最期の流れ星

和音器官

最期の流れ星 

 公園のベンチに座っていた老人にいきなり話しかけられた。

「そこの若いの。宇宙の果てがどうなっているか知っているか?」


 俺は宇宙理論を主に専攻している大学生だ。

「宇宙の果ては重力によって閉じられているというのが定説です。そのことから宇宙の果ては存在すると考えられます。」

「存在するかどうかではなく、その果てがどこにあってどのような環境かということは分かるか?」

それは観測できないからどうしようもないはずだ。光であっても影響を受ける重力によって宇宙は閉じられているのだから観測しようもない。

「観測しようもないだろうと思っているな。まあしょうがない。ちょっとばかり老人の昔話に付き合ってくれるか?」


 私はかつて政府が秘密裏に建設したある研究施設の主任研究員をしていた。自分ともう一人の仮にAとしよう。その二人が責任者としてその実験設備を運用していた。

 そこで行われていた研究とは、「宇宙を創る」研究だった。人間が利用できる物理法則では直接宇宙の果ては観測できない。だから自分たちで疑似的な宇宙を創造して実験しようという研究プロジェクトだ。


 自分たちの手で宇宙を作れるなんてなんとロマンあふれる仕事だろうか。私は寝る間も惜しんで研究に没頭したよ。それは私だけではなく周りの共同研究者や設備の整備を行う整備士の人たちもそしてAも同じ思いだった。


 最初こそ失敗続きだったが、運用が開始されて数年が経ったころには安定して宇宙を生成できるようになっていた。どのような条件下で宇宙は創られたのかなど貴重な様々なデータを収集することができた。


 その後私とAの間ではしょっちゅう意見の言い争いが勃発した。理由は我々の創った宇宙に存在する生物の扱いの方針だった。彼は宇宙に存在するすべてのものを使用する権利は我々にはあり、誰もそれを私たちから奪うことはできないという考えで、私の生命は平等であり、我々と同じく尊重すべきであるという考えとは正反対である。彼との話し合いは常に平行線だった。


 そんな日々が続いていたある日事件が起こる。私たちが管理していた宇宙内に生命が誕生したという知らせが来た。そしてAがその生命が誕生した星に隕石を落として生物を根絶やしにしてしまったのだ。星を誕生させる技術を応用してその惑星の衝突軌道上に小惑星を生成してぶつけたのだ。


 その時私は非番で彼が隕石を落としたという報告を受けてすぐに設備に戻り、彼を問いただすよりも先に被害にあった惑星の修復を行った。しかしあまりにも短時間に特定の宙域に干渉しすぎて機器が暴走し、フリーズ状態になり惑星をその周辺の空間が固まってしまった。


Aの悪行よりも私のミスの方を一大事とお偉いさん方は考えた。研究計画に大規模な遅れを作ってしまった私は解職処分となりかけたがなぜかAが私を擁護した。


 そんなこともあり私は研究施設内でAには顔が挙げられなくなってしまった。彼の方針にも少しは理解の余地があると考えた私だがどうしてもすべてを容認するわけにもいかず、かつてまでの勢いではないが意見の言い合いはあった。


 そしてまた数年が経ったころ凍結解除した宙域でまた問題が発生した。今度は高度に発達した文明を確認したということだった。しかし現実と疑似宇宙空間内の時間の流れの差を作っていた機器がちょうどその星で恒星間航行の技術が開発されたぐらいのところで止まってしまった。


 明らかに機器の故障と知的生命体の間に関係があると踏んだAは研究所の誰かを疑似宇宙内の問題の惑星に派遣することを決めた。希望者を募っても帰り道の保証がされていない未知の土地への旅なので参加しようとする者は誰もいなかった。そのためAにとって邪魔な私に白羽の矢が立ったというわけだ。


彼は私さえいなければ施設を自由に運用できる立場にいる。つまり「実験中の不慮の事故」とすれば彼は施設の独裁者となれる。私は送られた星ごと消し飛ばされることを覚悟してその惑星にワープした。


そしてなんでここにいるかって?それはここがその星だからさ。


もう少しかみ砕いて言えば私たちがは「私たちのだった」ということさ。私たちは自分たちの宇宙をただ外側から見ていただけだった。


一つの宇宙に生成させることができるのは同じ宇宙空間だという結果が出たことにより研究していた理論が完璧になりそうなんだがもう時間切れのようだ。


老人の最期の暇つぶしに付き合ってもらって悪いな。お詫びに今までの研究してきたすべてのことを話そう。国家機密もあるがこの際どうだっていいだろう。


さあ流れ星でも眺めようじゃないか。

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