第18話 18、ナロン連合の現状
<< 18、ナロン連合の現状 >>
レプチル国とは違ってこの星は騒がしかった。
三つの有人惑星から多数の強烈な放送電波が飛び交わっていた。
「千様、多数の放送電波が受信できました。これだけ情報があれば未開発星系用の通訳プログラムが適用できます。通訳機を作りましょうか。1時間ほどでできると思います。」
「そうしなさい。いつもいつも対面しなければ話が通じないのではそれこそ話になりません。」
「了解。」
戦艦千夢は通訳機を作り終えてからゆっくりと第三有人惑星に近づいて行った。
どれほどの探知能力があるのかを探るためだった。
863恒星系は大きな星系だったが戦艦千夢はすぐに探知された。
遊星爆弾で攻撃されている方としては早期発見は当然かもしれなかった。
4隻の哨戒艦と10機ほどの宇宙戦闘機が戦艦千夢の進路を遮るように近づき、進路の50㎞で戦艦千夢を囲むように展開した。
戦艦千夢は長さが1000mのカプセル状で太さは500mもあった。
そのような大きさの宇宙船はこの星系にはなかった。
その宇宙船は暗黒で、メーザー探査でもレーザー探査でも探知できなかったが、通常のテレビ映像ではその輪郭が想像できる程度に映っていた。
その映像では宇宙船のいる場所の背後の星々の輝きが幾分抑えられ、何となく輪郭が想像できたのだ。
哨戒艦の一つから通信が入った。
おそらく対レプチル国用の緊急通信なのだろう。
レプチル国の哨戒艦と同じ周波数を使っていた。
三本の耳にはコンソールからの意味のわからない言葉と通訳機ヘルメットからの日本語音声とがほぼ同時に聞こえた。
「前方の飛行体、こちらナロン連合の哨戒艦。このナロン星系は現在臨戦状態にある。貴艦のそれ以上の侵入を禁止する。所属および目的を明らかにせよ。繰り返す。それ以上は侵入するな。所属および目的を明らかにせよ。」
三本は千に頼み込んで相手宇宙船との対応をさせてもらった。
「ナロン連合の哨戒艦。こちらは超弩級戦艦千夢の川本三本である。個人所有の宇宙船であるがゆえ所属は当然ない。この星系に来たのは超空間ビーコンを検知したからである。ビーコンを出している理由を明らかにしてもらいたい。」
「超弩級戦艦千夢の川本三本。こちらナロン連合の哨戒艦。超空間ビーコンとは何だ。ナロン連合はそんなものを出していない。」
「ナロン連合の哨戒艦。私と話しているのは誰か。通信士か艦長か。相手により会話の内容は異なる。名乗られよ。」
しばしの間があって返答があった。
声が違っていた。
「超弩級戦艦千夢の川本三本。こちらナロン連合哨戒艦タロン5号の艦長のルロスだ。」
「ルロス艦長、貴国は超空間通信がまだできないのか。」
「・・・できていない。」
「それでは他星系には行けないな、タロン5号のルロス艦長。そちらの呼び名は知らないが第三有人惑星から強烈な全方位超空間ビーコンが出ている。首都と思われる都市と多数の工場がある惑星からだ。第一有人惑星はリーゾート惑星だ。第二有人惑星は食料惑星だ。どの惑星を指しているか判るな。超空間ビーコンは何百光年以上に瞬時に到達する。貴国は大宇宙から多数の異星人の艦隊を呼び寄せたいのか。それらの中には友好的ではない異星人も含まれている場合が考えられる。貴国は自国より進んだ科学力を持つ異星人を呼びよせたいのか。」
「・・・私には判断できない。超弩級戦艦千夢。しばし待て。」
「了解。しばしだ。上部と相談せよ。」
三本は翻訳ヘルメットを外して千に言った。
「千さん、私の未知との遭遇はどうでした。」
「お見事でした。相手は自国の将来をかける決断をしなくてはならなくなりました。とても哨戒艦の艦長ごときでは判断できません。しかもここはまだ十光分ほどの位置です。相談も時間がかかりますね。」
「こちらが超空間ビーコンを付けたなんて言えませんからね。善意の第三者になることにしました。これで相手からの敵対行動は抑制されると思います。」
「そうですね。相手は何が何でもビーコンを止めようとするでしょうね。でもビーコンは受信できないのでその位置が分からない。こちらに頼むしかないわけです。」
1時間ほどでナロン連合哨戒艦タロン5号の艦長のルロスから連絡が入った。
「超弩級戦艦千夢の川本三本。こちらナロン連合哨戒艦タロン5号のルロス。ナロン連合は貴艦を友好的に星系内に受け入れることにした。本艦に着いて来てほしい。」
「了解した、ルロス艦長。この距離を保って後に続くことにする。」
しばらくしてタロン5号はゆっくり動きだし、超弩級戦艦千夢はそれに続いた。
戦闘機群は超弩級宇宙戦艦千夢の周囲を距離をとって並走した。
暫くして三本は千に言った。
「千さん、このまま着いて行きますか、この辺りは相手の母星から数光分の位置です。相手は上層部と話をスムースに行わせるように母星に近づいているのだと思います。それとも搭載艇で行きますか。この艦の質量が問題になるかも知れません。」
「そうですねえ、先生。この状態ならどこにいても問題は生じないと思います。もし搭載艇を使うことになっても隣接7次元のまま発進できますし、そのまま収容できますから問題は生じません。」
「了解。質量は話題にしません。」
タロン5号はスピードを上げなかった。
時間をかけているように見える。
ルロス艦長から無線が入った。
「超弩級宇宙戦艦千夢の川本三本さん。こちら貴艦の前にいる哨戒艦タロン5号の艦長ルロス。貴艦はどのような状態にあるのか。貴艦の後ろにいる戦闘機が貴艦を通して透けて見える。できれば教えてほしい。」
「ルロス艦長。本艦は隣接7次元に存在している。言ってみれば幽霊の世界にいる。私の通訳機がなんて通訳するのか分からないが『パラパラ漫画』で一枚ごとにこの世界と私のいる世界と描かれている。だから透けて見えることになる。周囲にいる戦闘機は本艦を障害なく通り過ぎることができる。」
「了解した。それではそちらから撃った銃弾はこの世界の物を通り過ぎるのか。」
「ルロス艦長。貴官の知りたい気持ちは良く分かる。残念ながら貴殿の期待とは違って本艦を出た銃弾は本艦を離れればこの世界の銃弾になる。隣接7次元はこの世界の7次元ゼロ位相より高い位置エネルギーを持っている。だから一旦この位相を出たら元には戻れない。こぼれた水が元に戻らないようにな。」
「理解できた。貴艦に飛んで来た銃弾は素通りして貴艦から飛んで来た銃弾は相手に当たるのだな。理想的な状況だ。」
「そう思う、ルロス艦長。これは宇宙を飛ぶのに必要な技術だ。恒星と衝突する時もあるからな。恒星とは同じ位相では衝突したくはない。」
三本は続けた。
「ルロス艦長に聞きたい。今向かっている惑星はどんな状況にあるのか。三つの惑星は目的が異なっているように見える。諸所(しょしょ)に見えるクレーターも興味深い。さらに臨戦状態にあると貴艦は誰何(すいか)した。説明されよ。」
「ナロン連合は三つの惑星の連合体だ。連合政府はナロン第三惑星にある。第一及び第二惑星は自治惑星だ。自治政府はあるが連合政府よりも格下だ。現在ナロン連合は7光年離れたレプチル星との交戦状態にある。惑星に見えるクレーターはレプチル遠征艦隊による遊星攻撃の跡だ。適当な大きさの小惑星を誘導し、恒星の引力を利用して惑星に当てるという攻撃だ。レプチルは資源豊かな我が星系を狙っている。レプチル星は貧しい星だ。レプチルは特に第一惑星を奪おうとしていると思う。彼らにとっては生活しやすい暑い気候だからだ。」
「状況はおおよそ分かった。戦争の原因は何だ。」
「原因は特にないと思う。いきなり攻めて来た。」
「できれば二つの星系の政治体制を教えてくれないか。」
「ナロン連合は住民全員の選挙で首長を選ぶ。当然だが人口の多い惑星が主導権を握る。人口の多い惑星は第三惑星だ。レプチル星は住民の選挙はあるようだが選ばれた首長の権限は非常に強く、その期間は長期らしい。首長に選ばれたら独裁政権ができるみたいだ。」
「ナロン連合では選ばれた首長の権限は多くないのか。」
「首長だから当然それなりの権限はある。だがナロン連合には連合議会がある。法律を提出でき首長の独裁を抑制的に働くことができる。」
「ふうむ。政治はどこも難しいな。」
「貴艦は素晴らしい性能を持っている。大宇宙にはそんなに進んだ種族がたくさんいるのか。できれば教えてほしい。」
「現在の大宇宙の様子はよく分からない。大昔にはこの銀河系には進んだ種族はいなかった。他の銀河にもいなかった。・・・タロン5号のルロス艦長。我々は大昔の宇宙地図を持っている。大宇宙の全ての星を記述してある地図だ。大昔の地図だが恒星の動きはシミュレーションできるから現在でも恒星と惑星と衛星の位置は把握(はあく)できる。その地図にはこの星系についても記述されている。その記述から現在の宇宙を推測してほしい。」
三本はコーヒーを飲んでから続けた。
「宇宙地図によればこの星系は銀河系166セクター・863恒星系と呼ばれている。その星系は1個の巨大恒星と18個の惑星を持ち居住可能な惑星は3個だ。厳しい環境を覚悟すれば4番目の氷で覆われた惑星も利用できると記されている。現在もあるな。宇宙船を隠すのには丁度いい。衛星についての記述もあるが多くはない。居住可能な惑星に関しては記述されている。一番内側の暑い居住可能な惑星には爬虫類のトカゲから進化したと思われるヒューマノイドが支配種となって集団での狩猟生活を営んでおり、二番目の居住可能惑星にはリス型哺乳類から進化したと思われる有尾の人型動物が支配種となり同様に狩猟生活を営んでおり、三番目の比較的寒い居住惑星の支配種族は猿型ヒューマノイドで、狩猟生活を脱し、農耕生活を営んでいたと記載されている。さらに「将来、惑星間の争いが生ずる蓋然性が高い」との注釈もある。タロン5号のルロス艦長。現在のナロン連合の住民は同一種か。」
「・・・ほぼ同一種だ。」
「予測通り惑星間戦争が起こったのだな。」
「・・・そうだ。」
「爬虫類ヒューマノイドが進化した第一惑星の住民は殲滅されたのか。有尾人型第二惑星の住民も殲滅されたのか。」
「・・・ほぼ殲滅された。だが第二惑星にはまだ少数の有尾人が住んでいる。選挙権は持っている。第一惑星の原住民は森の中に隠れ住んでいる。選挙権はない。」
「まあ殲滅戦争は冷酷だからな。皆殺しだ。この星系ではトカゲとリスが負けてサルが勝ったわけだ。・・・この星系は豊かだ。進んだ異星人がこの星系に来て現住民を皆殺しにすることもあるだろう。殲滅戦争は冷酷だからな。弱い猿は全員が殺される。今度はトリの星系になるかもしれないな。」
「あのー、川本三本さんはどのようなお姿なのでしょうか。鳥起源ですか。」
「ふっ、ふっ、ふっ。気になるかい、ルロス艦長。そのうちわかるさ。少し疲れた。交信終了。」
三本はマイクを離して千に言った。
「千さん、頼みがある。」
「そうでしょうね、先生。先生をタロン5号の操縦室にお送りします。」
「頼みが分かったのですか。」
「もちろんです。先生は会話を楽しんでおられました。ミミー、前と同じようにロボット兵1小隊をタロン5号の操縦室に送ります。もちろん転送機を持っていきます。先生が行きます。準備しなさい。」
「了解しました、千様。15分で準備できます。」
15分後、三本はタロン5号に緊急無線を発した。
「タロン5号のルロス艦長。こちら超弩級戦艦千夢の川本三本。お願いがある。」
「こちらタロン5号のルロス。何でしょうか。川本三本さん。」
「これからそちらに行きます。操縦室の中央です。敵対行動を取らないようにお願いします。敵対行動を取ればおそらく消されます。お願いできますか。」
「本艦の操縦室に来られるのですか。分かりました。敵対行動は取らせません。」
「ありがとう。すぐに行きます。」
タロン5号の操縦室は結構広かったが乗組員は周囲にある各自の業務シートに座り、操縦室の中央を何が起こるのかと緊張しながら見ていた。
ルロス艦長は自分のキャップテンシートから離れて操縦席の横に立った。
操縦室の中央の空中に11体の黒色迷彩のロボット兵が円形を組んだまま小さな破裂音と共に最初に現れ、周囲の動きを観測してからゆっくりと床に降りた。
ロボット兵士たちは大きな長方形の盾を持ち、小槍を外に向けていた。
ロボット兵士の一人はいつものように操縦室の入り口に行き、扉を閉めてそこに立った。
アタッシュケースを持った小隊長は兵士の円の中心に転送機を作った。
暫くしてスーツ姿の三本が転送機に現れ、転送機の扉を開けてゆっくり出てきた。
三本は野球帽型のヘルメットを冠っており、ヘルメットの横には長い鳥の羽が着けられていた。
鳥の羽はミミーに急遽(きゅうきょ)作ってもらったものだった。
三本はゆっくりと言った。
「こんにちわ、タロン5号の皆さん。川本三本です。操縦席の横に立っているのがルロス艦長ですね。こんにちわ。ルロス艦長。ルロス艦長の姿はずっと見ていましたので気がつきませんでした。ルロス艦長は私の姿が見えなかったのですね。ご心配の様子だったので鳥の羽を付けて登場しました。でもどうも私は鳥類から進化したヒューマノイドではないようです。安心しましたか。」
室内の乗組員は三本の声を頭の中の声とヘルメットからの声と三本の口から出た声で聞いたが、口からの声は理解できなかった。
自分の頭の中で声が聞こえたのは初めてだった。
耳からの声と頭の中の声でエコーがかかり、三本の声が頭を駆け巡り頭がガンガンした。
神から啓示を受ける時はこんな状態になるのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます