第16話 16、ホムンクへのお願い 

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 ホムンク126号が突然言った。

「三本様のオーラは綺麗ですね。」

「えっ、何て言いましたか。『オーラ』って聞こえました。」

「オーラと言いました。ホムスク星のロボットは人間のオーラが見えるのです。人間の思考が見えているのかもしれません。脳波かもしれません。考えていることが何と無く分かるのです。」

「本当ですか。ちょっと待っててくださいね。」

 三本は後ろに立っていたロボット小隊の小隊長の方を向いて言った。

「小隊長さん、貴方も私の心の中が見えるのですか。」

「見えます、三本様。」

「そうでしたか。知らなかった。じゃあミミーさんにも見えているのですか。」

「そうだと思います、三本様。」

 「参ったな。言動だけでなく思考も気をつけなければなりませんね。千さんはそれを知っているのですか。」

「分かりません。千様の心は全く見えません。眩(まぶ)しいほどの白色だけが見えます。ホムスク人は全て同じ白です。」

「ふーむ。・・・おそらくホムスク人は作ったロボットに心を読ませないように電脳をそうしたアルゴリズムにしたのですね。その辺りがホムスク製のロボットに自我が芽生(めば)える遠因かもしれませんね。分かりました。ありがとう、小隊長さん。」

 三本はホムンクの方に向き直って言った。

「126号さん、お待たせしました。幸運な赤ん坊はさらに優れた資質を持っていたようですね。」

「お役に立ちましたか。」

 「はい、もう一人の私がロボット国を作った時、日本国はロボットを作ることができるようになっていたそうです。性能はホムスク製より劣っていたようですが同じようなロボットだったそうです。でも日本製のロボットには自我が生まれなかったそうです。千さんはその原因を皆さんの頭蓋の中に入っている7次元状態にある部品に起因するだろうと考えているようです。その部品は遷移とかテレキネシスとか互いに連絡を取る超空間通信に必要な部品で電脳に入っているのだそうです。もちろんそれは自我確立の原因の一つかもしれません。でもホムスク人だけオーラを見えなくさせるのには電脳のアルゴリズムをいじらなければなりません。区別は機械的な機能ではないからです。他の人間から区別させなければなりません。そんなアルゴリズムがホムスク製のロボットに自我を生じさせる主因であると考えた方が納得しやすいと思いました。」

 「機能と思考回路の違いですね。」

「そんな気がしました。」

「三本様は優れた空想力をお持ちのようですね。もう一人の三本様がいろいろな装置を発明なされたことが納得できました。」

「少しくすぐったいですね。でも何度も死んでホムスク文明を10万年間勉強しなければできなかったようですよ。とても今の私にはできないことです。・・・ホムンク126号さん、お願いがあります。金属光沢のロボット姿ではなく人間と同じような姿になってくれませんか。その方が私は話がしやすいのです。友達と話すように気楽に話せます。」

「分かりました。」

 ホムンクの表面は金属光沢からうす茶色のスーツ姿になった。

白いワイシャツに茶色の斜めストライプの入ったネクタイをつけ、革靴を履き、顔の容貌は額の広くなった壮年男性の顔つきだった。

「私よりずっと若そうな姿ですね。ホムンク126号さんが選んだその姿がホムンク126号さんの気持ちを表わしているのだと思います。地球人で言えば不惑の40歳という姿です。不惑とは心に迷いがなくなるという意味です。私は寿命に近づきつつある67歳です。地球人の寿命は短いのです。」

 「寿命に近いその年齢は何と呼ぶのですか。」

「68歳は特に呼び名はありません。60歳は耳順(じじゅん)と言って相手の言葉が反発もなく素直に入ってくるのだそうです。70歳は従心(じゅうしん)と言って好き勝手なことをしても抑制の効いた行動になってくるそうです。私はその年齢に近いですね。」

「面白いですね。」

「寿命がある人間は寿命に近づくほど未来への可能性は小さくなりますからね。」

 ホムンク126号は三本に言った。

「あのー、千様は何でこの星域に居(お)られるのですか。」

「私の望みを叶(かな)えるためです。冒険が私の望みです。具体的には最初は巨大恐竜を実際に見ることでした。私はこれまで実際に動いている巨大恐竜を見たことがありませんでした。恐竜のいる星に行って二匹の、いや匹と言うには大きすぎですね。・・・二体の恐竜と友達になりました。何メートルもある恐竜に見下ろされると危険はないと分かっていても怖かったですね。恐竜は知能を持っているんです。少し幼いですが普通に会話できました。後のことは既にお話ししましたね。」

 「驚きました。あの千様が恐竜を見に来たのですか。」

「まあ、言ってみれば私は千さんの舅(しゅうと)ですからね。恐竜の星ではスカイカブという極小の飛行体を作ってもらい千さんと空中戦をしました。総合成績では私の方が後を取った回数は多かったと記憶しています。私の自慢です。」

「それも驚きです。あの千様が空中戦ですか。」

「千さんは優しいですよ。」

「そうですか。」

異議があるようだった。

 「この星系に来て私の望みがもう一つ叶えられそうです。」

「どんな望みでしょう。」

「宇宙での戦闘を実際に見ることです。先ほどから無線での呼びかけが為されていますね。あの声はレプチル国の哨戒艦のオービス艦長の声です。セム号も誰何されました。レプチル国はどこかの星系と争っているみたいです。この星域に浮かんでいる100隻の戦艦群は遠征先から戻った艦隊だと思います。母星の防衛隊が壊滅され母星も穴が開けられて大混乱に陥(おちい)っているからです。攻撃されていた星はそれを知り今度はこの星系に攻撃をかけてくるはずです。大規模な宇宙戦闘が起こるのだと思っています。」

 「防衛隊を壊滅したのと星に穴を開けたのは千様ですか。」

「そうです。いきなり宇宙船のまわりで核爆発が起こりました。不意打(ふいうち)でしたね。核爆発の中を見たのはもちろん初めてです。ただ明るかった。・・・それで千さんは反撃して防衛艦隊を消して惑星に穴を開けたんです。」

「よく惑星を消さなかったですね。」

「千さんは優しいんですよ。」

「そうですか。」

それも異議がありそうだった。

 「これで大体の事情が分かったと思います。ホムンク126号さんはこの星域を去るのですね。」

「はい、そのつもりです。」

「千さんの話によれば自我を持ったホムンクさんはいろいろな人生を送ったようです。少し遅れた星の神様になって星を守ったホムンクさんもいたし、大量のロボット人を作ってロボットの国を作ったホムンクさんもいたそうです。ホムンク126号さんもよく考えてご自分の道を見つけられたらいいと思います。」

「そうしようと思います。」

 「ただ、過去から資源を持ってくるのはやめた方がいいと思います。それをすると6次元世界が増えます。もう一人の私の時にはホムンクがそれをして大宇宙のビッグクランチを引き起こしたそうです。物が整然と存在するこの世界は還元事象を起こしている状態です。熱力学の第二法則の拡大解釈によれば世の中は全て乱雑さの指標であるエントロピーが増大します。酸化事象が増えるということですね。この世界が存在できるのは大宇宙が常に拡大して巨大なエントロピーの増大を担っているからです。だから大宇宙では還元世界の存在が可能なのです。6次元世界を増やすことは大宇宙のエントロピーを減少させることです。それが大宇宙の拡大でのエントロピーの増大を超えたら大宇宙は収縮してゼロから始めようとすると思います。ビッグクランチですね。」

「よく分かりました。」

 「それではこれで失礼します。色々と話ができて楽しかったです。」

そう言って三本は転送機に入って左腕を挙げながらいなくなった。

ロボット小隊長は転送機をアタッシュケースに戻し、他の兵士と共に一瞬で消えた。

ホムンク126号はしばらく三本との話を反芻していたが、「川本三本様か」と呟(つぶや)いた。

ホムンク126号の宇宙船はしばらくしてから遷移して消えた。

オービス艦長は同じことを言い続けることに飽きて来ていたのでホッとして誰何をやめた。

何事も起こらなくて良かったと思った。

 「ホムンク126号も納得して去ったようですね。」

三本がセム号の操縦室に戻ると千が言った。

「そのようですね。でも興味津々でした。それほど遠くには行かないだろうと思います。」

「先生はホムンクと友達になったようです。今後の展開が楽しみです。」

「どうしてもホムンクと会いたいと思いました。でもこれはロト7の宝くじが当たった共通事項ではないですね。第2の私の人生ではホムンクには合わないのですから。」

「そうですね。」

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