Case, ファフニール
バレンタインデーでは多くの若者が愛を伝えあったり、日頃の感謝を述べたりする。
俺、アイシェン・アンダードッグは後者だ。一人じゃ何もできない自分についてきてくれる仲間たちに感謝を伝えるため、プレゼントを用意した。
俺は今、ファフニールという騎士団のなかで最も頼りになる相棒の部屋を訪ねていた。
――コンコン。
「ファフニール?……あれ、反応がない。ファフニールゥ?」
「……あぁ、アイシェンか。丁度いい、入れ」
「お邪魔しまーす……って、どうした?やけに汗だくじゃないか」
「いや、少し散歩にな」
散歩というわりにはすごく疲れていそうだ。これは早く用件を済ませて休んでもらった方がいいかもしれない。
「はい、ファフニール。バレンタインのプレゼント」
「チョコレートケーキ……なるほどバレンタインデーか」
ファフニールはアイシェンから皿を受けとると、一緒に付いてきたフォークを使って食べ始める。
「ブリタニアでは男性から女性にプレゼントを渡し、愛を伝え合うなんて言われているな。愛云々はともかく、日頃の感謝や気持ちを物としてきっちり伝えるとは、中々ユニークなイベントだ。そうは思わないか?」
「そうだなぁ、確かに言葉だけじゃ通じないってこともあるし、人のことを思いながら料理するのも楽しいし」
「本来は花束を渡す者が多いらしいが、アイシェンはケーキか。これもまた、自分の得意なことを使ったいいアプローチだ」
「甘いものは好きだからな、料理も人並みにできるし。俺が一番輝く日かも」
「その輝きが仕事にも向けられればな」
「あー!ファフニールが言っちゃいけないこと言ったー!!」
「冗談だ。ほれ、お返し」
ファフニールから手渡されたのは、手のひらほどのサイズの小さな石。
しかしその石は白く、透き通っていて、何より綺麗だった。
「その……散歩をしているときに見つけて、綺麗だったから色んな店を訪ねて綺麗にしてもらって……まぁとにかく、お守りにでもしておけ」
「これは……凄い綺麗だ。何て言うかこう、太陽の光に反射してキラキラ光って、目が潰れそうだ。三角形みたいな形なのは理由があるのか?あとあと、この石の名前は?」
「し、質問ばかりするな!とにかくもう出ていってくれ。あと、その石は大事にするのだぞ!!」
「うわ、押すな押すな!!わかった、大事にする!!」
ファフニールは無理やりアイシェンを部屋から追い出した。
彼女が汗だくなのは、今まで外を走り回ってきたからだ。
アイシェンにプレゼントした石を整えるために、色んな店に頼んだ。しかし時間がかかり、ようやく出来たのがついさっき。
あまり加工がされたことの無い石だったからか、想像以上に準備に時間を要した。
本当にたまたま手にいれ、アイシェンにプレゼントするために走り回って用意したその石の名前は。
「ダイヤモンド……あの男、価値わかってるのかなぁ」
***
~綺麗な石~
ファフニールからのお返し。
綺麗で頑丈、宝石については無知なアイシェンでさえも、その美しさには目を奪われてしまう。
何度聞いても名前を教えてくれず、ジークフリートに尋ねても、目を見開いて「まさか、まさかね……」としか言ってくれなかった。
正体は以前として不明だが、それはそれとしてファフニールからの心のこもったプレゼントだ。ネックレスやら指輪やらに改造して身に付けていようと思う。
バレンタインデー短編 By弱小記主人公s 原田むつ @samii2908
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