第7話 記憶

 ある夏の日の記憶。


『恭太、このお花の花言葉、知ってる?』


 庭先に咲いている桔梗の花を指差して、母上がそう問いかけてくる。


 僕は小さく首を横に振る。


 綺麗な花だった。そよ風に吹かれてゆらゆらと揺れる様子は可愛らしかった。だけど少し、儚げにも見えた。


『それはね』


 母上が僕に微笑みながら、教えてくれる。


『変わらぬ愛』


『愛?』


『そう、愛。変わらぬ愛。素敵でしょう?』


 そう言って、母上は僕をぎゅっと抱きしめる。


『これが愛。恭太と桂太は、私にとって世界で一番大切な人。それは、私があなたたちを愛しているから』


 母上の温もりが、体全体に染み渡る。


『僕も母上のこと、大好きだよ』


『……………………私もよ』


 母上は泣いていた。


 その意味は分からない。


 ただ、母上の深い愛情だけは、確かに感じることができた。

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