第2話 ショー

約100人を収容できる円形地下闘技場。

そこには各国からお忍びで来た貴族や大商人が違法な賭け試合に熱狂的な声を上げている。



「多分これまで生きた中でも最低な状況だなこれ・・・」



ついさっきようやく前世と呼ばれるものを思い出した自分としては、置かれた立場に置かれた環境に吐気を催していた。


108番

それが俺のここでの名前だった。

前世を思い出した直後フラッシュバックするように思い出した今の自分の記憶。


『剣闘士』

与えられる武器はたった一度だけ剣を選び、それが壊れても戦い続ける。

否、死ぬまで戦い続けるのだ。

対戦相手は様々で殺人鬼から強靭な魔物までと様々である。


ここに来たのは一年前。

元々貴族の奴隷として飼われ、あらゆる拷問の実験体にさていたわけだが不思議なくらいに頑丈な体と反応の悪さに捨てられるのも早かった。



「お前の命運もここまでだな。せいぜい最後の生を謳歌するといい」



「転生したと思ったら即死亡って笑い話にもなんないだろ」



「・・・」



何言ってんだコイツバリの視線を受けながら看守の感情のこもっていない声に現状に引き戻される。108番の記憶の中でも看守との会話は薄っぺらいものだったが、でもなぜかこの看守は決して俺に暴力を振ったりすることはなかった。

この場所では試合外でも看守の暴力によって死ぬこともザラなのだ。


俺は地下闘技場の挑戦者専用の入り口に剣を携えやってきていた。

剣はボロボロで正直鈍器にはなってもお世辞にも剣としての役割なんて果たしようもない有様だ。


不意に目の前の鉄格子がガラガラと開く。

南雲洋介としては裸足で逃げたい気持ちが絶好調でなのに不思議と不安も緊張もない。グッとグリップを握り闘技場の中心部へと歩く。



「そろそろ死ねよー!108番!」

「お前死なないとつまんねぇぞー!」

「派手に食い散らされてくれよ!」


「「「死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!」」」



死の大合唱。誰も俺の生存を望んじゃいなかった。

悪意が飛び交う円形闘技場の中心に立ち向かいの鉄格子がゆっくりと開く。



「グルルルルルルルルルルルルルゥアアアアア!!!」



分かりやすいくらいの凶暴な獣。枷を引きずりながら少しずつ前進してくる。

獅子の頭、山羊の身体、蛇の尻尾を持つ強力な魔物。『キマイラ』

しかし一点違うとすれば獅子の頭が一つではなく二つあるというところか。



「さーーーて今日も始まりました!1年間死を免れてきた108番もここまでか?!ランクB冒険者でも単独撃破は不可能と言われる『キマイラ』のさらに希少種!『二頭のキマイラ』だぁああああ!!!内臓をぶち撒けて華麗なる死を見せてくれ!!!」



実況と観客の歓声とともに始まった醜いショーが今、始まろうとしていた。

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剣闘士はがけっぷち! 29294 @29294

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