第40話 突然の乱入者


「やあ、アランくん。久しぶりだね」

「お久しぶりです」

「プリシラちゃんも、歓迎するわ!」

「ありがとうございます!」


 そこそこの時間馬車に揺られ、無事にホロウズ家の屋敷へ到着した俺達は、一家から大いに歓迎された。


「――あら、ダリアも来てくれたのね!」

「わざわざありがとう。……部屋の用意をさせないといけないな」

「はっはっはっ! 私のことは気にしなくていいぞ二人とも!」


 一緒に乗っていたダリア先生は痴女扱いされてしまう可能性があったので心配だったが、レスター達の両親と親交があるようなので、ちゃんと客人として受け入れてくれた。


 俺のお父さまと同じく、学園に通っていた時に知り合ったそうだ。それなら納得である。


 ――二人に挨拶を済ませた後は夕食の席に招かれ、その後レスターの自室へと連れてこられた。


「アラン! 今日は来てくれてありがとう!」


 二人きりになってすぐ、目を輝かせながらお礼を言ってくるレスター。


 相変わらず圧がすごい。


「うん。誕生日おめでとう、レスター。……明日だけど」

「……あ、アランがボクのことを祝ってくれてるなんて……っ! 感動だよっ! ボク……今日のこと絶対に忘れないっ!」


 目を潤ませながら、ブルブルと体を震わせるレスター。


「そういうことは明日言った方がいいと思うよ。あはは……」


 感情が理解できなくて怖いぞ。情緒どうなってるんだ。


「そ、それもそっか。えへへ……」


 ……そういえば、ドロシアもさっきプリシラのほっぺたをむにむにしながら似たような反応をしていたな。


「………………」


 何となく身の危険を感じた俺は、そっとレスターから距離をとった。


「えっと……じゃあアランは椅子に座って! ボクはベッドでいいから!」

「……ありがとう」


 今日のレスターのテンションにはついていけないぞ。


「……ところで、今日は何をして遊ぶ? したいことがあったら、何でも言っていいよ! ボク、アランのお願いなら何でもする!」

「な、何でもって……」

「い、今の言い方はおかしかったかな?」

「……うん」

 

 ベッドに座りながら言うんじゃない。誤解を招くぞ。


「だ、だって、アランが初めてだから……」

「えっ?!」

「友達を……自分の部屋に呼んだの」

「なるほど」

「ちょっと緊張しちゃって……いつもみたいに上手く話せないや……」


 ……おそらく、誕生日の前だから舞い上がっているのだろう。そう思えば実に可愛らしいじゃないか。


 どうやら、俺が勝手に危ない雰囲気を感じ取っていただけのようだ。


「僕が相手なんだから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。――レスターは、何か僕としたいことある?」

「し、したいこと……!? えっと……!」


 顔を真っ赤にして俯き、考え込んでいる様子のレスター。


 いつも二人ですることといえば、魔法を使った試合くらいだからな。室内で何かやるとなると、お互いに思い浮かばないのだ。


「うーん……何をすればいいんだろう……?」

「――そうだな。私はまず、お風呂に入って互いの身体を流し合うのが良いと思うぞ! 裸一貫の付き合いをすることで親睦が深まるという話を、前に聞いたことがある!」


 俺が困惑していたその時、突然背後からダリア先生の声が聞こえてきた。


「わーーーーーーーーーっ!」


 突然の乱入者に、悲鳴を上げるレスター。


 どうやら、ダリア先生がいつの間にかこの部屋へ入って来ていたらしい。ノックもなしに少年の部屋へ入ってくるなんて……犯罪だぞ!


「やあ、レスターくんとアランくん。さっきぶりだな!」


 しかも、よく見たら下着しか着てないじゃん! 何考えてるんだこの人!?


「えっ、な、なんで……どうしてこっちに居るんですか……? ちゃんと服を着て下さい……っ!」


 まずい。レスターが本気で怯えている。


「三人でお風呂に入らないか? 君達の背中を流してやろう!」

「えっ、だって……えっ……?」


 目を白黒させながら、俺の方を見て助けを求めてくるレスター。


 十二歳になる内気な男の子に、腹筋が割れた露出魔の痴女(やたら距離感が近い)は刺激が強すぎるな。


 長時間接触し続けると、色々なものが歪んでしまいそうだ。


「……ダリア先生。こっちは大丈夫ですから、お風呂はプリシラ達と一緒に入ってください」


 俺は、仕方なく先生に向かってそう言った。


「いや、しかし……女の子との接し方はよく分からなくてな……」


 なんでだよ。


「男の子との接し方も派手に間違えてるので大丈夫です。どうぞごゆっくり!」

「……分かった」


 どうやら引き下がってくれたようだ。


 まったく……。この人には、メリア先生というストッパーが必要なんだな。タイプの違う変態同士でお互いのパワーを抑制していたのだろう。


 痴女には痴女をぶつけるべし。……勉強になったぜ。


「――さては恥ずかしがっているんだな! ふっふっふ! それなら、引きずってでも風呂場へ連れて行ってやるぞ!」


 いや全然分かってなかった!


「覚悟しろ二人とも!」

「う、うわあああああああああ!」

「たっ、たすけてええええええっ!」


 かくして、俺とレスターは誘拐犯の襲撃に遭い、お風呂場へと引きずり込まれるのだった。

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転生したら主人公を裏切ってパーティを離脱する味方ヅラ悪役貴族だった~破滅回避のために強くなりすぎた結果、シナリオが完全崩壊しました~ おさない @noragame1118

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