第六回:持野キナ子『ビターチョコレート』(2)



―――― 執筆期間と登場人物への共感 ――――


▼ 作者に聞け  さて、いつものように「小説家のつどい」メンバーからも質問を受けたいと思います。どなたかご質問ありませんか?


▼ 作  構想スタートから書き終えるまでの期間は、どのくらいでしたか?


● 持野キナ子  約半年です。二十歳のころに書いてました。


▼ 作  隆志のいかにも純朴そうなキャラもめっちゃ好きやなと思いました。そこで、キナ子さんが主人公に対してどんな感情を持っていたのか、お聞きしたいです。


 『ビターチョコレート』は、純朴な主人公がヒロインを通して新しい世界を知るみたいなところが面白いなと思いました。そんな新しい世界を知ってしまった主人公に対して、作者としては、どんな気持ちを持ったのか、という点を教えていただきたいです。


● 持  書いてる時は、「ピュアやなー」位でした。


 書き終えた時は、「まあ人生、生きてたら色々なことがあるよ。嫌な人もいるし、良い人もいるし……。これで傷ついたかもしれんけど、人と接するのを辞めたらアカンで」と思いました。自作のキャラに対する愛着はわずかなんですが、主人公の明るい未来を願いました。


▼ 作  ありがとうございます。自作のキャラへの愛着はあまり湧かない、ですか。なるほど。そのドライさが、作風にも生かされてるように思います。


● 持  良くも悪くも、あまり湧かないですね。


 ただ、この作品の反省を活かして、似たような境遇の主人公がハッピーになる話を書いたり、本作品をビターなラブコメに改変して、投稿しようとしたことはあります。なんじゃそりゃー(笑)。


▼ 作  この作品での主人公の描き方は、読み手の好感度を上げてくる感じだったので、その分、後半のギャップにやられちゃった感じです。


● 持  ありがとうございます! なんだかんだ、キャラを褒められて嬉しいです。



―――― 物語の設定と着想 ――――


▼ 作  どんなキャラにするかとか、舞台設定や造形をどうするか、具体的にはどんな風に進められたのかも、お聞きしたいです。そもそもバレンタインを選んだ理由なども。


● 持  暗い話を書こう

  → プレゼント捨てられたら、悲しい話になるか

  → あっ、バレンタインでチョコレートをプレゼントする展開ならば、話を書きやすいな

  → タイトルは『ビターチョコレート』でいこう


 だいたいこんな感じですね。


▼ 作  おお、アイデアの変遷! ありがとうございます!


 もう一つ、隆志が神谷に相談する内容がありますね。一言で言えば、コミュ力のない自分への葛藤ですが、これにはどんな意図があったのですか?


● 持  私自身もコミュ障ですし、コミュニケーションで悩んでる人は結構多いと思ったからです。それと、伏線が張りやすかったからですね。


▼ 作  なるほど。主人公に共感してもらうという狙いだけでなく、伏線としてストーリーを作るのにも役立っていると。


● 持  はい。そういった設定にすることで、話を動かしやすかったですね。



―――― これまでの執筆経験 ――――


▼ 作  これまで作品についてお話を伺ってきましたが、作者のキナ子さんご自身についても聞いていこうかと思います。


 まず、執筆の経験についてです。小説はいつごろから書き始めたのですか? また、一日にどれぐらい書いていますか?


● 持  小学四年生で絵本を描く(創作に目覚めて設定集をシコタマ書く)

  → 中二の時、カクヨムにも投稿している『紙ヒコーキ』を書く(完成させたのはこの一作品のみ)

  → 大学時代に文芸部に入部(『ビターチョコレート』や『午後の首長竜』を書く)

  → 大学卒業後は専門学校に入学(破滅派に『ビターチョコレート』と『午後の首長竜』を出す)

  → 空白期間を終え、就職。また書き始める


 『紙ヒコーキ』

   https://kakuyomu.jp/works/1177354054897725743


 『午後の首長竜』

   https://kakuyomu.jp/works/1177354054897956975


 執筆経験としては、こんな感じですね。執筆量は、今は一ヶ月に数百字しか書かないです(笑)。


▼ 作  中二の時に、もうカクヨムがあった?


● 持  ごめんなさい、説明不足でした。中二の時の作品を、カクヨムに二年前に投稿したんです。私が中学生のころには、「野いちご」とか「小説家になろう」がありました。



―――― 破滅派とその前後 ――――


▼ 作  先ほど破滅派でも活躍されているとの話でした。私はこの作品を読んだ時に、「なるほど。そういえば、キナ子さんは破滅派にも参加されていたのだったな」と思い出しました。どこに出すとか意識して作品を書かれていますか?


● 持  ああ、破滅派をご存知なんですね。もともと本作は、破滅派を知る前の大学生の時に書いた作品です。


 大学時代は、文芸部にいたこともあり、一部の読者に熱狂的に愛される作品を生もうと躍起になっていました(笑)。だから当時の方が、破滅的な作風を意識していますかね。ただ今も、個性やアクを出すことは多少は意識してます。


▼ 作  個性というかこだわりは、確かに感じられます。


● 持  相変わらずのアクの強さですけどね(笑)。文芸部は上手い人ばかりで、王道な作品だったら目立てないと感じたのも、理由の一つですかね。


▼ 作  なるほど! 実は、キナ子さんのプロフィールを拝見して、初めて破滅派を知ったのです。カクヨムと並べて書いているからには、同じ小説界隈なのだろうと踏んで、検索いたしました。どのような層の作者がいるのか、私にも投稿できるか等、調べるために内部を読んでみたのが先でした。


 その後、キナ子さんの『ビターチョコレート』を読み、なるほどとなったのです。作風から破滅派を感じましたが、『ビターチョコレート』を書いたのはそれより前の時期なのですね。ありがとうございました。


 先ほど名前のあがった『午後の首長竜』をはじめ、個性的で魅力的な短編をたくさん書いておられる持野キナ子さんです。ぜひあわせてお読みいただければと思います。


 それでは、キナ子さん、最後に締めの言葉をいただいてもよろしいでしょうか。


● 持  締めの言葉ですか……うーん。


 本作品の主人公は、行動した結果、あんなことになりました。でも、もし彼が後日、麻倉さんと話し合う勇気を持てたら……。あるいは、麻倉さんが謝る勇気を持てたら……。この話の続きは、まったく違う展開になると思います。


 まあ、つまり、何が言いたいかといいますと、自分の人生を決めるのは自分しかいないのかな、ということですね。偉そうやなー(笑)。


 あと、「他人を見たら泥棒と思え」なんて言いますが、そんなに悪い人はいないと思うこのごろです。


▼ 作  ありがとうございます。キナ子さん、参加していただいたみなさま、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


● 持  今日は、みなさん、お忙しい中、本当にありがとうございました!



インタビュー  二〇二二年三月十八日、「小説家のつどい」内のチャットで実施

ゲスト  持野キナ子

司会進行  冬乃こたつ

質問者  田舎の鳩、ムツキ、田崎伊流(たいりゅ)、まる

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