第11話 11、宇宙船追跡
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宇宙船に戻った三本と千は操縦室に行き、千は電脳のミミーに言った。
「ミミー、よそ者の宇宙船の背後に行きなさい。暗黒外装、7次元隣接位相、7次元シールドのままです。相手に母星に帰れるだけの手傷を負わせます。反撃があったら適当に相手をします。あとは追尾します。その後は状況により判断します。」
「了解。衛星軌道を外れます。数分で背後に到着すると思います。」
三本の乗ったホムスク宇宙船がよそ者宇宙船の背後10㎞の位置に着いたのだが相手の宇宙船は何の動きも示さなかった。
暗黒外装は光もレーダー波も吸収する。
暗黒外装を通過できるのはX線と分子分解砲で使われているガンマー線だけだ。
それらの電磁波は7次元隣接位相にあるものを通過する。
7次元シールドは高い7次元位相にあるので特定の可視光を除く全ての電磁波と物体を遮断する。
ホムスク星の技術でもこれを突破することはできない。
千はミミーに言った。
「相手が気付かないんじゃあ埒(らち)があかないわね。ミミー、航跡が分かる通常弾頭の宇宇宙魚雷を相手に当てないようにして相手の10㎞先で爆発させなさい。それで気づくでしょう。」
「了解、千様。宇宙魚雷は遷移機で本船の5㎞先に出現させます。」
戦いの様子はミミーのいるコンソールで詳細に分かった。
ホムスク宇宙船の5㎞先に出現した細長い宇宙魚雷は輝く物質を噴射しながら相手の宇宙船の横を通過し、その先で桃色の光を発しながら大爆発した。
まるで派手な信号弾だと三本は思った。
爆発の3分後、敵宇宙船に動きがあった。
宇宙船中央の円筒部分から3機の小型戦闘機らしい機体が飛び出した。
ここは宇宙空間であるが小型戦闘機には翼が着いていたので戦闘機は惑星大気圏での戦闘にも使えるのだろう。
敵の科学技術は地球のそれよりずっと優れているようだ。
だいたい、地球には宇宙を飛び回ることができる戦闘機なんてない。
戦闘機が飛び出すと敵宇宙船は後部から青白いジェットを噴射し宇宙船を加速させた。
同時に宇宙船の中央骨格の色々な場所から同じ方向にジェットを吹き出した。
宇宙船は衛星軌道を変えるかあるいは衛星軌道から外れようとしていた。
敵戦闘機3機はまだホムスク宇宙船が分からないようだった。
別々の方向に飛んでいる。
宇宙空間で視覚を頼りにするのは無謀だ。
10㎞も離れていたら何も見えない。
レーダーを使うしかないのだがホムスク宇宙船は完全ステルスなのだ。
千はミミーに命じた。
「ミミー、敵戦闘機を消してしまいなさい。その後は宇宙船を追います。」
「了解。分子分解砲の拡散照射をします。」
ホムスク宇宙船の分子分解砲は相当強烈だったのかもしれなかった。
ホムスク宇宙船から宇宙空間に紫の光のコーンが生じ、そのコーン内に入っていた3機の戦闘機は消えた。
分子分解砲で使うガンマー線は本来は目に見えないもののはずだったが宇宙空間には光の帯が生じ、それはしばらく消えなかった。
宇宙空間に浮遊する水素分子などが光っていたのかもしれなかった。
敵宇宙船は戦闘機が消されると外側の衛星軌道に移るということを止め、惑星から離れることにしたらしい。
方向を惑星軌道から外宇宙に向けた。
ホムスク宇宙船は敵宇宙船にすぐに追いつき、側方の遠距離から拡散角を絞った分子分解砲を敵宇宙船中央の円筒部分を、中心を貫く鉄骨を外して円筒の外壁を狙って発射した。
円筒部分は半円形に切り取られた。
分子分解砲の2射目の狙いは円筒の反対側だった。
敵宇宙船はあたかも二箇所が食い千切られて無くなった肉つき骨のようになった。
円筒部分は恐竜の保管場所だったろうし、搭載艇の係留場所だったし、飲食料の保管場所になっていただろう。
千の攻撃はここまでだった。
あとは手負いの獣が仲間のところに導いてくれる。
「千さん、少し聞いてもいいかな。」
三本は相手の宇宙船の画像を見ながら傍の千に言った。
「何でしょう、先生。」
「相手の持っているエンジンの性能はいいみたいですね。あんな大きな搭載艇を飛ばすことができた。相手の宇宙船のエンジンも強力そうです。でもどんなにいいロケットエンジンでも何光年もの航行をするわけにはいきません。あの宇宙船はこの星系外からきたはずです。ミミーさんはこの星系では恐竜のいる星しか生存に適する星はないと言っていましたから。ということはこの星に来ることができた相手はワープとか遷移の技術を持っていることになります。相手は隣接7次元は知らなかったようですからこの宇宙船が使っていた7次元経由の遷移はできないと思います。そうするとワープ技術、あるいは我々の知らない技術で大距離を移動できる技術を持っていることになります。仮に相手がワープ技術を持っているとしたら、この宇宙船は相手を追跡することができるのですか。相手がワープでどこかの宇宙空間に移動したらその位置を特定できるのですか。」
「そうですね。簡単にはできないと思います。・・・ミミー、相手が遷移しても追跡できますか。」
「できません、千様。相手が7次元位相にでも行けば存在は見つけることができると思いますが同じ7次元ゼロ位相で遷移されたらその位置は特定できません。せいぜい遷移前の進行方向を探すだけです。」
「やはりできないみたいですね、先生。」
「映画では尾行する時には相手に分からないように電波発信機を衣服や自動車に付ける場合があります。それで思うんですが相手の位置が分かる発信機を相手の宇宙船に付けることはできませんか。もちろん普通の電波ではダメです。相手は何光年も飛ぶかもしれませんから。ですから小型の超空間通信機のような物を相手に着けておけば相手がどこに行っても判るビーコンか灯台になるのではないでしょうか。」
「いい方法だと思います。相手が7次元を知らないなら超空間通信はできないはずで、当然その電波も受信できないはずです。・・・ミミー、できますか。」
「簡単です、千様。全方位ビーコン用超空間通信機を磁石が付いた筐体に入れてあの宇宙船の骨格付近に遷移させれば簡単に付着させることができます。」
「わかったわ。早急にそうして。相手の宇宙船の速度も上がっているようだしワープが可能になる星系外の外宇宙にまでもうすぐだから。」
「了解。大至急で実行します。」
危ないところだった。
ミミーが超空間ビーコン装置を遷移させてから15分後に追跡していた宇宙船は消えた。
敵はワープ技術を持っていたのだ。
他の星系から来たのだろうから当然といえば当然だった。
「ギリギリでしたね、先生。」
「ワクワクします。大宇宙での追跡劇ですね、千さん。」
「慢心していたら悔しい思いをするところでした。ミミー、敵の位置がわかりますか。」
「全方位ビーコンですから方向は分かりますが正確な距離はわかりません。ビーコンの電波密度からおよその距離は分かりますが正確ではありません、千様。」
「その方向に恒星系はありますか。」
「10光年以内にはありません、千様。」
三本はまたまた口を出した。
「千さん、仮に僕が追跡されていることを知っている犯罪人だったら真っ直ぐアジトには帰らないと思います。追跡者をまいてから帰ると思います。あの宇宙船は追跡されていることを知っていると思います。」
「そうですね。あと2、3回ワープするかもしれませんね。とにかく敵がどの程度ワープできるのかを知っておきましょう。・・・ミミー、このまま10光年遷移して。その後、ビーコンの方向を測定して。」
「了解。10光年遷移します。・・・遷移完了。千様、超空間ビーコンは後方からです。」
「了解。右方向に5光年遷移してビーコン方向を測定。敵の位置を特定しなさい。」
「了解。5光年遷移します。・・・千様、敵の位置が判りました。消えた位置から同じ方向でおよそ7光年の位置です。」
「ありがとう、ミミー。このまま待機。・・・敵は恒星間飛行ができて7光年を遷移することができたのね。」
敵宇宙船はその後2回ワープした。
そして一つの星系の近くに現れた。
千はミミーに言った。
「ミミー、敵の行った星系はどんな星系なの。」
「はい、千様。恐竜のいた886恒星系と同じ銀河系166セクターに属する864恒星系です。太陽ができるギリギリの大きさの質量を持つ小さな太陽で惑星は2個です。内側の惑星は太陽に近すぎて溶けた地表だったそうです。外側の惑星は大気がある居住可能な惑星です。当時の記録では爬虫類から進化したと思われる知能を持った二足歩行動物が集団を形成し狩猟生活していたとあります。」
「そう。結構進化が早かったのね。小さな太陽のせいかもしれないわね。866星系は巨大太陽で864星系は極小太陽。極小太陽系の方が時間進行速度は早くなるはずね。」
三本が言った。
「これで異星人たちは忙しくなりますね。恐竜捕獲どころではなくなるかもしれません。それに銀河系も騒がしくなるかもしれない。」
「どうしてですか、先生。」
「全方位7次元ビーコンが発せられ続けているからです。大宇宙から超空間通信を受信できる宇宙船が864星系に来るかもしれません。864星系は銀河系にありますから銀河系も騒がしくなるかもしれないと思いました。」
「そうですね。」
「でもちょうど良かったのかもしれません。あの宇宙船が864星系に入ったということは緊急無線で私たちのことを母星に知らせているはずです。圧倒的な兵器を持つ異星人が宇宙船を攻撃しそれに対して何もできなかったことを知らせるでしょう。強力な宇宙人の来襲に対して準備すると思います。」
「それが私たち以外の異星人が864星系に来ることへの準備にもなるというわけですね。」
「そうだと思います。」
「恐竜捕獲業者は星の住民から総スカンですね。」
「あまりその立場には立ちたくないですね。」
三本と千は864星系に行った。
恒星から1光日辺りに遷移し、1光時辺りまで遷移なしで接近し、星系を観察した。
超空間ビーコンは第2惑星の辺りから相変わらず発信されていた。
864星系第2惑星は数千万年前のホムスク国大航宙時代に作成された宇宙地図に記載されていた状況とはかなり異なっていた。
その惑星の住民は狩猟生活をしておらず、星は綺麗に整備されていた。
豊かそうな森を形成している山々と、平地に広がる整然と配置された田畑と、点在する町と都市があり、大規模な工場群が海沿いに並んでいた。
「なかなか活気がありそうな惑星ね。宇宙に出始めようとしていた頃のホムスク星みたい。」
千はコンソール前の実時間映像を見ながら呟(つぶや)いた。
「確かに美しい星ですね。山は山で田畑は田畑で町は町で工場は工場です。こんな環境なら科学は発展するでしょうね。熱気と静寂がある。こんな環境なら異星に行って恐竜を捕獲しようとする人も出てくるでしょうな。」
「幅広い人間層ができるのですね。」
「そう思います。」
その時電脳のミミーが言った。
「千様、宇宙船を発見しました。第2惑星の公転軌道面上、本船の右1光秒辺りです。動いてはおりません。拡大しますか。」
「拡大しなさい。」
「了解。」
その宇宙船はこれまで追跡して来た宇宙船とは全く違っていた。
追跡して来た宇宙船は中心の骨格にいろいろな部分がついていた構造であったが、実時間映像になって現れた宇宙船は大きな円いお盆を口に含んだサメのような形をしていた。
「あれは軍艦ね。装甲にお金をかけている。相当分厚い装甲を持っていそう。あれなら安心して宇宙を飛べるわ。」
「前の下側の円盤はなんなのですか。」
「あれはおそらくワープ用のエンジンです。推進用のエンジンとは別に着けているみたいですね。ホムスク星の大航海時代の宇宙船は球形で球の赤道にそってサイクロトロンエンジンが着いていました。そのエンジンだけで推進とワープをしました。残りの大部分は移民者用の冬眠カプセルでした。一つのエンジンでは推進かワープかのどちらかしか使えません。面倒なんです。あの宇宙船は戦うためにワープと推進装置を別にして同時に使えるようにしているのだと思います。」
「強力な武器も持っているでしょうね。この船は大丈夫なのですか。」
「もちろん大丈夫かどうかは分かりません。大丈夫のはずだと信じて戦わなくてはなりません。相手の武器が分かり、こちらの武器が同様だとわかれば作戦が重要になるのですが、相手の武器が分からない状況ではホムスク星の武器を信じて戦わなくてはなりません。でもなんとかなると思います。」
「ワクワクからドキドキになりますね。冒険の旅です。」
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