第28話 平和な時間

「入ります。」

秋次のバイト先は、古本屋とカフェが合体した喫茶店「古屋」だ。

「お。きたね。秋次、軽食Aセット頼む。」

「あぁ。着替えてくる。」

秋次は、更衣室に入り着替えてカウンターに入る。学校帰りのバイトは夕方5時くらいになるので段々と来店者が増えてくる。

「今日はちょっとお客が多くてさ」

そう言うのは店長の冨田さんだ。早期退職して一人でお店を始めたが、店舗を借りる際、面倒事に巻き込まれたところ、ジジイが仲介し問題を解決した。

秋次は高校入って夏休み頃から手伝いにくるようになり、今ではバイト代をもらっている。

元は、バイトくらいやれと言うジジイの指示でもある。それに秋次は料理もできるのでカウンターで軽食を作ることも簡単だ。

「助かるよ。秋次。」

「あぁ。」

今日の日替わり軽食Aセットはオムライスにサラダセットだ。Bは簡単なパスタセットになっている。軽安く手に入れた材料で作るのでメニューは日替わりで一食500円だ。

「店長、最近、客増えましたね。」

「そうなんだよ。秋次が考えたメニューに人気出て助かってるよ。」

日替わりは材料次第なところがあり、当初は限られた物しか出せなかったが、秋次が手伝いに入ってからメニューを考えてバリエーションが増えてきた。

「今度簡単なデザート考えてくれない?」

「あーまだ練習中ですよ。」

カップケーキ以来、菊寺さんにまだ習っている最中だった。

「じゃぁその内頼むよ。」

「店長の店ですよ。」

「まあまあ。僕は書店を頑張るからさ」

店長のやる気があるのか無いのか。元々は書店から始まり、カフェは店長の趣味、ちょっとしたコーヒーから始まったからというのもあるが、カフェの方はわりと適当だ。

一方、書店はどうかと言えばそれもまた微妙だ。古本も多く販売もしているが、ここでコーヒーでも飲みながら読めば買う必要もないのであまり売れない。そもそもあまり利益を考えていないのだろう。

「そう言いながら少ない利益の8割がカフェなんだが…。」

「いやーありがたいね。」

「へいへい。」

こういうゆるい感じが嫌いではないので本気で文句を言うつもりもない。

「そう言えば、今度入荷予定の本もリストアップしたから見といてよ。」

「あぁ。」

本を読むのは好きだ。データ化が進む世の中ではあるが、やはり紙ベースが一番いい。特に古い本の匂いは好きだし、ここが気に入った一番の理由かもしれない。

閉店後は、コーヒーを飲みながら自由に読めるのもありがたかった。

「もう少し時給がいいとなあ」

「そう言わないでよ。ギリだからさ」

時給は最低賃金以下だったりするのだが…。

あまり稼いでも保険やらなんやら関係するから文句はない。

「へいへい」

秋次にとって落ち着く時間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不良に絡まれた美少女を助けたら興味を持たれて面倒なことになってしまったんだが 犬小屋 @syanonrinon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ