第54話 余韻弍

 町に戻り、小判を受け取り、酒場へと繰り出した一行。


「わたしたちの勝利と千里の覚醒に」


 百がそう音頭をとると、 


「「「「かんぱーい!」」」」 


 みんなの声が重なった。


「いやー、それにしても、今回のはなかなか手強かったなあ!」


 酒を一気飲みしたあと、鬼一が言う。


「斬っても死なないと知ったときは死を覚悟したな」


 十戒もつまみを口に運びながら感慨深そうに言う。 


「もう二度と相手したくないね、ウチも」


 花魁も酒を飲みながらため息をつく。


「それにしても、千里の化身はすごかった」


 と百が言うと、


「そーそー! 二体も呼び出せたよな! あれ、ふつう一体だけじゃねえのかよ」

「拙者も二体の化身を操る覚者は聞いたことがないな」


 一同の眼差しを受けながら千里は、


「えーっと、たぶん、何体でも呼び出せる。真言さえ分かってれば」

「うっそー!」

「はあ!?」

「なんと……」

「さすが千里」

「いや、同時に出現させられるのは一体だけだとは思う。けど、別々になら、たぶん、いける」


 そうして千里は説明した。仏門を開いたとき、数百の仏がいたこと、おそらくそのすべてが力を貸してくれること。


「数百って、てめえ、それはさすがに欲張りすぎだろ……」 


 鬼一もさすがに動揺を隠しきれていない。


「いや、あんときは俺も必死だったから! 自分の命と引き換えにしてもいいから力をよこせって全力で叫んだら、なんか、そんな感じになった……」

「じゃあ、ウチもいざっていう場面で祈れば、化身使いたい放題ってこと!?」


 うっとりとする花魁。


「仏の血はまずそうだけど、あると便利そうだもんなあ……特に韋駄天とか、移動のときに便利そう」

「速く走れる仏だっけ?」


 千里が尋ねると、 


「そーそー、他にも自分の代わりに戦ってくれる毘沙門天とか阿修羅とかもあると嬉しいよね! 楽できるし」

「そんな煩悩まみれだと、呼び出せないとは思うけど……そうだ」


 ここで千里は重要な質問を思い出した。 


「花魁は慚愧って鬼狩り知ってるか? 半鬼の国を作ろうとしてるっていう」


 すると花魁は人差し指をあごにあてて、


「あーあの、優しげで儚げな男ね。あと十四歳若かったら、血を吸いたかったかもね」

「あー……血のこだわりは分かったけど、その慚愧ってやつの居所は分かるか?」

「うーんと、最後に噂で聞いたのは、ここから東に行ったところにいるってことかな。なんでも、砂丘を見てみたいとかで」

「鳥取のあたりか。貴重な情報、ありがとう」


 すると、百も


「わたしからも質問。あなたはなんのために生きてるの?」 


 これには即、


「決まってるじゃん! ショタの血を吸うためだよ!」

「ああ……そうだった。なんだか、ごめん」


 やや遠い目をする百。


「百でもあんな表情することあるんだな」


 千里がそう言うと、


「慚愧にあって、なにするつもり? 弟子入りとか?」 


 と花魁が訊くので、


「いや、半鬼の国について詳しく聞きたいなって。あと、実力にも興味があるかな。破魔って鬼狩りいわく、凄腕らしいし」

「ふーん、ま、夢見るのもいいけど、あんまり期待しすぎない方がいいかもよ? そういうときって、たいていが現実見てガッカリするし」


 と冷ややかな花魁。おそらく、二十歳をこえているのであろう慚愧にあまり関心がないのだろう。


「そうだな。あんまり期待しないようにしとくよ」

「そうだぜえっ! この鬼一様より強い鬼狩りなんていねえんだからなあっ!」 


 と叫びだす鬼一。


「あちゃー。あいつまた酔っぱらってやがる。悪い、今日のところはこれくらいで勘弁な」


 百と千里で鬼一の介抱をしていると、


「いつかまた、血を吸わせてね。十三歳になる前に」


 手を振りながら去っていく花魁だった。





 翌朝、宿屋で目覚めると、入り口に一枚の紙が置いてあった。


『今回はあんがと。キミたちの旅路に幸運がありますように。ウチは南を目指します 花魁』


 と書いてある。


「……結局挨拶しそびれちまったな。そっちも達者でやれよ、花魁」


 朝日の差す窓を見ながら、そう呟く千里だった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

半鬼の少女と百鬼夜行 石上あさ @asa-ishigami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ