第15話 15、ホムンク126号 

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 最初にレプチル星域に来たのはホムスク宇宙船だった。

ずっとレプチル星域を観察していたミミーは素早く対応した。

「千様、ホムスク宇宙船が現れました。探知と同時にとりあえず7次元常在性シールドを張っておきました。これでこちらは見えなくなっているはずです。たとえ7次元レーダーを持っていてもです。こちらの7次元レーダーによればホムスク宇宙船の存在位相は隣接7次元。7次元シールドを張っております。宇宙船の質量は地球程度。宇宙船の形状は本艦『戦艦千夢』とほぼ同じ。おそらくホムンクの宇宙船です。」

「どうするか見てみましょう。現状維持です。」

「了解、千様。」

 「千さん、ホムンクって私が出会うはずだったロボットですか。」

三本が千に言った。

「それは分かりません。ホムンクは何体も送り出されております。でもこれほど早くここに来たということはよっぽど暇なホムンクみたいですね。おそらく自我に目覚めて放浪していたホムンクかもしれません。」

「ホムスク星で作られたロボットは自我に目覚めるのでしたね。」

「そうです。そのため先生はロボットを引き連れて大宇宙の端にロボットの国のムーンを作られたのです。」

 「ホムンクは圧倒的な科学力を持っているのでしたね。この星の連中はどんな対応をするのでしょう。」

「分かりません。でもあのオービス艦長の言動を見ていたら結構プライドはありそうですね。」

「まあ、地球と比べたらずっと進んだ科学力を持っていますから。・・・同じ銀河系の中でこんな星もあれば恐竜がいる星もあるのですね。遅れている星の住人はいたたまれないでしょうね。」

「そういうものだと思います。ホムスク星の大航宙時代はどの星も遅れていました。色々なドラマが展開されたことでしょうね。」

「地球もそうでしたね。」

「そうでした。」

 ホムンクの宇宙船はゆっくりとレプチル星に近づいて行った。

その動きはレプチル星域に張り巡らされた受動的探知網に引っかかった。

オービス艦長は未知宇宙船出現を遠征艦隊に報告し、単独で接触するよう指示された。

異星人と応答した経験があるということらしい。

 オービス艦長は前と同じように相手宇宙船にゆっくり接近し、距離100㎞あたりで緊急無線周波数で誰何した。

前と同じように自国の言葉で誰何した。

 「前方宇宙船に告げる。ここはレプチル星域である。早急に退去されたい。」

オービス艦長は三本の助言に従い「退去しなければ排除する」とは言わなかった。

ひょっとして相手はこちらの言葉を知っているかもしれない。

脅しのセリフは言わない方がいい。

相手は明らかにこちらより強いのだ。

 相手宇宙船から同じ周波数での無線が入った。

「前方の宇宙船に告げる。超空間ビーコン信号を受けてここに来た。敵対するつもりはない。事情を説明されたい。」

その言葉はホムスク語だったがオービス艦長にはその言葉が理解できなかった。

オービス艦長は再び繰り返し言うしかなかった。

「前方の宇宙船に告げる。言葉が理解できない。ここはレプチル星域である。早急に退去されたい。」

ホムスク船からの応答はなかった。

言葉がわからないなら応答しても無駄だ。

 三本と千はそれらの無線応答を聞いた。

三本にはどちらの言葉も分からなかった。

通訳ヘルメットはスピーカーからの音声だけでは通訳できない。

まだ変換できる語彙が少なすぎるからだ。

 「先生、あの宇宙船からの言葉はホムスク語です。どうぞこれを冠って下さい。ホムスク語ー日本語の通訳機です。これからホムスク語を使いますから。」

そう言って千は三本にヘッドフォンを渡した。

「ありがとう。ワクワクしますね。」

 千はミミーに言った。

「ミミー、ホムスク船に話しかけます。同じ周波数の通常電波にしなさい。」

「了解、千様。」

千はマイクを取ってホムスク語で言った。

「ホムスク船のホムンクに告げる。私はホムスク星の千だ。所属を明らかにせよ。」

 ホムスク船は一瞬黙ったがすぐに応答した。

「私はホムンク126号です、千様。」

「超空間ビーコンは成り行きで私が出している。問題はない。この星域、この惑星の住民はレチプル星域と言っているが、銀河系166セクターの864恒星系から離れよ。」

「分かりました、千様。あのー、千様はどこにおられるのでしょうか。電波の方向には何も探知できません。」

「お前のすぐ近くにいる。7次元常在シールドを張っているから探知できないのだ。お前の艦には装着されていない。7次元レーダーでも探知できない。」

「私の宇宙船には7次元レーダーもありません。」

 三本は千に言った。

「千さん、ホムンク126号と会えないだろうか。」

「まあ、先生。冒険の虫が出ましたね。」

千はそう言って笑顔で再びマイクを取って言った。

「ホムンク126号、私の客人がお前と会いたいそうだ。会って話してくれ。7次元シールドは張ったままでいい。暫し待て。準備出来次第そちらに行く。」

「お待ちしております、千様。」

 そう答えてホムンク126号は驚いた。

千様が『話してくれ』と言った。

『話せ』ではない。

千様がホムンクに頼んだのだ。

 三本は自宅に戻って正装に着替えて来た。

濃いめから明るめの黒色迷彩に変えたロボット兵小隊は前と同じように盾と小槍を持ってホムスク船の操縦室に遷移し転送機を設置した。

それはホムンクにとって驚きの状況だった。

 何物も通過できないとされていた7次元シールドを通過してロボット兵が送り込まれたのだ。

7次元シールドは何物も通さないからこそホムスク星では争いは起こらなかったのだ。

ホムスク星では圧倒的に矛(ほこ)より盾(たて)の方が強かったのだ。

それを千様は7次元シールドを通過させてロボット兵を送り込むことが出来た。

強い矛を持っているのだ。

 ホムスク船の操縦室はセム号と同じだった。

相手のホムンクは金属光沢の体と暗黒の目をしたロボット姿だった。

三本は転送機を出てロボット兵の輪を越え、ホムンクと対面して言った。

「こんにちわ、ホムンク126号さん。地球人の川本三本です。お初にお目にかかります。」

「ホムンク126号です。地球人の川本三本さん。」

「私はどうしても貴方とお会いしなければならないと思いました。私は未来においてホムンクさんと出会うことになっていたようですから。」

 「三本さんは千様とお知り合いなのですか。」

「そうです。最近知り合いになりました。理解できないかもしれませんが私は将来ホムスク星の女性との間で子供をもうけ、その子が千さんを作ったみたいですね。千さんは純粋なホムスク人で現在のホムスク星の為政者は私の子供のようです。」

「お話は理解できませんでした。」

「私もまだ正確には理解できておりません。時空間の輪廻というのでしょうかね。理解できるようになりたいものです。」

 「三本さんは超空間ビーコンのことをご存知ですか。」

「知っております。この惑星の恐竜狩猟業者が私の友達の恐竜の仲間を捕獲しました。それを止めてもらうようにお願いするため業者の宇宙船を追跡しました。超空間ビーコン装置は追跡するために相手の宇宙船に付着させたものです。ホムンク126号さんにはとんだご迷惑をおかけしましたね。おいおい千さんはその装置を破壊しビーコンは止まると思われます。」

「理解できました。」

 「ホムンク126号さんは長く放浪なされているのですか。既に確固とした自我を持たれているように思えます。」

「長く放浪しておりました。三本さんはホムンクのことをご存知なのですか。」

「はい、知っていると思います。ホムンクさんはかわいそうなロボットです。そして未来のあるロボット人でもあります。」

「可哀想と未来があるとは矛盾しませんか。」

 「矛盾しません。ホムンクさんはホムスク人の戯(たわむ)れにも近い命令を受けて大宇宙の各地に派遣されました。しかも長い時間をかけてその地に辿(たど)り着きました。そしてようやく命令を実行するのですが、もともとロクでもない命令です。成果は上がりません。地球に来たホムンクが受けた命令は『100年で恒星間飛行が可能かどうかを実験せよ』だったそうです。地球はなんとか恒星間飛行を成し遂げたのですが、その過程でロボットに自我が生じました。ホムンクも他のロボットもロボットからロボット人になったのです。どうもホムスク星のロボットは経験を通して自我が生ずるようです。ロボット人は死にません。強力です。そして学ぶことができます。色々と優れた資質を持って産まれた幸運な赤ん坊なのです。ですから可哀想なロボットであり未来のあるロボット人なのです。126号さんはロボットではなくロボット人になられているようですね。」

 「ようやく現在の自分を理解できました。ありがとうございます、川本三本様。」

「不安だったのでしょうね。でも126号さんはおそらくホムスク星の軛(くびき)から解放されていますよ。」

「本当にありがとうございます。それで地球のホムンクはどうしたのですか。」

「もうそうはなりませんが、自我に目覚めたロボットを引き連れて大宇宙の端にロボット国を作ったそうです。もう一人の私も一緒に行ったそうです。」

 「またまた理解できなくなりました。」

「そうでしょうね。126号さんが時間を一方向の流れで見ているためだと思います。」

「時間の進む方向は一つではないのですか。」

「私もよく分からないのですが、どうもそうみたいです。126号さんが最初に理解できなかったのも同じ原因ですね。」

「考えてみます。」

「私も想像力を養(やしな)わなくてはなりません。」

 「あのー、お聞きしてもいいでしょうか。」

「何でしょうか。」

「こんなことは千様にはお聞きできないので三本様にお聞きするのですが、どうして7次元シールドを越えて物を遷移させることができるのかご存知ですか。今のホムスク星の科学はそこまで進歩したのでしょうか。」

 「知っていると思います。でもいろいろな答えがあるのでどのように説明していいのかよく分かりません。千さんの宇宙船、セムって名前なんですがね、セム号は特別なんです。貴方の宇宙船も14次元の世界に行ったら同じことができるようになるはずです。この世界の7次元は向こうの世界の7次元と繋がっているみたいです。それで一度でも14次元世界に行くとこちらの世界の7次元は14次元と同じになるみたいです。それから6次元レーダーとか7次元レーダーとか7次元常在性シールドとか言うものは手に入らないと思います。それらはもう一人の私が作ったそうですから。ご自分で勉強して作られたらいいと思います。・・・すみません。ますます混乱させてしまったようですね。でもこの世界にあるホムスク製の宇宙船に対してはまだ7次元シールドは有効らしいですよ。」

「14次元ですか。私は7次元までしか知りません。でも少し安心しました。千様の宇宙船、セム号だけなら何の問題もありません。」

「14次元世界って大きな世界らしいですよ。又聞きですがね。」

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