第六回:持野キナ子『ビターチョコレート』(1)
▼ 作者に聞け 本日のゲストは、持野キナ子さんです! 以後、キナ子さんと呼ばせていただきますね。今日はよろしくお願いします!
● 持野キナ子 よろしくお願いいたします。
―――― 作品とキャラクター紹介 ――――
▼ 作 今回、お話を聞かせていただく作品『ビターチョコレート』は、一話完結の短編小説になります。
まずは、あらすじを紹介させて下さい。
なお、あらかじめお断りしておくと、今回のインタビューは、物語の重要な部分に関わる話(いわゆるネタバレ)を含んでいます。『ビターチョコレート』をまだお読みでない方は、先に作品をご一読いただくようお勧めします。
『ビターチョコレート』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918474522
物語は、バレンタインデー前日の二月十三日に始まります。主人公の
そこで隆志は、親友の
そしてバレンタインデー当日。隆志は、勇気をふり絞って放課後に麻倉を呼び出し、チョコを渡そうとするのですが――
こんな感じで、よろしいでしょうか。
● 持 ありがとうございます。あらすじはその通りです。
▼ 作 登場人物について、簡単に整理します。
主人公:大原隆志
隆志の友人で良き相談相手:神谷
隆志が好意を抱いている相手:麻倉
作中では、主人公を除くと苗字だけでしたが、名前は決まっていますか?
● 持 特に決まっていないです(笑)。
▼ 作 わかりました。では、苗字呼びのまま進めましょう。
● 持 はい、それでお願いします。
―――― 執筆までの経緯 ――――
▼ 作 『ビターチョコレート』は、九千八百字弱の気軽に読めるサイズの作品ですが、執筆するに至った経緯からお伺いします。
● 持 経緯は、いくつかあります。
① 阿部共実先生の『空が灰色だから』(秋田書店、全五巻)を読んだこと
② 本作品の前作が、ギャグ物な旅行記だったので、定着したコミカルなイメージを変えたかったこと
③ 旅行先で騙されて落ち込んだこと、ですかね。
▼ 作 旅行先で騙されて……!? どんなことがあったのか、伺ってもよろしいでしょうか。
● 持 一回目は、一人旅でインド行った時にボッタクリにあいました。数百円ですが、タクシードライバーに騙されました。
二回目は、歌舞伎町で飲んでたら、ボッタクリ居酒屋に案内されました。
▼ 作 歌舞伎町ですか! 怖い場所のイメージがあります。
● 持 コミカルな旅行記が(当時所属していた大学の文芸部内で)受けたので、ネタ探しです。普通に飲んでたら、楽しい街ですよ(笑)。
▼ 作 騙されたとか、裏切られたという経験が、作品後半の展開に役立っているんですね。
● 持 騙した人が優しそうな方だったので、衝撃でした。裏表がある人はいるなと思いました。
▼ 作 なるほど。それはたしかにネタとして使ってみたくなります。
● 持 騙した人も悪いと思いましたが、騙された自分も悪いし、当時は後味が悪かったですね。
これは、おっしゃるように、作品後半の展開にも活きているかもしれません。ただ、今では笑い話に使ってます(笑)。
―――― 苦みのあるストーリー展開 ――――
▼ 作 その後味の悪さが活きたという後半の展開なんですが、勇気を出してチョコを渡した隆志は、麻倉に自分の好意がとっくにバレていたことを知り、彼女からの答えに少しだけ期待します。
ところが、その麻倉は酷い行動をとります。隆志をコミュ障で滑稽だと言って痛罵し、なんと、渡されたチョコを床に叩きつけてしまう。
これまでの展開の盛り上がりと相まって、非常に落差の大きい場面ですね。私は個人的にとても好きなんですが、先ほどの経験があるとはいえ、恋愛小説なのによくこんな展開を入れようと考えましたね。とても惹かれました。
● 持 ありがとうございます(笑)。
実は、チョコレートを床に捨てるシーンが最初に思い浮かび、そこから日常パートを作っていったんです。とにかくインパクトあるシーンを考えた結果、あのシチュエーションが生まれました。
▼ 作 ただインパクトがあるだけでなく、その前後の流れも含めて、私はシビれました。
● 持 それはとても嬉しいコメントです! せっかく暗い話を書くなら、徹底的にこだわって、読んだ後に考えさせられる話を丁寧に書こうと思いました。
▼ 作 隆志に酷いことをする麻倉ですが、私はちょっと惹かれてしまいました。というのも、彼女は単なる高飛車で傲慢な腹黒女というわけではないように思ったからです。
彼女のセリフを引用させていただきますね。
「私、本当は良い人を演じてるだけだよ。みんな、表面上でしか評価してくれないしさ。でもそれって、凄くストレスがたまるし、孤独なんだよ。皆、本当の私を知った途端、離れていくと思ったら、胸が張り裂けそうで……。本当は本音を聴いて欲しいのに……それが怖くて出来ないんだよ。だから、君みたいな人を見たら、八つ当たりしたくなるの……」
登場人物の意外な側面を見せるのは、奥行きを示す手法としてよくあると思うんですが、これが作品の中で見事にあつかわれていて、作品の終わりを味わい深いものにしている。そこがいいんですよね。
もちろん、酷い仕打ちを受けた隆志からすれば、たまったものではありませんが、キャラクターとしての麻倉を引き立たせるセリフとしては、とても魅力的です。
● 持 ありがとうございます。単に暗いだけの話にしたくなかったし、麻倉さんを単に腹黒いだけのキャラにしたくなかったので、この描写を入れました。
私は、意地悪な人にも優しい一面があるし、いつも優しい人にも黒い一面があると思います。また孤独感なんかの感情は、誰しも持っていると考えています。
▼ 作 このちょっと感情移入させてくるの、ズルい、と思いました!
● 持 実は、狙っています(笑)。相手の本当の内面は簡単には分からない。そんなことを思い、あのセリフを考えました。
▼ 作 もしこの描写がなかったら、ビターチョコレートどころでなく、ゴーヤ並みの苦さになっていたかもしれません。ですが、このように描かれたことで、『ビターチョコレート』というタイトルにふさわしい、良い塩梅の苦みを残すことに成功していると思います。学生時代のビタースウィートな物語として、バランスの取れたお話ですね。
● 持 おぉ、上手い表現ですね! 初期案では、あのセリフはなかったのですが、つけて良かったです(笑)。
(2)に続く
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