本はそれを聞いて千に言った。
「千さん、ナロン連合の首都で会うのはなんとなく堅苦しいですね。リゾート地で会うことにしてもいいですか。」
「先生の思う通りになさってください。」
「そしたら美しい海と森を楽しみますか。恐竜はいないようですけど選挙権がない原住民がいるようです。」
三本は無線で答えた。
「ナロン連合宇宙哨戒艦タロン5号ルロス艦長。こちら超弩級宇宙戦艦千夢の川本三本。会談は第一有人惑星とする。そこが一番綺麗そうだ。場所はまだ決まっていない。これから現場に行って美しい会談場所を見つけようと思う。これから有人第一惑星に向かう。ルロス船長は着いて来てもいい。」
そういって三本はミミーに言った。
「ミミーさん、僕がミミーさんに命令するわけにはいかないけど第一惑星に行ってくれないだろうか。行って美しい場所を見つける。海と森が近い場所がいい。異星の海に浸(ひた)るのも冒険だと思う。恐竜のいた星の海には入りたいとは思わなかったけどリゾート惑星の海は安全だと思う。」
「了解しました、三本様。千様は三本様の思う通りにと申しました。第一惑星の昼側に遷移します。」
超弩級宇宙戦艦千夢は一瞬で第一惑星まで遷移した。
ナロン連合宇宙哨戒艦タロン5号は着いてくることができなかった。
惑星や衛星が多数ある星系内ではワープは危険で使えなかった。
それにワープをするためには光速に近い高速を出さなければならない。
そんな高速を出すならワープを使わなくても目的地に行ける。
タロン5号は第一惑星に向かった。
第一有人惑星は美しかった。
遠方から見ても綺麗だったが近くから見ても綺麗だった。
青い大洋があり、白い雲があり、雪を抱いた高い山があり、透明な薄緑の湾のある小島が点在し、穏やかな波を作る遠浅の海岸線もあった。
三本は気に入った場所を見つけると千に「あそこにしよう」と言った。
千は超弩級宇宙戦艦千夢を高度30000㎞の静止軌道辺りの高度に止め、ロボット兵士1111体を地表に降下させた。
ロボット兵の1大隊規模で周辺の警備をするためだ。
三本と千は搭載艦で森の空き地に降りた。
この星の樹木は恐竜のいた星とは違ってそれほど高くなかったので直径60mの黒色の搭載艦は上部を森の樹木の上に見せることになった。
111体のロボット兵士の1中隊は地上数メートルに浮遊した搭載艦の周囲を警備した。
残りの1000体のロボット兵は広く展開して警備した。
三本と千はスカイカブに乗って外に出た。
もちろん隣接7次元にしてある。
三本と千は森の梢を抜けて空中に出て森の外れの砂浜に向かった。
三本は白いスラックスと白いワイシャツ姿で通訳ヘルメットを冠り、千はカーキ色のスラックスと白いブラウスに通訳機能があるヘアバンドをしていた。
太陽の大きさは地球の太陽とほとんど同じ大きさだった。
二人が海岸の砂浜を越え、遠浅の海に出ると下の透明な海には小魚の群れが泳いでいた。
三本は静かにスカイカブを降下させ、遠浅の海の底の位置で停止させた。
三本の胸辺りが海水面になり、小波は三本を通り過ぎ、海の小魚の群れは三本を無視して無警戒で三本の胸を通り過ぎて行った。
「千さん。分かってはいるつもりだったが実際に小魚が僕の体を通り過ぎている。感動だ。」
「良かったですね、先生。」
「なんて言っても景色がいい。こんな所に住んでいたら仕事なんてできないだろうね。まあ長くいたら暇になるだろうけど。」
「本当に素敵な場所ですね、先生。」
二人が10分間ほど飛行を楽しんでいると二人の近くの上空に浮遊していた大隊長から連絡が入った。
「千様、原住民らしい男が搭載艦に近づいております。どうしましょうか。」
「一人ですか。」
「一人です。」
「どうしましょうか、先生。会いますか。」
「会いましょう、千さん。これも縁(えにし)です。トカゲから進化したヒューマノイドで選挙権を持たない原住民かもしれません。この辺りは第三惑星のリゾート客はいないようですから。」
「そうしましょうか。・・・大隊長、私たちはその原住民と話すことにした。私たちがそこに行くまでその人間を怪我をさせないように拘束しなさい。男の周りに実体を持たせた兵士で囲めばいいだろう。あるいはテレキネシスで動きを止めてもいい。」
「了解、千様。兵士たちの姿を見せないでテレキネシスで軽く拘束します。」
その男は空から黒い物体が森に落ちてくるのを見た。
落ちた場所は森の中にある広場で、海にも近かった。
その男はゆっくりと森を進み、前方に黒い大きな物があることを確認した。
その大きな物は透明でその物の向こうの森が透けて見えた。
不思議に思いながらその男はさらに近づこうとしたのだが急に脚が動かなくなった。
そんなことは初めての経験だった。
黒い物体のせいだろうとすぐに分かったのだが、引き返そうとしてもそれもできなくなっていた。
まるで落ち葉で隠れていた底なし沼に両足を踏み込んでしまったような感じだった。
男はゆっくりと落ち着いて腰を屈め、両手で足を持ち上げようとしたが脚は動かなかった。
男は腰を地面に下ろし、強力な尻尾と両手で地面を押したのだがそれでも脚は動かなかった。
そんな時、黒い物の向こうから変な乗り物に乗った人間が近づいてくるのが見えた。
男と女で、この星に遊びに来て我が物顔に振舞っている人間と似ていた。
その男は覚悟を決めた。
あの連中に出会ったら酷(ひど)い目に会うのだ。
あの連中は平気で仲間を殺すのだ。
こちらは数が少ないので何もできない。
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