第14話 14、戦艦千夢 

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 オービス艦長は艦隊司令部からの指令を待っていたが連絡は来なかった。

艦隊司令部はそれどころではないのかもしれなかった。

こんな状況が敵に知られ、敵に攻め込まれたらそれを防ぐことは難しい。

 オービス艦長は別の星系に遠征している艦隊に『伝令』を飛ばした。

『伝令』とは超小型のワープ船で人間は乗っていない無人艦だ。

定められた位置にワープをし、そこで定められたシグナルを出す。

その場所には常に味方艦が連絡用に常駐しており、『伝令』を回収して連絡文や画像を見るのだ。

電波では何年もかかる場所に連絡するにはその方法しかなかったのだ。

超空間通信機はまだなかった。

 その『伝令』にはこれまで見たこともない異星の宇宙船が9発の同時核攻撃に無傷で耐え、母星の親衛艦隊を十数秒間で壊滅し、一瞬で母星に北極から南極へ穴を開けた事が暗号で書かれてあった。

また、司令部からの応答がない現況を鑑(かんが)み、自身の判断で『伝令』を飛ばし、自分には権限はないが、遠征艦隊は一旦母星に帰還することが適切であると判断したとも書かれてあった。

はたして、ホムスク宇宙船時間での二日後、100隻の大型宇宙船が864恒星系、こちらの呼び名ではレプチル星域に現れた。

 三本はその時、千と操縦室で朝食を取っていた。

最近では三本は千と一緒に食事をするようになっていた。

千はいつでも美味しい料理を三本に作ってくれた。

千は食事を作っている時間がないはずの時でも美味しい料理を作ってくれた。

三本としては自分で食事を作る必要がなかったのでありがたく食べさせてもらった。

 三本はハムエッグとポテトサラダとレタス葉とリンゴジュースと牛乳、そして蕩(とろ)けたスライスチーズの乗った厚いトーストを食べながら千に言った。

「千さん、毎日食事を作っていただきすみませんね。大変ではないですか。」

「ご心配なく、先生。私は食物を調理しているわけではありません。言ってみれば私たちが食べている物は全てコピーです。ナノロボットから作られております。私が食べたことがある日本の色々な料理店で出されていた料理で美味しかった料理がコピーされております。もちろん外国で食べた美味しかった料理も入力されております。私はメニューを指示するだけです。」

「便利ですね。それに実に美味しい。」

「どちらかと言うと有名料理店の物が多いですから。私にはそんなものはとても作れません。」

 コンソールのミミーが言った。

「千様、お食事中申し訳ありません。100隻の宇宙船がこの星域に現れました。およそ1光時の位置です。」

「どこの宇宙船か判(わか)りますか。」

「おそらくこの惑星の宇宙戦艦だと思われます。この前消去した宇宙船と同じ形です。」

「遠征先から帰ってきたのね。予定の行動なのかそれとも緊急通報で戻って来たのかは分からないわね。」

 「後者であろうと思われます、千様。三本様が行かれた哨戒船は惑星には戻りませんでした。惑星公転軌道面に直角方向に進路を変えておりました。あの哨戒船は惑星に穴を開けたのを見たと思われます。しばらくしてから超小型の宇宙船を発射しました。その宇宙船はすぐに消えました。ワープしたのだと思われます。それが連絡船であるとしたらこの星域に現れた艦隊への連絡がなされた蓋然性が高いと思われます。」

「それならあの艦隊の敵もこの星域にくるかもしれないわね。」

「分かりません。」

 「哨戒船は動いていないの。」

「停止しております。」

「大混乱の母星には行かずか。なかなか慎重ね。ミミー、このまま待機しなさい。」

「了解、千様。」

 「千さん、あの艦隊の敵が来るとしたら宇宙戦争が見られるかもしれませんね。」

三本が言った。

「恐竜の次は宇宙戦争ですか、先生。」

「不謹慎かもしれませんが宇宙空間での戦いは実際に見てみたいものです。コミックやSF小説や映画では何度も出会っているんですがね。地球人で実際に宇宙戦闘を見た人はいないでしょうね。恐竜と同じです。想像力の舞台です。」

「私も宇宙戦闘はまだ見たことがありません。第一の人生の先生は何百隻ものホムスク宇宙船を何度も壊滅させております。当時のホムスク船より圧倒的に強力な宇宙船をお造りになられましたから。」

 「まあホムスク文明を10万年間も基礎から学んだらできるのかもしれませんね。」

「この船の7次元レーダーと6次元レーダーも先生が発明されました。それに7次元シールドを破る爆弾とか敵から見えない7次元常在シールドもお造りになりました。この船は先生がそれらをお造りになられた後に造られた宇宙船ですからそのような装置を装着しております。でも万様が作った現在のホムスク星の宇宙船には装着されておりません。先生が居ませんでしたから。」

「複雑ですね。でも分かります。要するにこの宇宙船はホムスク宇宙船と同じ形をしているけれど性能は圧倒的に優れているということですね。」

「そうです。」

 「千さん、この宇宙船の名前は何と言うのですか。」

「名前はありません。ホムスク宇宙船はホムスク宇宙船です。『誰々の宇宙船』と言うのです。先生がお造りになった宇宙船には『ムーン号』と言う名前が付けられたと聞いております。ロボット国、ムーンの『ムーン号』と言うわけです。ムーンでは名前が付いた初めての宇宙船だったそうです。」

「この船に名前をつけませんか。千さん。」

「例えばどんな名前ですか。」

 「・・・私の想像できないとてつもなく長い歴史を持っている宇宙船です。難しいですね。・・・仮にこの船が新造船だとしたら私が付けたい名前は『千夢可』、千さんの夢を可能ならしめる船と言う意味で、千(せん)、夢(ゆめ)、可(か)の『せ、む、か、Semka』です。私にとっては千もの夢を叶(かな)えてくれる宇宙船と言う意味にも取れます。戦艦セムカです。あるいは千の夢を可能にすると言う意味で『可千夢、カセム、Kasem』、戦艦カセムです。共通の千の夢だけで『千夢、センム、Senm』、あるいは短くして『セム、Cemn』がいいと思います。」

「どれもいい名前だと思います。千の夢のセムにしましょう。ミミー、この船の名前は『セム』です。」

「了解しました、千様。セム号あるいは宇宙戦艦セム、あるいは戦艦千夢と呼びます。」

ミミーは『千夢』が気に入ったらしかった。

 レプチル星域に現れた100隻の戦艦群は監視の数隻を残してレプチル星の北極上空域に移動した。

惑星が壊れるのかどうかがまだわからなかったので距離を取ったのだった。

それに宇宙艦隊が惑星近くに行っても役には立たない。

遠征宇宙艦隊は外敵と戦う艦隊だ。

 これまでは攻めていた立場だったがこれからは防衛の立場になる。

圧倒的に不利な立場になる。

敵はどこから来るのか全く予想がつかないのだ。

だが艦隊を分散させたら敵の餌食になる。

 哨戒艇のオービス艦長は連絡艇に乗って遠征艦隊の旗艦に行きこれまでの事情を説明した。

遠征艦隊司令官のマークスがオービス艦長に言った。

「ヘッケルも愚かなことをしたものだ。敵対的でなかった宇宙船を不意打して親衛艦隊を全滅させ母星レプチルに大厄災をもたらした。ワシが相手の立場だったら惑星を完全に消去していたな。」

オービス艦長が言った。

「まさに温情というほかありません。」

 「それでその宇宙船はレプチル星域にまだいるのか。」

「この艦隊のすぐ近くにおります。」

「何だと。探知は報告されていないぞ。」

「あの宇宙船は探知できません、司令官。レーダーもレーザーも反射しません。我が艦が発見できたのは星系に張り巡らせた受動監視システムがあったおかげです。宇宙空間を連続的に撮影し、マージ処理して変化部分を浮き上がらせるシステムです。そんなシステムでもあの宇宙船ははっきりとは見えません。シグナル強度は普通の半分です。相手は半分だけ透き通っているのです。」

 「驚くべき科学力だな。核爆発に無傷で艦隊を一瞬で消し去り惑星に穴を開けるのか。手も足も出んな。まあレーザー砲は試してないがな。」

「敵対行為はお勧めできません。司令官。」

「そうだな。ワシもまだ消されたくはないからな。オービス艦長はどうしたらいいと思う。」

「無視したらいいと思います。」

「それしかないか。宇宙船の男に会いたい気持ちもあるが核攻撃したんだからな。言い訳も立たん。」

 「司令官、気になっていることがあります。」

「何だ。」

「あの宇宙船の男は我らの国が他星系に進出しているのかと問い、進出していると答えましたら安心したと言いました。不合理で不思議な応答でした。さらに哨戒の任務は忙しくなるだろうとも言いました。私は気になって仕方がないのです。」

「ふーむ。・・・オービス艦長、相手の宇宙船は狩猟業者の宇宙船をつけて来たと言ったな。ワープしたのに、それも数度もワープしたのに相手はこの星系に来ることができた。ワープする相手を追跡するにはお前ならどうする。」

 「はい、数光年届く目印を付けます。普通の電波ではダメですから艦隊が切望している噂の『超空間通信機』を付けると思います。」

「ワシもそう思う。今の我々には受信できない超空間通信機のビーコンシグナルを出し続ける小型の装置を宇宙船に付けるだろうな。お前の船の操縦室に多数の兵士を送り込むことができた相手だ。超空間通信機を狩猟業者の宇宙船に付けるのは朝飯前だろう。」

「我々には僥倖です。狩猟業者の宇宙船を精査すれば夢の超空間通信機が手に入ると思われます。」

 「そうだな。早速調べさせよう。だが僥倖だけではないぞ、オービス艦長。その通信機は今も全宇宙に信号を出し続けている。宇宙から超空間通信機を持っているほどの科学力を持った異星人がこの星系に集まることになる。お前の哨戒業務は忙しくなるわけだ。とにかく超空間通信機を見つけだし、もったい無いが破壊するしかないな。」

「残念です、司令官。」

「まあ丁寧に分解するさ。少しは理屈もわかるだろう。」

 「ナロン星系の戦艦群も来るかもしれませんね。」

「うむ、そうだな。今度はこっちは防衛しなければならないから決定的に不利だ。遊星爆弾のお返しを受けるだろうな。だがかなり痛めつけておいたから艦隊を整(ととの)えるのには少し時間がかかるはずだ。」

「まず超空間ビーコンを止めることですね。」

「この艦隊ではそれくらいしかできんからな。母星はめちゃくちゃなようだ。」

「残念です。」

「同感だ。」



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