剣闘士はがけっぷち!
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第1話 異世界転生
目を覚ますと床の冷たさと外気の冷たさに体をブルブルと震わせる。
薄い毛布を口元まで被り、毛布から体が出ないように縮こまらせてなんとか体温を逃さないようにするが、レンガで出来た床と人の頭ひとつ分の大きさの窓から吹いてくる風が体を冷やし続ける。
目の前にはお行儀良く整列する鉄格子。
鉄の錆びた匂いと自分から出ているであろう不快な体臭に顔を顰める。
ここが自分の住む部屋だとしたらあまりに趣味が悪いというか自活能力が低すぎる。潔癖症というわけではないが現代においてこの生活環境を自ら選択することはありえないだろう。
だってここはどっからどう見ても牢屋でしかなかった。
「さっむ!!」
そしてかなり寒い。口から出た言葉はそのまま体の悲鳴だった。
そもそも俺はさっきまで会社の飲み会に参加していて、お偉いさんに囲まれて会社の将来やより会社を良くするための論議をお酒を飲まされながら散々語られていた。
自分にも会社にも興味も無ければ自信もない。
そんな俺のやる気を引き出そうとする上の人間の無駄な努力に申し訳なさと窮屈さを感じながら飲み会を断りを入れてから帰路に着いていたはずだった。
「ようやくお目覚めか、クソガキ」
必死に昨晩の自分を思い返そうとしていると、
唐突に現れた目になんの感情も映していない看守はそう俺に言葉をかけて
トレーにのせたパンを床にそっと置く。
「早く飯を食え。お前の出番はすぐだぞ」
看守の言葉を気にも留めずに自分の体をくまなくチェックする。
細い手首、煤けた服にまともに栄養を摂ってないと思われるガリガリで小さな体躯。
ここにいるのは自分だった。でも俺の知る自分ではなかった。
俺はこんなにガリガリではないし身長は180cmあったし体重も72kgあった為にこんな体躯であるはずがなかった。
そうしてようやく思い出す。
帰路に着く途中。飲み過ぎてフラフラになった足は車が行き交う交差点に歩みを進めて、最後は耳を劈くクラクションの音と眩しいライト。
痛みを感じる間も無く体は宙に投げ出され、
『あー、自分は死んだな』
とまるで夢をみてるかのように生涯に幕を閉じたのだ。
普通の両親から生まれ、普通に就職し、中肉中背の三十路。
童貞なことを除けば一般的な男であることは間違いないおれの人生はどこで間違えたのか。
正方形の小さな牢屋からリスタートしたのである。
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