第6話 6、ティラノサウルスの反撃 

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 実時間観測とかいうものは実に便利だった。

相対位置を定めてしまえば衛星軌道を回っている宇宙船が夜の側に行っても同じ空間の立体像を見ることができる。

遠景像でもクローズアップでも自由自在だ。

 三日月湖のほとりの樹木がまばらな平原に集結していた自動車群の持ち主は予想通りヒューマノイド(人型)だった。

二本の脚と二本の腕を持ち、二つの目と耳と一つの鼻と一つの口がある頭蓋を持っていた。

お揃いの迷彩服を着、つばが長い帽子を冠り、帽子には安全メガネを乗せてあった。

靴紐で締める頑丈そうな長靴を履き、手袋は五本の指が入るようになっていた。

容貌は地球人とは少し違って口が大きく両目は比較的離れていた。

何より違っていたのは彼らには太い尻尾があった。

 「地球人とは違う異形(いぎょう)の知的宇宙人だ。感動。」

三本はクローズアップされた異星人を見てうめき呟(つぶや)いた。

「あれはおそらく爬虫類から進化したヒューマノイドですね。哺乳類の猿類から進化した地球人とは違います。」

 「爬虫類からの進化としたら卵を産む卵生ですかね。」

「どうでしょうか。そうとは限りません。出生の方法は比較的に進化の早いところなので多彩な方法で子供を育てると聞いたことがあります。」

「そうですね。卵生と胎生には一短一長があります。栄養を吸収して成長する卵でもあれば女性は楽でしょうね。小さい卵を産んで、卵が大きくなって子供が生まれたら母乳で育てることができたら女性は出産で死ぬことはありません。」

 「・・・そうですね。先生は奇抜なことをお考えなのですね。」

「それほど奇抜なことではないと思います。人工子宮は卵の殻みたいなものだと思います。胎児の成長に合わせて大きくなる人工子宮があったら便利ですね。」

「先生のそのお考えは第二の先生の人生で実行されたのかもしれません。」

「ムムムーッ。そうでしたか。きっと失敗したのでしょうね。残念。」

 そんな会話をしているうちに自動車群は散開して薄暗い巨大な樹木林に入って行った。

大型車両は森には入らず森の縁に面して半円形に展開した。

大型車両に隠れて見えていなかったヘリコプター型の大型航空機も集結地には用意されていたことが分かった。

 「ミミーさん、あの小型車を追跡できますか。」

「ふふっ、先生。大丈夫です。どこまでも追跡できます。映画のようにクローズアップと遠景で実況放送いたします。」

小型車の群れは左右に大きく分かれて巨木林の中に入っていき一定距離ごとに小型車を残しながら林に侵入し、その後、左右先端の車列は袋の口を閉じるように合流して止まった。

 「あれは巻狩(まきがり)ですね。一番奥にまで行った自動車が勢子(せこ)になって獲物を追い立てて行くのですね。包囲の出口は樹木の無い湖畔の平原でしょうね。平原ならヘリコプターも使える。」

「でも何を狩るのでしょうか、先生。この前に見た巨大恐竜だったらあの程度の自動車だったら逆に獲物だと思うかもしれません。」

 互いの連絡が取り終えたのであろう。

包囲陣は一番奥の自動車からゆっくりと包囲を狭めて行った。

スピーカーで大きな音でも出しているのだろう。

小型の動物が驚いた様子で逃げ回っている。

自動車はそんな小動物にも注意を払い、なるべく包囲から逃さないようにゆっくりと追い立てて行った。

目的とした獲物の周囲がなるべく混乱したほうが便利なのだ。

 包囲網の中には巨大恐竜が二頭いた。

一頭は三本たちが見たことがあるティラノサウルスのような巨大な口を持つ肉食らしい二本足の巨大恐竜で、もう一頭はトリケラトプスのような細い口と三本の角と首の周りに固そうなフリルを持った四本足の巨大恐竜だった。

二頭の恐竜は互いの獲物が重複しないので同じ地域で共存できたのだろう。

 二頭は群れから離れたはぐれ者で集団による効率良い狩をすることができなくなっていたので森の外れの獲物の多い川辺の森に住んでいたのだった。

巨大肉食恐竜は食用の獲物がある限り強力な防御装甲を持った恐竜をわざわざ危険を冒(おか)して襲うことはない。

それにあの大型恐竜の肉は硬くて不味(まず)い。

二頭は満腹でくつろいで半ば眠っていた。

 ティラノサウルス型の恐竜は尾の先端を体の下に巻き、太い両脚の膝を体の側方に立て、細い両腕を膝と体側の間に入れ、巨大な口の先端を地面に押し立てて眠っていた。

大事な両眼は高い位置にあるし、細い両腕は太い両脚で守られているし、敏感な尾先は巨大な体の下に仕舞われている。

トリケラトプス型の恐竜は尾を体の下に巻き四本脚を折り曲げて体を乗せ、頸(くび)を曲げて顎(あご)を体に付けて眠っていた。

これも体の弱い部分を守りながら眠る体勢だが立派な角は威嚇的に前方に突き出していた。

この森も野生に満ちているようだった。

 満ち足りていた恐竜たちは自分の周囲を餌となる小型動物たちが慌(泡)てふためいて通り過ぎても見向きもしないで薄眼を開けて半ば眠っていた。

自分は強く、どんな動物も自分を獲物にしようとは考えていないはずだった。

やがて大きな音を出す小型の異形の動物が遠くから近づいて来た。

それでも恐竜たちは立ち上がることはしなかった。

脚の膝の高さにも満たない動物など気にすることもなかった。

 小型自動車の狩猟者達が最初に出会った巨大恐竜はトリケラトプス型の恐竜だった。

狩猟者達は恐竜が獲物を追いかけないことを確認すると催涙弾を恐竜と自動車の間に発射した。

催涙弾の白煙は濃度差を持って拡散し、恐竜に達した。

トリケラトプスは匂いに驚いて起き上がり、白い白煙を確認すると一声威嚇の咆哮を発してから白煙から遠ざかるように移動を開始した。

脚の速さには自信があった。

得体の知れない白煙に突進しようとは思わなかった。

痛みが生ずるような匂いだったのだ。

 ティラノサウルス型の恐竜は刺激臭を感じると立ち上がって周囲を警戒の目で見回し、異常事態が生じていることを知った。

催涙ガスは大気より重く、10mの高さにある目や鼻は催涙ガスの影響をそれほど受けなかった。

ティラノサウルス型の巨大恐竜はトリケラトプスとは異なる行動を取った。

自分はこの世界の最強の生き物なのだ。

 ティラノサウルスは怒りの咆哮を発してから白煙に対して斜めに突進した。

強敵と戦うには正面からではなく必ず相手の横に出てから戦わなくてはならない。

なるべく早く移動し、敵が向きを変える時に生ずる隙に攻撃をかけるのだ。

敵の背後に出れればもっといい。

 はたして敵は白煙の向こうにいた。

餌にしている動物よりも小さく、見たこともない姿をしていた。

同じ形をした敵は正面にもいた。

ティラノサウルスは自分が狩られている事をすぐに認識した。

敵は仲間が獲物を狩るのと同じことをしている。

ティラノサウルスは白煙の先にいる敵ではなくその横にいる正面の敵に向かって突進した。

しかも真正面ではなく少しだけ方向を外して突進した。

敵が攻撃ではなく逃走だと思ってくれれば幸いだ。

 ティラノサウルスの向かう先にいた自動車はティラノサウルスが逃走を図っていると判断したようだった。

ティラノサウルスの進行方向を遮るように移動し催涙弾をティラノサウルスの前に発射した。

ティラノサウルスは目の前に発生する白煙を無視して全速力で白煙を走り抜けた。

ティラノサウルスは目の前に止まっていた自動車を走り抜けながら太い尻尾で自動車に一撃を加えた。

 小型自動車は横転して回転し、乗っていた者達は車外に放り出された。

シートベルトをしていなかったらしい。

ティラノサウルスは突進を止め、ゆっくり向きを変え、地面に転がっていた人間を一人一人巨大な口で噛み砕いた。

砕いた人間は吐き出した。

満腹だったし森の王者の自分を狩ろうとした小動物に久々の怒りの感情で仕返しをしたのだった。

ティラノサウルスは悠々と森の奥に消えて行った。

唾を吐けるものなら吐いていただろう。

 トリケラトプスは白煙に追い立てられて他の動物とともに平原に出た。

狩猟者達はトリケラトプスを遠巻きに囲んだが攻撃はしなかった。

一緒に狩り立てられた小動物は囲みの隙間から逃れ出たが狩猟者達は何も反応しなかった。

目的がトリケラトプスであることは明白だった。

トリケラトプスは森に戻ろうとしたが狩猟者達は森の前に催涙ガスの煙幕を張った。

トリケラトプスは歩むのを止め途方にくれた。

 そうこうしているとトリケラトプスに上空に舞い上がったヘリコプターから4方に広がる網が投げかけられた。

網は丈夫で破ることはできずトリケラトプスの動きは封じられた。

狩猟者達はトリケラトプスを傷つけないように幅広の布で網ごと何重にも巻きつけトリケラトプスの動きを止めた。

頭は柔らかい布で巻かれ目は閉じられ口も閉じられた。

 「あの連中は巨大恐竜を捕らえることが目的だったようですね。」

三本はディスプレイに展開されている状況を見ながら言った。

「そうみたいですね。あの捕まった恐竜はきっと低温箱に入れられて強制的に冬眠されるのでしょうね。その方が餌の準備をしなくてもいいですから。あの宇宙船は恐竜を運ぶための輸送船なのでしょう。」

 「それにしてもあのティラノサウルスみたいな恐竜は頭が良かったですね。しっかりした意思を持って行動しました。知能が発達しているのですね。ミミーさんがアップで恐竜の顔を見せてくれましたが、人間を噛み砕いている時の恐竜の顔が忘れられません。怒りで目が燃え上がっていました。」

「食べるためではなく報復するために行動していましたね。」

「千さん、地上に行きませんか。」

「ふふっ、冒険しに行きましょうか、先生。」

 千はいくつかの指令をミミーに伝えた。

「ミミー、搭載艇で地表に行きます。搭載艇には111体のロボット兵を積みなさい。階級は100体の兵士と10体の小隊長と1名の隊長です。それと私たちが乗るまだ名無しのスーパーカブを格納庫に積みなさい。本船は7次元シールドを張って隣接7次元の状態で周回軌道を保ちなさい。常に私たちを監視し、危険が生じたら介入しなさい。」

「了解しました、千様。お楽しみください。」

 三本と千は搭載艇で地表に降りた。

搭載艇は直径が60mの球形であったので隣接7次元に入って80m以上の高さを誇る樹冠を通り過ぎ、十分に広い場所を見つけると隣接7次元からこの世界に実体を持つゼロ位相に戻った。

上空からは樹冠に遮られて発見されないだろう。

 「千さん、この搭載艇は丈夫なのですか。」

「丈夫です。大宇宙を高速で飛べる宇宙船ですから小型の隕石が衝突しても壊れないような強度を持っております。恐竜に噛まれても傷は付かないと思います。体当たりされても重いですからびくともしません。」

 「これだけ大きいのですから重いのは分かりますがどれくらいの質量なのですか。」

「・・・月の質量の1%くらいですね。母船は地球の質量ほどです。大部分が中性子塊の重さです。」

「だからほとんど常に隣接7次元にいるのですね。この世界に出現したら地球は大混乱です。」

「そうです。」

 千は最初にロボット兵を外に出し周囲に展開させた。

ロボット兵は5体が一つの集団となって行動する。

その集団は分隊と呼ばれる。

分隊では兵士の一人である軍曹が命令する。

分隊2つで小隊を形成し少尉の小隊長の命令に従う。

10名の小隊長に命令するのは中尉の中隊長なのだがここでは隊長になっていた。

 「ロボット兵士というのはホビーさんと同じ能力なのですか。」

三本が千に聞いた。

「能力は同じですが携行する武器が違います。強力な分子分解銃と擲弾と大きな盾を持っています。個別でも十分に強いのですが分隊として行動しますから強さはさらに増しております。」

「少し不満があるのですが、千さん。」

「何でしょう。」

 「兵士の姿は光沢金属の姿です。恐竜のいる惑星としては不似合いだと思います。」

「それはそうですね。」

千はそう言ってコンソールに向かって言った。

「隊長、千です。兵士の外装を暗黒を基にした迷彩にしなさい。それで問題が生じますか。」

「問題は生じません、千様。暗黒迷彩にいたします。」

コンソールのディスプレイに隊長らしいロボットが現れてそう言った。

兵士達は森の暗闇に溶け込んだ姿になった。

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