第12話 12、宇宙戦艦の操縦室 

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 暫(しばら)くするとその軍艦はホムスク船に向かって真っ直ぐ近づいて来た。

「千様、相手艦接近です。どうしましょうか。」

「7次元シールドは張ってありますね。現状維持です。様子を見ます。」

「了解。7次元シールドは張ってあります。」

 三本は言った。

「千さん。1光秒といえば地球と月の距離程度です。この宇宙船の大きさは1㎞でした。しかも暗黒偽装で隣接7次元にいます。そんな遠距離からこの宇宙船を探知できる方法とはどんなものなのでしょうか。レーダーもレーザーも反射がないから使えないはずですね。」

「ここは相手の防空宙域です。あらかじめ準備をしておくことができます。私なら受動的な観察をしていると思います。」

 「受動的観察ですか。潜水艦を見つけるパッシブソナーブイみたいものですね。・・・おそらく星空を撮影するのですね。ここは銀河系の中心近くですから辺りは星だらけです。星空を撮影して元の画像と重ね合わせればいいですね。マージ処理すれば変化した部分だけが浮き上がります。隕石かどうかはすぐに分かると思います。」

「そうだと思います、先生。さらに空間的なネットワークを形成しておけば位置が特定できるはずです。その情報は哨戒艦にすぐに伝えられるのでしょうね。」

「大(たい)したものです。」

 「問題は相手がどのように接触してくるかだと思います。宇宙船と戦闘機を壊した敵として攻撃してくるのか、強力そうな異星人宇宙船として交渉してくるのか。とにかくお互い言葉が通じないのですから。」

「面白そうですね。未知との遭遇です。」

 相手の宇宙船はホムスク宇宙船に距離10000㎞辺りで指向性の探査波を発射した。

「千様、相手宇宙船は探査波を発射しました。探査波はセンチ波と紫外波でした。共にメーザー化とレーザー化されておりました。反射はなかったと思われます。」

「このまま待機。」

「了解しました。」

 相手の宇宙船は100㎞までゆっくり接近して来てから止まった。

「なかなか勇敢ね。戦闘機が一瞬で消された事は知ってるでしょうに。きっと援軍を待っているのね。」

 「千様、相手艦から通信らしいものが入っております。マイクロ波通信です。周波数変調と強度変調の両方です。繋ぎますか。」

「繋ぎなさい。」

「了解。」

コンソールから意味不明の声が聞こえた。

間をとって何度か聞こえた。

おそらく「何者だ」と何度も言っているのだろう。

 「ミミー、こちらからも同じ周波数で答えます。準備しなさい。」

「千さん、僕に話させてくれませんか。千さんの声は綺麗だから女性だとすぐに分かります。男の声の方がいいと思います。それに通信だけでは相手の語彙は増えません。結局、通訳野球帽を冠って話さなければなりません。それには男の僕が適していると思います。」

「そうですね。・・・そうなったらお願いするかもしれません。でも相手は今ひょっとすると『5分以内に応答しなければ攻撃するって言っているのかもしれません。相手との意思の疎通の前に少し脅しておくのが必要かと思います。とにかく話してみてください、先生。」

「了解。未知との遭遇。うむっ。」

 三本はコンソールの端に掛かっていたマイクを取り上げて息を吸ってからゆっくり言った。

「えー。バカ、アホウ、トンマ。これは挨拶の接頭語である。貴君らの言語は理解できない。何とかしなさい。」

千はそれを聞いて笑い出してしまった。

「先生、最高。」

 相手からの通信は止まった。

同じ周波数での応答だから相手はこちらが聞こえていると分かったはずだった。

暫くすると再び相手から通信が入ったが、その内容は分からなかった。

「先生、次はどうしますか。」

千は興味深そうに三本に言った。

 「千さんは脅しをかけると言いました。脅しをかけようと思います。ミミーさん、この前に見たトリケラトプスのミニチュアを作ることができますか。それとそれを相手の宇宙船の操縦室に遷移させることができますか。」

「両方ともできますよ、先生。少し大きめのミニチュアにしましょう。3分間ほどで準備完了です。」

「お願いします、ミミーさん。そしたらその間にもう一度通信をします。」

そう言って三本はマイクを持って発信ボタンを押した。

 「えー、バカ、アホウ、トンマ、それとおまけにマヌケ。これは言葉が通じない時の挨拶の接頭語であり、理解された時には削除願いたい。貴君らの言語はいまだに理解できない。そちらが何も対応できないようだからここに来た原因を送ることにした。君たちの仲間はわが星の住民を誘拐した。それが原因だ。君たちは結果としてこれから多くの侵入者を迎えなくてはならなくなった。その責任は君たちの側にある。」

三本はマイクの送信ボタンを離してミミーに言った。

「ミミーさん、準備ができたらミニチュアを送ってください。それとできれば相手宇宙船の操縦室の様子を見たいですね。」

「了解、先生。」

 ミミーは相手船の操縦室に恐竜のミニチュアを遷移させた。

その部屋には何人もの人間が椅子にシートベルトをしてディスプレイの前に座っていた。

加速度の中和は効率が悪そうだった。

 その部屋に大きさが1mほどのトリケラトプスが小さな破裂音と共に空中に出現し、床にゆっくり落ちて弾んだ。

そのトリケラトプスはどうやらゴムのような材質でできているらしかった。

床に落ちたということは加速度があるということだ。

毎秒1mほどの重力用の加速をかけているのかもしれない。

そんな加速なら船の移動距離は少ないし、時々反転かスパイラル回転すればいいことだ。

 操縦室の人間は一斉に破裂音の方に振り向いた。

小さな恐竜が床を跳ねている。

慌ててシートベルトを外して操縦席シートの陰に身を隠した。

やがて恐竜が生きていないことを認識し、少し勇敢な一人が恐る恐る近づき恐竜の足を持って持ち上げて笑った。

乗組員たちはその笑いにつられて最初は笑い、すぐさま恐怖の表情を浮かべた。

おもちゃの恐竜に恐れをなして身を隠した自分を笑い、そして恐竜のかわりに爆弾を投げ込まれていたら死んでいたことに気がついて恐怖したのだった。

相手はこの操縦室が見え、そこに何でも送り込むことができるということだ。

 操縦室の指揮官らしい男は冷静沈着な男らしかった。

部下に大きな紙に黒い大きな円を描かせ、4人の部下にそれを掲げさせて恐竜の周りに外側に円が見えるように向けて立たせた。

和平の印か話し合いたいという印であろうことは直ぐに分かった。

この惑星では白旗を使わないらしい。

 三本は千に言った。

「千さん、相手はこちらが自由に爆弾を送り込むことができることを認識したようです。次はどうしますか。」

「先生は相手と話をしたいのですね。」

「はい、冒険ですから。でも死にそうになったら治療箱で治療してください。」

「ふふっ。了解。なるべく怪我をしないようにします。・・・ミミー、ロボット兵1小隊を相手宇宙船操縦室の中央に円形に遷移させそのまま円形に警備させなさい。目的は敵対行為の制圧です。小隊長には転送機アタッシュケースを持たせなさい。相手の行動が敵対的でなくなったら円の中央に転送機を構築させなさい。先生が冒険を求めて操縦室に乗り込まれます。先生が怪我をしないように小隊長に伝えておきなさい。」

「了解しました。千様。およそ15分間で準備が完了します。」

 三本は15分間の待ち時間の間に自宅に戻ってトイレに行った。

緊張や恐怖で失禁でもしたら恥ずかしいからだ。

ついでに白のワイシャツに着替え、ネクタイをして青の背広スーツに着替え革靴を履いて操縦室に戻った。

「へへっ。一応代表ですから精一杯の正装にしてきました。」

三本は照れくさそうに言った。

「お似合いですよ、先生」と千は言った。

 11体の暗黒迷彩色のロボット兵が相手宇宙船の操縦室の空中に出現した。

ロボット兵たちは左手で身の丈(たけ)大の盾を構えており、右手には盾と同じ長さの小槍(こやり)を前下に向けて持っていた。

小槍がただの槍ではないことを想像するのは容易だった。

空中から現れ、空中に浮遊していることができる兵士が持っているのだ。

 操縦室の人間はロボットの出現に対して何もしなかった。

こうなることは予測できたし、指揮官が円(まる)の印を相手に示していたからだ。

操縦室の指揮官は「みんな、動くなよ。そのままだ」と部下に大声で命令した。

こんな状況下で下手に動いて殺されたら犬死だ。

ロボット兵たちは槍を構えたままゆっくりと床に降下し、一体は操縦室の扉を閉めてその場に立ち、その他の兵は動きを示さなかった。

 相手が敵対行動を示さなかったことを確認したロボット小隊長はロボット兵たちの中心の床に転送機アタッシュケースを置き、箱形の転送機を出現させた。

そして直ぐに転送機の中に背広姿で通訳野球帽を冠った三本が出現した。

三本は転送機を出ると言った。

「話をするために来ました。私の名前は川本三本。この部屋の指揮官は手をあげてください。」

三本の声は操縦室にいる全員の頭の中で聞こえた。

キャップテンシートの近くにいた男が手を挙げた。

 「会話ができそうですね。最初にお願いがあります。この艦の乗組員にこの部屋に入らないように伝えてください。侵入者は殺すか消します。その際にはこの部屋は多少の被害を受けるかもしれません。あなたの行動を許します。伝えてください。」

指揮官は「分かった」と言って傍(かたわら)のマイクを取って言った。

「艦長のオービスだ。誰も操縦室に入るな。状況を知りたければ映像で知れ。」

 「オービス艦長、願いを聞いていただきありがとうございます。貴艦からの誰何(すいか)と思われる通信内容が理解できなかったので直接参上しました。何と言って誰何されたのですか。」

「むむーっ。大した内容ではない。『ここはレプチル星域である。退去されたい』と言った。」

「ここの星系はレプチル星系と呼ぶのですね。レプチルとは恒星の名前ですか惑星の名前ですか。」

「惑星の名前だ。」

 「他に何か言いましたか。」

「むむーっ。それも大した内容ではない。『何者だ。所属を明らかにせよ』とも言った。」

「それだけですか。脅しの発信はしませんでしたか。」

「むむむ。『退去しなければ排除する』とも言った。」

 「やはりそうでしたか。これからはそれを言わないほうが良いと思います。我々の返答は理解できましたか。」

「理解できなかった。」

「互いに相手の言っていることが理解できない状況下で相手を武力で排除しようとしたら戦闘になりますね。しかも相手は大宇宙を越えてこの星域に来たのかもしれません。優れた科学力を持っているはずです。勝てると思いましたか。」

 「思わなかったがそうせざるを得ないだろう。」

「そうですか。我々の宇宙地図ではこの星系は銀河系166セクターに属する864恒星系と呼ばれております。宇宙地図での864恒星系に関する説明では『爬虫類から進化したと思われる知能を持った二足歩行動物が集団を形成し狩猟生活していた』と記されております。我々の星の時間で何百万年も前の記録です。その時から今日まで、皆さんは狩猟生活から宇宙船で外宇宙にまで進出できるまでに進化されたのです。素晴らしい進展をなされました。我々がこの星系に来た時には皆さんは『退去しなければ排除する』とは言わなかったと思います。『せざるを得ない』と言うのではなくそう言わないことも選択肢にありましたね。」

「狩猟生活していたなら言わなかったのは当たり前だ。」

 「皆さんが進歩したように我々も進歩しました。我々の星はこの星よりもずっと時間進行速度が早いので皆さんよりも長い期間進展できたのです。皆さん方が我々の科学水準に追いつくのは難しい外部環境にあると思われます。ご理解できましたか。」

「悔(くや)しいが理解した。星の時間が遅いのでは仕方がない。」

 「素直ですね。色々な星系は色々な時間進行速度を持っております。原因の一つは恒星の大きさです。この星系の恒星は太陽になれることができる最低の大きさですから時間進行速度が少し早かったのだと思います。ですから大きな恒星を持つ星系では少し遅くなるのです。皆さんの星の住民の一部の方はここから7光年ほど離れた866恒星系の住民を誘拐しました。先にミニチュアでお示しした恐竜のトリケラトプスです。そのことはご存知ですか。」

 「知っている。宇宙船が攻撃されたとも聞いている。」

「私がしました。ここにたどり着くために一部を破壊しました。この星の皆さんに私のお願いと脅(おど)しを聞いてもらうためです。」

「お願いと脅しとはなんですか。」

「お願いとは今後二度と恐竜の住む星に行って恐竜を捕獲しないでほしいと言うことです。脅しとはもしそうしたら私は皆さんの住む惑星を消すだろうと言うことです。分子分解砲の数射で惑星は分子に変わるはずです。数秒で終わるはずです。数分かもしれません。」

 「お願いと脅しはよく分かりました。私にはそれを決定する権限はないが、あなたのお願いは何が何でも叶えなくてはならないと思う。国に帰って為政者に報告することを約束する。」

「そうしていただけると冒険してこの艦に来たことが有意義になります。」

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