第九回:佐島紡『世界の中心で鳴く僕』(3)



―――― 会話のリアリティ ――――


▼ 作者に聞け  ところで、主人公と居酒屋の店長の会話にとても現実感があって、印象に残りました。何か特別な工夫をされたのでしょうか?


● 佐島紡  この作品を読まれる方は、おそらくなんさんの原作を読まれている。原作では、主人公の体験がゲーム内の出来事だと明かされます。読者は、荷川取くんの視点で描かれる「世界」は作り物なのだろうと思いながら、物語を読み始めるはずです。


▼ 作  なるほど。


● 佐  その世界でどんなことをしても、結局は「作り物の話」という情報をもっているので、読者はむしろ、「作り物」の外にいる早瀬渉の話に関心を向けるでしょう。引きこもりの早瀬の世界こそが〈現実世界〉、荷川取くんの世界は、あくまでも早瀬が何かをおこなうための潤滑油、副次的な要素として機能するのだろう。そう考えると思うのです。


 しかし、物語はなぜかずっと荷川取くんの視点で進みます。冗長な印象を抱くかもしれません。


 そんな中、主人公たちがかなり現実っぽい物事でアワアワしていると「滑稽」に映ると思うんです。この滑稽という感情は、読者に読むべき方向性を与え、興味を持続させます。荷川取くんがゲームの世界を理解していくプロットなのだなとわかるはずです。 早瀬視点の描写も、荷川取くんの力のうさんくささも、さらにその見方に導くポイントだと考えながら入れています。


 しかしこれは、本当のプロットから目をそらすミスリードなんです。この「滑稽」と感じる流れは、なんさんの作品に最初に触れた時の僕の読み方に近い。そこで、「あらすじ」のように別の方向から答えを提示された場合、「してやられた!」となると思うんです。


 ですから、主人公と店長の会話はできるかぎりリアルなものにしました。


▼ 作  会話にとてもリアリティがあり、力を入れておられるなと感じました。やはり、そこは重視されているわけですね。


● 佐  といっても、僕自身、社会に出てないひよっこで、うまく描写できているのか分からないですけどね。リアルな空気を作れていたのなら、よかった。



―――― 二次創作か、シェアード・ワールドか ――――


▼ 作  この作品を「二次創作」と呼んでおられますが、「シェアード・ワールド」などでなく「二次創作」としているのは、やはりなんさんの作品へのリスペクトからですか?


 作者さんの了承を得て創作しているなら、シェアード・ワールドでもいいのかな、と思ったもので。


● 佐  リスペクト、ですね。この作品はあくまで、なんさんのキャラクターや設定をお借りして作っている立場なので。


 ただ、なんさんが投稿されている続編! あれ、僕のプロットを補完する形になっているように思えてしかたがありません!


▼ 作  ええと、どの作品でしたっけ?


● 佐  次の二作です。


 『世界は僕を置いていった』

   https://kakuyomu.jp/works/16816927861869879263


 『世界に浮かぶ星に夢を見る僕は』

   https://kakuyomu.jp/works/16816927861983046838


 偶然なんでしょうけど、作者に認知されていると思い上がってしまう自分がいました!


▼ 作  二人で仕上げた物語のような感じがしてきますね(笑)。



―――― ディテールのリアルさ ――――


▼ 作  もう一つ、先ほど話題になったリアルな描写に関連して質問させてください。敬は、居酒屋の厨房をまかされるほどの腕があり、混みあった居酒屋でひっきりなしに入る注文をさばいていくのですが、その描写がとても臨場感にあふれていました。あれは、ご自身の経験を踏まえているのでしょうか?


● 佐  ですね。つい先日まで、あるファミリーレストランのキッチンにおりまして、その時の厨房の回し方などを思い出しながら、執筆してました。


▼ 作  なるほど。


● 佐  これを一人でやると地獄だよなあとか、注文の伝達ミスとかあったらいやだよねえとか考えながら描写しました。荷川取くん、そうとう参っているのに、あれだけ動けるのはなかなかだと思います(笑)。


▼ 作  その敬についてですが、どうやらゲームの中の登場人物であるらしいことが、早瀬渉の口から明かされています。


 ゲームの「主人公」であるにせよ、それはプログラムとユーザーの操作が産み出した、データの配列・集積にすぎない、というわけですね。


● 佐  そうですね。


▼ 作  もちろん、こういった設定自体は、さして目新しいものではありません。ただひょっとすると読者の側に、自分が自分の人生の「主人公」だとは感じられないような実感があるからこそ、こういう設定がある種のリアリティーというか、説得力をもつのかもしれないと思うんです。


 主人公の荷川取敬は、ある意味で自分が「世界の中心」にいると思わざるをえないような「力」を自覚します。ただ、その「力」も――彼自身にとってさえ――無意識に作動する、つまり、コントロールはしきれないような力として描かれているんですよね。


 自分に超人間的な「力」が備わっていると意識する一方で、彼はなにかの「陰謀」に取り巻かれているようにも感じている。そういうアンビヴァレントな位置に彼は置かれているんですよね。


 こういった点について、佐島さんはどうお考えですか?


● 佐  自分に絶対の自信がある人間なんて、そうそういないんですよね。どうしても人と比べちゃうから自信がなくなるし、その潰されそうな自信をどうにかしたいから、何らかの肩書きを求めたりする。神様を信仰するのだって、そういう何かを求めるからだと僕は思っているんですよね。


 そんなよく分からない自尊心を満たしたいがために奔走する人もいると思います。そういう動機による行動は、とても人生の「主人公」らしい行動には見えないでしょう。自分の望む姿と現実のあり様が乖離してしまう。そういった感覚をもつ読者なら、力を中心に右往左往する荷川取くんの姿に自分を重ねることができるのではないかと思います。


▼ 作  そこが、先ほど話題になったのとはやや異なる意味でのリアリティーをこの小説に与えているのかもしれませんね。


● 佐  満たされない自尊心という問題は、僕自身にとっても「小説の才能」という形で突きつけられますし、ちょくちょく考えるところであります。この作品でも、あるキャラにその不安感を直視する役回りを担わせていますしね。


▼ 作  そういう仕掛けも組み込んでいるのですね。


● 佐  少しネタバレになりますが、僕がなんさんの作品を最初に読んだとき想定した叙述トリックは、「すべて荷川取くんの妄想だった」というものです。なんらかの現実逃避の手段として「世界の中心にいる」とかたくなに信じているのだと考えていました。


▼ 作  なるほど。


● 佐  これは、自分に自信がない荷川取くんが無理くり捏造した事実で、全部妄想。先ほどお話に出た「自分を主人公だと思えない」というものと重なるのかなと思います。


 残念ながら、今はまだ仮想世界で荷川取くんが変なことをしているとしか見えないでしょうけど、がんばって書いていきたいですね。


▼ 作  どういう結末が待っているか、期待しています!


 では最後に、佐島さんから読者に向けて、作品のアピールなどありましたら、お願いします!


● 佐  この作品は、まだ三回ほど展開がひっくり返ります。あと二万字程度で終わる作品で、仕込みのカードはおおよそ出し切りました。僕がなんさんの作品を読んで抱いた体験を、さらに昇華してお見せできればと思います! みなさん、思い思いの先入観でお挑みください!




インタビュー  二〇二二年四月八日、「小説家のつどい」内のチャットで実施

ゲスト  佐島紡

司会進行  maru

質問者  なん、田崎伊流(たいりゅ)、ムツキ、りんごーん、縁川かいと、ビル

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作者に聞け!―― Web作家さんたちへの仮想インタビュー集 maru @maru_kkym

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