第17話 17、銀河系166セクター863恒星系 

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 数日後、1隻の小型宇宙船がレプチル星域のかなり内部に高速のまま出現し、一直線にレプチル星の前方を横切るようにかすめ、外宇宙に向かって消えて行った。

もちろんその宇宙船はレプチル国軍の探知網にかかったのだが、相手は最初から高速で突っ込んで来た高速偵察艦だったので遠征艦隊は即時の対応ができなかった。

本来ならレプチル星の防衛網に捉えられ撃墜される運命になっていたのだがレプチル国の防御網は絶え間無い大地震で壊滅しており全く機能しなかった。

偵察艦はレプチル星の惨状を知った。

 遠征艦隊のマークス司令官は「とうとうバレたか」と呟(つぶや)いた。

哨戒艦のオービス艦長は「ナロン星系だけならいいが。」と言った。

戦艦千夢のミミーは偵察艦が現れるとすぐさま千に伝えた。

「千様、宇宙船1隻が出現しました。おそらくレプチル艦隊の相手の高速偵察艦です。高速のまま星域内部にワープして来ました。自殺行為です。」

「直ちに追跡しなさい。相手がワープする前に追いつけたら追跡用ビーコンを付けなさい。」

「了解、千様。」

 レプチル星の艦隊には加速中和装置がなかったので高加速が出来ない。

船内の人間が耐えられないからだ。

それで最初から高速で入って来た偵察艦を追いかけることはできなかった。

本来ならレーザー砲とか超高速ミサイルの餌食になっていたのだが、それは使えなくなっていた。

相手の艦は無人艦だった可能性もある。

 戦艦千夢は加速中和装置があり、どんな加速をしても内部の人間は通常通り行動できた。

戦艦千夢の電脳ミミーは短距離遷移を繰り返し、偵察艦の前に出てから加速し、偵察艦の近くに移動し、超空間ビーコン装置を遷移させて船体外壁に付着させた。

その直後、偵察艦はワープして消えた。

 「超空間ビーコンをつけました、千様。」

「ご苦労様、ミミー。三角測量して相手の位置を特定しなさい。」

「了解、千様。」

戦艦千夢は数光年横に遷移し、超空間ビーコンの位置を特定した。

それはレプチル星から10光年の位置だった。

 千は三本に言った。

「先生、レプチル星の敵の所に行きましょうか。」

「行きましょう、千さん。遠征艦隊が攻撃していた星がどんな状況になっているのか知りたいものです。宇宙戦争です。不謹慎ですがワクワクです。」

「了解。ミミー、ビーコンの発信位置の周囲の宇宙空間を実時間観測しなさい。障害物がなければ外宇宙近辺に遷移しなさい。7次元隣接位相、7次元シールド状態で遷移しなさい。7次元常在シールドは切りなさい。7次元と6次元の調査は到着現場で行います。」

「了解、千様。遷移します。」

 三本は千に聞いた。

「千さん、7次元常在シールドというのはどんなシールドなのですか。それを切った理由が分かりませんでした。」

「7次元常在シールドとは言葉からは連想できないのですが7次元に居ないためのシールドです。普通は7次元のどこかに我々は居ます。だから7次元をサーチすればどこかの位相で質量を検知することで存在が分かってしまうんです。7次元常在シールドを張ると我々は色々な7次元位相を常に渡り続けている状態になります。だからどこの7次元にも存在しないことになるのです。」

 「分かりました。ひょっとすると隣接2位相間ではないですか。昔研究した交換エネルギー移動と同じですね。熱いものを両手で行き来させたら熱さは感じません。移動を繰り返せば住所不定になります。存在の証(あかし)となる住民票は取れません。でも引越しや移動にはお金がかかります。だからエネルギーを食う7次元常在シールドを切ったのですね。」

「その通りです、先生。おっしゃる通り移動は隣接2位相間でした。分かりやすい説明でした。隣合(となりあ)う二軒で引越しを繰り返せば引っ越し費用は少なくて済みます。」

「へへっ、昔の勉強が役に立ちましたか。」

 偵察艦はそれ以上のワープをせず一つの惑星に戻って行った。

レプチル国はナロン星系の位置を知っているのだから別に知られても問題はなかった。

ナロン星系はホムスク宇宙地図によれば銀河系166セクターの863恒星系と書かれてあった。

レプチル国のある864恒星系の隣だ。

863恒星系の説明によればその星系は1個の巨大恒星と18個の惑星を持ち居住可能な惑星は3個あった。厳しい環境を覚悟すれば4個目の氷で覆われた惑星も利用できると記されていた。

惑星は多くの衛星を従えており、衛星の中には大気を繋ぎ止めている衛星もあった。

要するに豊かな星系なのだ。

 説明には一番内側の暑い居住可能な惑星には爬虫類から進化したと思われるヒューマノイドが支配種となって集団での狩猟生活を営んでおり、二番目の居住可能惑星には哺乳類から進化したと思われる人型動物が支配種となり同様に狩猟生活を営んでおり、三番目の比較的寒い居住惑星の支配種族はヒューマノイドで、狩猟生活を脱し、農耕生活を営んでいたと記載されていた。

説明にはさらに「将来、惑星間の争いが生ずる蓋然性が高い」と記されていた。

 宇宙戦艦千夢は銀河系166セクター・863恒星系、ナロン星系の外れに遷移した。

超空間ビーコンは居住可能な内側から三番目の惑星から発信されていた。

千はとりあえず有人惑星を内側から順に第一有人惑星、第二有人惑星、第三有人惑星と呼ぶことにした。

第三有人惑星の周囲には多数の宇宙船が遊弋(ゆうよく)しており、星系全体に対しても哨戒艇が警戒していた。

 第一有人惑星は緑深い森と美しい青い海と複雑に入り組んだ海岸線を持っている星で其処此処(そこここ)に瀟洒(しょうしゃ)な建物が点在していた。

大きな工場らしいものはなく大リゾート惑星といった印象だった。

 第二有人惑星は一目で食物生産の惑星だと分かった。

陸地は平坦に均(なら)され、雪を抱く高い山と田畑の境界がはっきりしていた。

もちろん輸送に必要な多くの港も広大な空港もあった。

空港は宇宙空間を自在に飛行できそうな機体もおかれていた。

 第三有人惑星は明らかに工業惑星だった。

巨大な工場群と行政庁舎と思われる壮大な建物があった。

首都と思われる都市には空中を通る道が縦横に張り巡らされ、多くの自動車が行き来していた。

そしてその惑星には軍隊基地があり、多数の宇宙船が駐機していた。

宇宙船の主力は地下か、秘密の格納庫に隠されているのだろう。

第四惑星なら絶好の保管場所になる。

 それら三つの惑星には共通の特徴があった。

惑星には生々しいクレーターが出来ていたことだった。

クレーターの最も多かったのは第三有人惑星で、ついで第二有人惑星、そして第一有人惑星にはたった3個のクレーターしかなかった。

「千さん、あのクレーターはコミックで見たことがある遊星爆弾の跡ではないですか。」

三本はコンソールの実時間観測画像を見ながら千に言った。

「そのようですね、でもまだ精度は悪いようですね。ランダムにクレーターが出来ているように見えます。」

「レプチル国の遠征艦隊はこんなことをしていたんですね。まあ遠くから打ち出すのでしょうから自身は安全でしょうけどね。狙われた方はどこに落ちるかわからないからたまったものではないですね。」

 「そうですね。でも狙いも悪そうですし威力も対して大きくはならないですね。」

「それは分かります。衛星爆弾の早さの問題ですね。大宇宙を高速で飛んでくる隕石とは違います。速度を上げなければ威力は増さない。結局攻撃方向は恒星の引力と惑星の速度を利用するため惑星の進行方向からの攻撃だけになるのですね。」

「そうだと思います。」

「レプチル国とこの惑星との争いの原因はなんなのでしょうね。」

「教えてもらいましょうか、先生。」

「またもや大冒険ですね。」

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