第39話 ホロウズ家へ遊びに行こう!
「お兄さま! はやくはやく~」
「ま、待ってよプリシラ……」
その日、いつも通り目覚めた俺は、プリシラに腕を掴まれて屋敷の外へと引きずり出されていた。
「急がないと遅れちゃうよ~っ!」
「パーティーは明日なんだから、そんなに急がなくてもいいと思うけど……」
「私が早く行かないと、ドロシーがしなしなになっちゃうの!」
「……ああ、そうだね」
明日はレスターとドロシアが十二歳になる誕生日なので、ホロウズ家でそれはもう盛大なパーティーが開かれるのだ。
つまり、原作通りであれば二人が誘拐される時がやって来たということになる。
「………………」
「……お兄さま!」
「え? どうしたの?」
「今日と明日は二人をお祝いするんだよ? そんな怖い顔してちゃダメ!」
「ご、ごめん」
「もっとわざとらしくニコニコして! いつもみたいに!」
「あ、あはは……」
「もっと!」
プリシラから謎の演技指導を受けているが、あまり笑っていられる状況ではないのだ。
パーティーに招かれた人間の中に潜んでいるであろう教団の関係者を暴き出し、二人の身の安全を守らなければならない。
おまけに、レスターもドロシアも大会で優勝した注目株だ……パーティーには、様々な思惑を持った貴族達が大勢押しかける事だろう。
その中で怪しい人間が居ないか警戒するのは、なかなか大変である。
「はっはっは! 君もプリシラには敵わないようだな!」
「……おはようございます、ダリア先生」
――ということで、ダリア先生の力を借りることにした。
「おはよう!」
真っ先に馬車へ乗り込んでいた先生は、俺たちに向かって元気よく挨拶する。
いくら怪しい人間が居たからといっても、人様の屋敷の中でド派手に魔法をぶっ放すわけにはいかないからな。
身辺警護は、相手を制圧する剣術に長けたダリア先生が適任なのだ。
「例の件……よろしくお願いしますね」
俺は、馬車に乗り込んでダリア先生に耳打ちする。
「もちろんだ。――いたいけな少年少女をつけ狙う不埒な輩がいるのだろう? 放ってはおけないさ」
「……はい、ありがとうございます」
パーティー会場に痴女が紛れ込むことになるが……誘拐犯よりはマシだよな! ダリア先生はぱっと見普通だし!
待っていろレスターにドロシア! 痴女と誘拐犯……不審者どもがひしめき睨み合う愉快なパーティーにしてやるぜ!
「二人とも、何の話してるのー?」
俺たちがひそひそと会話をしていると、プリシラが興味津々で食いついてくる。
「おっと、君は心配しなくていいぞプリシラ! 関係のないことだからな!」
「…………ふーん?」
「心置きなくパーティーを楽しみたまえ!」
「ふぅーん……?」
まずい。ダリア先生が誤魔化すの下手すぎるせいで、プリシラがとんでもなく訝しげな表情でこちらを見つめている。
「ほ、ほら……プリシラも怖い顔になってるよ……? 笑って……!」
「……そうだね! じゃあ聞かないでおいてあげる! お兄さまが理由もなく私のこと仲間外れにするはずないもん!」
「あ、ありがとう……」
流石は我が妹……なかなか侮れない相手だ……。
……しかし、誘拐の件に関してあまり騒ぎを大きくしすぎると、向こうが計画を変更してくる可能性があるからな。
教団は最終的に魔人化したレスターとドロシアによって壊滅させられてしまうので、情報が少ない。魔王を崇拝しているということ以外はよく分からない、ガバガバ設定教団である。
だから、パーティーに乗じて奴らを炙り出せるのならそうしたいのだ。
知っているのは俺とレスターとダリア先生、そして半信半疑なドロシア――この四人で十分である、
それに、プリシラに余計な心配はさせたくないし、ある程度先が読める状況にしておいた方がこちらとしても動きやすい、という理由もある。
……といっても、既に原作のストーリーをかなりぶち壊してしまっている気もするがな。
本当に教団とやらが拐いに来るのかも不明だ。
とにかく、色々と気の抜けない二日間になりそうである。
「うーん……」
考え込む俺をよそに、馬車はホロウズ家の屋敷へ向かって出発するのだった。
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