第10話 10、敵基地への攻撃 

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 三本はティラノサウルスのグルに言った。

「グル、私は戦うことにした。一人で戦う。グルは私の戦いを仲間と一緒に見てもいい。」

「いつ戦いを始めるのか。」

「そうだな。明日は戦いの準備をしなければならない。明後日の朝から戦う。」

 「手伝うことがあるか。」

「連中は河原にいるが森に逃げ込むかもしれない。逃げ込んでいる場所を教えてくれ。決して連中を攻撃してはならない。私と連中との戦いだ。遠くに離れて見張っているだけでいい。決して近づいてはならない。連中は強力な銃を持っている。連中の銃は簡単にお前の体に穴を開ける事ができる。撃たれたら死ぬ。」

「分かった。そうする。」

 「今日はこれから戦いの準備をする。ここで別れる。またな、グル。」

そう言って三本は上昇し梢を通り過ぎて森の上空に出た。

千も続いた。

ティラノサウルスのグルは三本達が大木の太い枝を避(よ)けもせずに通り過ぎて消えて行ったのをじっと見ていた。

友達は一飲みにできるくらい小さいが強そうだった。

不思議な術を使う。

 河原にはまだギギー達がいた。

ギギーは三本から貰った槍を片足に掴んで攻撃の方法を試していた。

三本はスカイカブをギギーの前に降ろして言った。

「ギギー、まだいたのか。」

「友達の三本。また会ったな。槍の練習をしている。」

 「そうか。ギギー、お前に伝える事ができた。森で二足で歩く恐竜に出会い友達になった。頼まれたのでこの川の下流にいる他の星から来た連中と戦うことにした。明日は戦いの準備をする。戦うのは明後日だ。ギギーは見に来てもいいが近づくな。危険だ。それを伝えにここに来た。」

「三本は連中と戦うのか。見せてもらう。近寄らない。」

「これから戦いの準備をする。それじゃあな、ギギー。」

三本と千は急速上昇し青空に消えて行った。

 三本と千は搭載艇に戻ると地上の隊長に下流の河原に集結している異星人の様子を遠距離から監視し、変わった動きがあったら報告するように命じた。

転送機で本船に戻り、実時間観測で異星人達の詳細を観測した。

車両の数と配置、武器の保管場所、人数、寝起きする場所、食事をする場所、ヘリコプターの位置などを確認した。

さらに異星人の宇宙船も観測した。

宇宙飛行ができるように破壊しなければならないからだ。

胴体中央の大きな膨らみは恐竜の保管場所と搭載艇の駐機場所だと分かった。

そこを消しても宇宙航行には差し障りがないだろうと判断した。

 二日後、三本はスカイカブ単機で敵基地を攻撃した。

いるかも知れない見物人を考慮して夜が明けて4時間ほど経ってからだった。

千はそれを上空で見ていた。

警護のロボット兵111体は上空の千の周囲に散開して事の成り行きを見守ることにした。

三本は分子分解砲を使う予定であったので地上付近にいることは危険だったからだ。

 三本は森の方向からまっすぐ敵基地に突っ込んだ。

分子分解砲の拡散角度は3、照射強度も3にした。

この拡散角度では照射は距離20mで1mに広がり、強度3はどんな物でも分子に分解した。

実験では強度3は10㎥の岩を瞬時に分子に分解してしまう。

 三本は最初に上空から自動車を目標とした。

上空40mから一台一台と消していった。

強度3を使うまでもなかったが威力を相手に示すように自動車のいた場所には直径が2mほどの深い穴が生じた。

10分間ほどで50両の車両は射線を外れた切り取られた部分を残して消え、ヘリコプターも消えた。

 その頃には異変に気付いた異星人が小型の銃を構えて外に飛び出し上空のスカイカブに銃撃を開始した。

人間が出て来たということは基地から軌道上の宇宙船に緊急連絡がなされているはずだ。

 三本は下から飛んでくる銃弾が見えた。

銃弾は三本の体を通り過ぎ、スカイカブも通り過ぎるのだが、体の中を銃弾が何発も通り過ぎるのはあまり気分のいいものではなかった。

三本は高度を上げ分子分解砲の拡散角度を2にして1000mの高度から建物を狙い始めた。

拡散角度2では10mで10㎝広がるから1000mではおよそ10mに広がることになる。

建物を正確に狙って一棟ずつ消していった。

 全ての建物と全ての車両がなくなると異星人は途方にくれた。

まず掩体がなくなった。

さらに先ほどまで敵に向かって乱射していたので弾薬も少なくなっていた。

武器貯蔵所が無くなってしまったので弾を補給することができなくなった。

食料庫も無くなってしまった。

水は川の水で何とかなるが眠る場所もなくなってしまった。

 三本は高度を下げ、分子分解砲で基地の周りに深い堀を穿(うが)ち始めた。

分子分解砲の装弾数は無制限ということだったので根気よく堀を作っていった。

敵基地からの銃撃はほとんどなくなっていた。

敵はスカイカブが打ち落とせないことを悟っていた。

すでに多量の銃弾を撃ち込んでいたからだ。

そしてその飛行体を操縦しているのが人間であることを確認していた。

だがそのことが軌道上の宇宙船に連絡されたかどうかは分からなかった。

すでに建物は消されていたからだ。

 1時間ほどで堀は完成し、川に近いこともあって堀はすぐに水で満たされた。

三本は敵の50mまで近づき機関銃を100人程いた敵の前の地面に向かって10秒間連射した。

「動くな」という射撃だった。

敵は機関銃の連射に対して地面に伏せたが応射しなかった。

応射しても無駄だということが分かったのであろう。

すでに何百発も当てているはずだった。

基地は壊滅したのだが火災は起こらなかった。

燃える物が無くなってしまったからだ。

 三本は透明シールドをしてから上空の千のところに戻って透明シールドを解除した。

ロボット兵士達は入れ替わりに地表に降り、基地を遠巻きにした。

三本は千に言った。

「千さん、無事に敵基地襲撃を完了しました。怖かったですね。自分に向かってくる銃弾って見えるものなのですね。何十発も通過しました。」

「先生は貴重な体験をなされました。」

「確かに冒険の人生ですね。・・・後は衛星軌道の宇宙船から様子を調べに連絡搭載艇が来て地上の人間を全員載せて宇宙船に戻ってくれれば都合がいいですね。」

「そうですね。」

 三本と千は森の樹冠の上で千が用意してくれたお弁当を食べた。

お弁当を食べ終えた頃、脚に槍を持ったギギーが仲間を連れて周囲の樹冠の弱そうな枝にとまった。

翼竜は大きかったのでギギーの頭はちょうど樹冠の上に浮遊するスカイカブの高さになっていた。

 「ギギーは見た。三本はよそ者を痛めつけてくれた。ありがたい。」

三本はジンジャーエールの小瓶を持ちながらギギーに言った。

「ギギー、仲間を連れて来たのか。適当に痛めつけておいたから当分はよそ者はこの星に来ないだろう。」

「三本は強い。そんな小さな乗り物で建物ごと地面に大穴を開け小さな川もつくった。」

 「すまない、ギギー。残念だがギギー達がこのような乗り物を作ることができるのは数えきれない年月が過ぎた先になる。・・・夜空に輝くたくさんの星にはたくさんの生き物が住んでいる。進んでいる星もあれば遅れている星もある。僕の星はよそ者達の星よりも進んでいたのでよそ者達を簡単に痛めつけることができた。そういうものだ。」

「我々はよそ者には勝てないのか。」

 「今度来たよそ者の数は少なかった。ギギー達を捕まえて自分の星に連れて行くためだ。だから人数が少なかった。人数が少なかったら工夫をすれば勝てる。相手を強い狩の獲物と考えて一人ずつ狩れば勝てる。狩られたら負ける。よそ者が多数来たら勝てない。」

「そうか。残念だ。」

「ギギーに狩られる獲物もそう考えている。そういうものだ。強いものには負ける。・・・今回、この星に来たよそ者もそう考える。この星には自分たちが勝てない強い者が居ることが分かった。そんな星には来たくはないだろう。殺されるからな。」

「来なければいいな。」

 その時、電脳のミミーからシャトルが出発したと報告が入った。

三本はギギーに言った。

「ギギー、宇宙からよそ者の搭載艇が来ると連絡が入った。よそ者は今は警戒しているから近づかないほうがいい。近づけばすぐに殺される。地上のよそ者はもうすぐにいなくなるだろう。搭載艇に乗って一旦母船に戻るはずだ。状況を知るためにな。僕たちはこれから森に入る。どうなるかを見るために森に隠れる。最終的にはよそ者の宇宙船を痛めつける。この星に二度と来ないようにな。それじゃあな、ギギー。」

そう言って三本と千は梢を通り過ぎて森の中に入った。

 森の地上には10体のティラノサウルスが立って三本を見ていた。

三本はティラノサウルスの区別ができなかったのでティラノサウルスに向かって叫んだ。

「グルはいるのか。僕は君たちの区別ができない。」

一体の大柄のティラノサウルスが前に出て叫んだ。

「グルだ。友達。三本。」

 「グルか。僕の戦いを見たのか。」

「見た。三本は強かった。三本は翼竜とも友達なのか。」

「友達だ。友達はギギーという名前だ。」

「ギギーか。連中はそんな音をよく出す。」

「グルは僕の話が聞こえたのか。」

「聞こえた。ギギーの声は分からなかったが三本の声は聞こえた。」

「ギギーに言ったようによそ者はやがていなくなると思う。地上のよそ者がいなくなったら連中の宇宙船を痛めつけるつもりだ。二度とこの星に来たくなくなるほどにな。」

 「連中はもうここには来ないのか。」

「それは分からない。」

「我々は勝てないのか。」

「残念だが獲物になっている限りは勝てない。前にグルに言った。相手を狩れば勝てるかもしれない。そのためには狩のように一致協力しなければならない。」

「分かった。」

 「グル、よそ者の宇宙船から搭載艇が出発したと連絡が入った。僕はこれから森の端から様子を観察する。グル達は遠くから見てもいいが近づいてはならない。連中の武器は強力だ。近づけばあっという間に殺される。分かったか。」

「分かった。」

「それじゃあな、グル。元気でな。」

そう言って三本と千はスカイカブを大木を避けながら河原の方に進めた。

流石(さすが)に数メートルもある巨大な大木の幹を通過したくはなかった。

 よそ者の搭載艇は巨大だった。

十数トンもある恐竜を生きたまま運ばなければならないのだから当然だった。

搭載艇は大気がある惑星用らしく太い筒型の胴体に巨大な三角翼が着いていた。

搭載艇は宇宙空間と大気空間を飛ばなくてはならない。

降りる惑星の大気に酸素がどれほど存在するのか分からないからジェットエンジンは使えない。

よそ者の搭載艇は後部に多数の噴射口があったが前方には空気の取り入れ口はなかった。

ロケット推進のようだった。

 搭載艇は基地の周囲を何周も旋回し、やがて滑空して基地の広場に近づいた。

基地に近づくと三角翼の何箇所かの覆いが移動し、タービン型のローターが翼内に現れ、大気を下方に吹き付けてゆっくりと着地した。

着陸の時には三角翼は機体を持ち上げる翼の本来の役目を終えてローターを支える巨大な筐体になるようだった。

 着陸すると粉塵が収まる前に胴体下の大きなハッチが地上に降ろされると中から銃を構えた多数の兵士が飛び出して搭載艇周囲に展開した。

地上に生き残っていた人間は銃を周囲に向けながら我先に搭載艇に向けて駆けた。

基地の人間の収容が終わると兵士たちも搭載艇に戻り、ハッチが閉じられると同時に搭載艇は空中に浮き上がった。

搭載艇は一直線に高空に向けて加速しやがて青空に吸い込まれた。

 よそ者の搭載艇がいなくなると三本と千は森に隠した搭載艇に戻り、展開していた兵士達を搭載艇に収容し、森の梢を通り越して宇宙船に戻った。

料理はこれからだった。

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