第13話 13、惑星に心棒
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三本は続けた。
「ところでこの船は戦闘艦であり、皆さんのお仕事は宇宙から来る外敵からこの惑星を守ることですね。」
「そうだ。」
「恐竜捕獲業者の宇宙船はワープ飛行が可能でした。この宇宙船の形から見ても当然ワープ飛行が可能で恒星間飛行が可能だと思います。軍事機密かもしれませんがこの惑星は他の恒星系にも進出しているのですか。」
「調べればすぐ分かることだから軍事機密ではない。他の恒星系にも進出している。目的地は軍事機密だ。」
「よく分かりました。少しだけ心の負担が減りました。それなら問題はありません。臨戦状態にあると言うことですから。防衛に携(たずさ)わる皆さんのお仕事は今後少し忙(いそが)しくなるかもしれませんね。」
「どう言うことでしょう。」
その時、三本の通訳ヘルメットの中でミミーの声が聞こえた。
「先生、戦闘艦らしいもの30隻が接近しております。方向は先生がおられる戦闘艦です。先生の乗られている宇宙船よりずっと大きな宇宙船です。」
「ありがとう、ミミーさん。話はつきましたからそちらに戻ります。」
三本はそれを口に出して言ったのでその声は操縦室の乗組員全員が頭の中で聞こえた。
「オービス艦長、おたくの国の戦闘艦30隻がこの船に近づいて来たそうです。私はそれに恐れをなして宇宙船に逃げ帰ろうと思います。お願いの件はよろしくお伝えください。」
三本はそう言って転送機に入り、左腕を挙げて挨拶したまま消えた。
ロボット小隊長は転送機を元のアタッシュケースに戻し、他のロボット兵士と共に消えた。
来た時と同じように遷移して消えたのだった。
操縦室に静寂が訪れた。
異星人は乗組員が持っていたトリケラトプスのミニチュアを残して消えた。
オービス艦長は「戦闘部隊には攻撃するなと言わねばならんな」と呟(つぶや)き、そしてすぐさま思い出したように部下に命じた。
「緊急通報だ。すでに異星人はこの艦にいないと艦隊に伝えよ。異星人がいないのに消されてはたまらん。」
うちの親衛艦隊司令官は非情だ。
異星人もろともなら味方までと味方艦にも簡単に攻撃命令を出すお方だ。
それで敵がこちらの意気の高さにビビるだろうと思っておられる方だ。
それにしても艦隊が来るのがもう少し遅れてくれればよかった。
防衛の仕事が増えるだろうと言った理由を聞きそびれてしまった。
三本はホムスク船の操縦室に戻って千に言った。
「千さん、なんとかお願いは伝えることができたと思います。」
「先生は落ち着いておられました。」
三本はそれに答えずコンソールのディスプレイを見ながら言った。
「30隻ですか。威風堂々って感じですね。これらの戦艦はどんな攻撃手段を持っているんでしょうね。波動砲だったりして。」
「まあっ、私もそのコミックを読みました。威力は分子分解砲と似ていますね。宇宙空間は真空ですから爆発して爆圧で相手艦を破壊するのは効率が悪いのです。たとえ核兵器でも核兵器自体の質量はごくわずかで熱線も光線兵器と同じです。その光線兵器も表面塗装が日進月歩で進歩していますからイマイチなのです。分子分解砲はそんな光線兵器の弱点を克服するために作られました。ガンマー線は反射しませんから。・・・当てることができるのなら一番有効なのは昔ながらの大砲です。46㎝の徹甲弾を打ち込まれて損傷がない宇宙船は少ないでしょうね。」
「そのためには自重の大きな宇宙戦艦が必要なわけですね。」
「そうです。空気がないので弾のエネルギーは保存され照準もつけやすいですから。」
「エネルギー的には誘導ミサイルも有効ではないのですか。当たってめり込んでから爆発するタイプもあると聞いております。」
「どうでしょうか。コミックに出ていた戦艦の装甲の厚さは調べたら41㎝の鋼鉄でした。これは自分の46㎝砲の攻撃に耐えるだけの装甲だそうです。それだけの装甲を誘導ミサイルは破壊できないと思います。」
「昔の戦艦って凄かったんですね。そんな装甲なら核兵器にもレーザー兵器にも耐えられそうですね。たとえ宇宙魚雷で穴が開いても海水が侵入しない宇宙では沈没しないし気密隔壁はいっぱい作ってあったでしょうから。」
「でも分子分解砲には無力ですよ、先生。」
「了解。」
それは突然起こった。
三本が千と共に昼食を食べながらこれから何をしようかと相談している最中だった。
宇宙船の操縦室が光で満たされたのだった。
三本は見た光が核爆発の中の光だったことを後で知った。
千はミミーに言った。
「ミミー、何が起こったのですか。」
「核ミサイルを食らいました、千様。突然3隻の艦から高速ミサイルが発射されました。千様に報告する前に当たってしまいました。この宇宙船に損傷はありません。」
「ミサイルを発射した戦艦は先ほどまで先生がいた宇宙船ですか。」
「いいえ。その艦は離れた別のところにおりました。母星に戻っている最中だと思われます。」
「報告しに行ったのね。それでここに来た戦艦群が核ミサイルを発射したわけね。核ミサイルの数は3個ですか。」
「いいえ3艦が3発のミサイルを同時発射しました。先ほどの爆発は9発分の核爆発です。爆発時刻を合わせていたようで、ほとんど同時爆発です。」
「私たちを殺そうとした明らかな意思を示したわけね。ミミー、反撃します。目標は30隻の戦艦群です。大きい艦から順に1秒で1艦を消しなさい。10艦まで消したらあとはまとめて拡散放射で全艦を消しなさい。」
「了解しました、千様。実行します。」
操縦席の前のディスプレイの画像が動き、30隻の敵艦が映るようになった。
宇宙船の向きを相手艦に向けたのだ。
宇宙空間に紫の帯が現れた時には敵艦の一つが消えていた。
紫の帯は1秒毎に生じ、そのたびに敵艦は消えていった。
残った戦艦は艦尾から強烈なジェットを噴出しその空域から四方に逃げようとしていたが、その加速は分子分解砲の狙いを外すまで大きいものではなかった。
10隻が消されると紫の光は帯からコーン状になり、コーンの内に入っていた戦艦は消えた。
三回の分子分解砲の拡散照射で全ての敵戦艦は消えた。
艦隊が消滅する様子をオービス艦長は見ていた。
母星に向かいながらこの星系に飛来して来た太刀打ちできない科学技術を持つ暗黒の宇宙船を悔(くや)しい気持ちで眺めていた。
手も足も出なかったのだ。
その宇宙船の周囲で核爆発が起こった。
宇宙船をきっちり囲むように核爆発が起こった。
艦隊司令官が命令したのは明らかだった。
相手艦を核爆発の擬似太陽の中に入れてしまえば葬(ほうむ)れると思ったのだろう。
オービス艦長は核爆発が終わった後に相手艦が相変わらず浮かんでいたのを見た艦隊司令官の気持ちが分かった。
相手からの反撃が予想され、自分は死ぬかもしれないと思ったことだろう。
司令官が全艦に散開を指示したかどうかは分からなかった。
核爆発が収束しおえる前にその宇宙船は艦隊の方に向きを変え、紫の光を出して戦艦を次々と消し、最後は四方に逃げ出した残存艦を一気に消し去ってしまった。
消された戦艦は爆発もしなかった。
爆発する物も一瞬で消したのだろう。
最初に消された戦艦に司令官が乗っていたのは司令官にとっては幸運だったのだろう。
自分の艦隊の戦艦が次々と消されていくのを見ないですんだ。
オービス艦長は操縦室の部下に指示した。
「艦隊司令部に艦隊殲滅を報告しろ。相手艦は9個の核爆発に耐え、親衛艦隊は十数秒で破片もなく消滅させられたとな。今後、相手艦の我が国への報復が予測される。報復には惑星消去も含まれる。十分なる対処が必要だと思われるとも発信しておけ。」
通信士は不安そうに「了解しました」と言った。
オービス艦長はしばらく考えていたが、やがて傍(かたわら)の船内放送のマイクを取り上げてはっきりした声で言った。
「本艦は進路を変える。母星に戻ることを止め、公転軌道面に対して直角方向に向う。見た通り、親衛艦隊は異星艦に核攻撃し反撃を受けて消滅した。異星船が今後どのように行動するのかは見当がつかない。異星人は恐竜の住む星に近づいたら母星を消すと脅していた。今の攻撃で異星船が我々の母星を消してしまう可能性がある。『母星を攻撃する』ではない。『母星を消す』と言っているのだ。我が艦にはそれを防ぐ手段はない。9個の核爆発で囲まれても何ともない敵なのだ。我々は見届ける義務がある。事情を知っている者が必要だ。この星系外にいる艦隊に事情を知らせなければならない。」
「で、次はどうするつもりですか、千さん。」
三本は艦隊を消した千に言った。
「どうしたらいいと思いますか、先生。」
「相手は我々を警告なしで殺そうとしたのですから落とし前はつけてもらわなければなりません。でもあのオービス艦長はなかなか良さそうな人でした。母星が消えたら悲しむでしょうね。そうですね。私は大厄災と大幸運を同時に与えたらいいと思います。」
「大厄災と大幸運は相反する事です。具体的にはどうしたらいいのですか。」
「惑星に穴を開けたらどうでしょうか。惑星の自転軸に直径10㎞の穴を開けるのです。1㎞でもいいと思います。りんごの芯に千枚通しか錐(きり)で穴を開けるみたいですね。それくらいではりんごは割れないでしょう。でも大災害は確実に起こりますね。惑星中心の圧力で惑星中心を構成している液体状態にある鉄などの重金属は地表に吹き出し、冷えて固まることでしょう。瘡蓋(かさぶた)みたいですね。ことが収まれば生き残った惑星住民は貴重な重金属の露天掘りができる大鉱脈に出会うことになります。」
「なかなか面白い考えだと思います。大鉱脈は警告にもなります。地中から噴き出した鉄を見れば慢心も抑制されるでしょう。」
「まあ、北極と南極が海だったら海水は流れ込み大爆発を起こしてりんごは二つに割れるかもしれませんが。」
「どうなるかは私にも想像ができません。惑星に穴を開けたことはありません。そうしてみますか、先生。あとは相手の運によります。」
千はミミーに命じた。
「ミミー、惑星自転軸に沿って直径10㎞の穴を開けます。惑星自転軸の延長線上に行きなさい。分子分解砲の拡散射角は地表上で10㎞になるようにしなさい。入り口と出口ができる限り同じ大きさになるように距離を取りなさい。」
「了解しました、千様。照射強度はどの程度にしますか。一瞬で穴を開けるのか、数秒かけて穴を開けるのかです。前者は分解された物質の分子による圧力が高くなり宇宙空間に分子が放出される事になります。」
「一瞬で開けなさい。」
「了解。最大強度の60%で照射することにします。」
惑星の公転軌道面に直角の方向に向かっていたオービス艦長の哨戒艦の乗組員は異星人の宇宙船が母星に穴を開けるのを見ることができた。
その哨戒艦はたまたま北極の側に来たのだがそこに異星人宇宙船も来たのだった。
異星人宇宙船と母星が同時に見える位置だった。
見せるつもりだったのかもしれない。
異星人宇宙船から紫色の強烈な光の帯が母星の北極に届いたと思ったらその帯は母星の南極を通り過ぎて宇宙に消えて行った。
母星は破壊されなかった。
北極と南極から靄(もや)のような煙が噴き出し、宇宙空間に消えて行った。
その後はよく分からなかった。
観測できた北極では光が当たった位置から輝く赤い柱が空に伸び、蛇のようにのたうち回っていた。
まるで真っ赤な蛇花火(へびはなび)のようだった。
やがてその輝く赤い蛇は次第に輝きを失い黒くなっていった。
オービス艦長は操縦室の乗組員に言った。
「助かった。川本三本とか言う異星人は母星を助けてくれた。見たか。あの宇宙船は一瞬で母星に穴を開けた。北極から南極に穴を開けたんだ。あの赤い蛇みたいのはおそらく核にあった溶けた鉄だ。惑星の核は高圧だ。穴が開けば中身は穴から吹き出す。おそらく今頃、母星では大地震が起こっているだろうな。地震は惑星が落ち着くまでずっと続く。多くの建物が倒壊する。だが母星はまだある。消されるよりずっといい。失った質量はそれほど多くないみたいだから大気は地表に繋ぎ留められ残っているはずだ。助かった。・・・おい、映像は撮ってあるのか。」
「はい、撮ってあります、艦長。」
「司令部の石頭を溶かすのに役に立つからな。」
三本はホムスク宇宙船の操縦室で穴の開いた惑星を眺めながら千に言った。
「千さん、面白い惑星が出来上がりましたね。自転軸に鉄心が入っている惑星なんて珍しいと思います。コマみたいだ。」
「そうですね。自然にはできないことです。コマの鉄心は慢心を抑えるかもしれません。」
「ミミーさん、超空間ビーコンはまだ出ているのですか。」
「はい、まだ出ております、三本様。」
「千さん、と言うことは超空間通信が傍受できる宇宙船がこの惑星に来るかもしれないと言うことです。異常な惑星の形を見てどう思うでしょうね。」
「惑星に穴を開けることができる何者かがこの惑星に関与していると思うと思います。そして行動を慎重にするでしょうね。」
「何かこの辺りには冒険の種(たね)が転がっているようですね。」
「もう少しここに居ましょうか、先生。」
「未知との遭遇ですね。」
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