つよくなろう
現在、西山さんと共に話をしている場所は草原である。
「あれは、豚の化け物……オークだ。何故か敵意剥き出しじゃね?」
もしかして、このオークは前に倒したやつの敵討ちをしにきたのかもしれない。魔法が使えない今、自分には少々手に余る相手。
「よし、俺は木の上にいるから頑張れ!」
「ちょ!? 西山さんも戦う、いや後方援護だけでもしてくれませんか?」
「フッ! 俺は盗賊だからな。戦いには向いてないのさ☆」
そう言って奴は木の上で眠りこけてしまった。……まあいいでしょう。
呪いを受けているとはいえ完全に魔法が出来ないわけじゃないのだ。前回粉塵にしたオーク程度敵じゃない!
「フレイム!」
しかし初級魔法ではオークの腕を一部焦げさせるくらいにしか出来なかった。前戦った時には一撃で炭すら残さず焼却処分出来てたのに……
するとオークの右腕横払いが俺に直撃し、その衝撃で大木に叩きつけられた。
頭からの出血、身体が軋み視界がクラクラするが、めげずにオークに向かって初級魔法を放ち続ける!
「フレイム! フレイム! フレイム!」
何発か放っているとオークは次第に動かなくなると同時に、香ばしい匂いが辺り一帯を包み込んできた。
この懐かしい匂い……このオーク、もしかしたら食べられるかもしれない!
試しに召喚の際に背負っていた荷物の中から胡椒を取り出し、振りかけて食らいついてみる。
結論から言うとオークは食料として優秀だった。
「オークは高級食材なんだ。取るのが難しいし、逆に狩人が狩られることもあるから皆取りたがらないらしい」
匂いに嗅ぎつけてきた西山さん。
「やけに詳しいんですね」
「脱走囚にその辺詳しいやつがいてな、いやいや知識を叩き込まれたんだ。確かアイツは至高の肉を探すためカニバニズムに手をだしたら捕まったとかなんとか」
「それはまた独特な趣味の持ち主なんですね~」
さてと、前までは何も苦労せず1発で倒せてたはずのオーク相手に、今回はかなり手こずってしまった。
今はまだいいが、これからどんどん強い魔物が現れると考えたら……
うん、流石に見通しが甘すぎた。
あのオークに苦戦するようじゃいつか敵わない相手に出会して殺されてしまうだろう。
「やはり今のままで旅に出てもやられるだけか……西山さん4ヶ月強くなるために猶予をください。
「ほう? そりゃあまた唐突な提案だな。もちろん俺は反対だ」
「な、何故ですか?」
「俺はついさっき脱獄……(ゲフンゲフン)とにかく無一文なんだ。4か月これから寒くなるのにこの街でどう過ごせばいいんだ。ゴミでも漁ってろとでも言うのか?」
なるほど、西山さんお金に不安があるのか。今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするが、身体全体が軋む今咎める気は起きない。
それに異世界の知識とかは豊富にありそうだし、戦闘では役に立たないにしろガイド役として重宝するだろう。
今回も知らない情報いっぱいあったし。
なら今手元にある1000万。どうせ自分の手に余るだろうし、余裕はあるので200万ぐらいなら貸してやるか。無論、利息アリで誓約書書かせた上で。
こんな大金一人で持ってたらリスクしかないし、リスク分散ということで。
あとの800万は……値崩れしにくい金にでも……
提案を聞いた西山さんの態度が瞬く間に軟化……そして。
「へぇ、金を貸すって言ったな? しかも200万だと! ならいいぞ、いっぱい鍛えてこい!」
こうして無事、4か月修行の許可が無事降りた。
代わりに大金を失うことにはなるが、そもそも大体4か月であんな大金使い果たすことはできないだろう。
出費はかなり痛いが大賢者が使えない今、案内役兼植物•魔物解説役を失うわけにはいかない。
……残りは値崩れのリスク回避で金塊に変えておこう。
「ありがたいです、すみません1か月この街に拘束することになってしまって」
「大丈夫、むしろ万々歳だ! 1か月は遊べて暮らせるぐらいの金が今手に入ったからなぁ!」
当初、自分はあらゆる魔法を操ることが出来、この世界は楽して魔王討伐出来るだろうと踏んでいた。
だが、呪いで魔法をほぼ封印された今、その考えは脆くも消し飛んでしまった。
やはり俺は神の力に頼っていたのだな。
神から与えられた魔力と鑑定スキルになんでも教えてくれる大賢者。これが無ければ自分はただの雑魚に成り下がる。
もう頼れない。
なら自ら強くなるしかない。
「それじゃ4ヶ月後、隣町の酒場で!」
◇
「結婚しましょう!」
「このやりとり何回目よ全く、しつこい男は嫌われるよ?」
「まあ、そうですね、一理あります。ここは引いておきましょう!」
ここは筋肉の巣窟である。可憐な女の子どころか筋肉女性も居ない。故に僕は今性欲に飢えている。
「全く、第一あたしゃ旦那と結婚し、もう42よ? 旦那にももう女として見られてないのに何処がいいのか……?」
婦人の嘆きに自分は真顔でこんなことを言っておいた。
「? 人妻もなかなかいいですよ? それに50歳女性までなら俺は喜んで抱けるので、貴方はまだまだ現役ですよ。なんなら、それ以上の年齢でもせがまれたら……どうだろう?」
「あの勇者やっぱり頭おかしいぜ」ヒソヒソ
「これで童貞なんだから頭がおかしくなる」
「おっと、外で誰かが話していますね。朝食ありがとうございました。それでは奥さん、修行に行って参ります」
そうして、自分は4ヶ月軍の中に入り、兵士としてみっちりと特訓することになった。兵士長・奥さんの家に下宿して日々新たに頑張っている。
しかしちょっとした問題があって……
「勇者殿! 何度言わせるんですか!」
やはり俺は見知らぬ土地の人間たちを守るなんて……俺にはできなかった。
兵士なのに市民を守る意識が全然沸いて来なかった。だから、いつまで経っても戦闘技術は上達しないし、よく兵士長にも怒鳴られたな。
あるとき健也が誰かに俺がここにいることを聞きつけたのかは分からないが……
わざわざこの場所までやって来て、自分を守るために強くなってほしいって言ってくれた。
もはや自分よりも何倍も強くパーティーを率いて大活躍している奴がだ。
『この国の民を守れないなら、同じ故郷の友人を守るために強くなれと』
俺はその言葉で目が覚め、なんとかこの呪いと戦い、強くなることを決めた。
◇
だがそれでも、何か明確な理由が欲しかった。
そんなわけで、この修行期間中なにかと俺の相談相手になっている、マイフレンドであるアレックスにも話を聞いてもらったのだが……
「別にいいんじゃないか? この国のみんなを守りたくなくても守る理由が無いならな」
「これはまた意外な」
「それに、理由があったとしても1人だけじゃ全員を守ることなんて無理なんだし、目に映る人達を助けることが出来たら上出来だろ」
「君は……勇者が亡くなった際、代理の勇者を立てるため選ばれた勇者候補さんのはずだろ? 少し危なくないか?」
「嫌味か? 俺だってチンピラ上がりだし、そんな責任負いたくねーよ。国も民衆も身勝手だよな全く……」
各国内から2人勇者を選出することがこの世界における暗黙の了解らしいので、何かしらの理由で勇者に欠員が出た場合、代理の勇者を立てなければいけない。
「まあ俺は頭悪いし、総大将のチンピラだからな。国の方針はどうでもいい。来るべき戦いに備えればいいだろ。さあ、今日も付き合ってもらうぞ! ライバル兼マイフレンド!」
「貴方の言葉に救われる毎日ですよ。全く……やりますか!」
守るべき理由か……この国の中で当てはまってるのは今のところあの姫に奥さん。なら理由としては十分じゃないか。
修行するための大義名分が今、できた気がした。
少なくともこの旅に出るまでの準備期間内は守ってみせる。
こうして吹っ切れた今、自分で言うのはなんだがライバル兼フレンドのお陰もあり、メキメキと剣術の実力を高めていった。
だが、直ぐに次の壁にぶち当たる。
それは天才の存在。
魔法が制限された今、自分には剣術を極めるしか道は残されてないのだが……
意欲以前に自分には天性の才能が無かった。
兵士長曰く驚くべきスピードで技術を吸収し、非凡の才はあるものの、やはり本物の天才には敵わなかった。
アレックスに兵士長の強さは別格だ。この1ヶ月模擬戦で勝ったことがない。
「兵士長はなんでここにいるんだろう……」
こんな状態では魔物一体倒せないだろう。
こんなんじゃ到底旅など出来ない……
「兵士長さんは守りたい家族がいるから死にものぐるいの修行もこなせてると言うけど、生憎自分には異世界に来てからも『彼女•婚約者候補』作れてないからなぁ……」ハァ
やはり死にものぐるいになるには何か守るべき存在が必要か。
姫は王に拒否され、旅には連れて行けないし……
例えば、美人とか可愛い子をパーティーメンバーに入れたりしたり。
そう思案していた日々だったのだが……
「起きてください勇者様! 魔王軍が別動隊に夜襲をしかけてきました!」
「なんとか撃退しましたが犠牲者多数! 負傷者甚大!」
「なんと!? 今助太刀に向かいますと現場に伝えてください」
僕は飛び起き、すぐに最低限の荷支度をして現場に急行した。
夜襲は戦争を仕掛ける手段として有効的な戦術。確かにそれ自体に卑劣と罵ったり綺麗事も吐く気はないが……
それでも言いたい『まだ半月も経ってないのに今月だけで何回目だこれは』と。
数日以内にあの日誓った約束の日が来るわけだが、ここに来て魔王軍が進軍を始めている事実。
しかも今日に至っては死者が多数出たという。今までなら出ても1人や2人がだったのに。
そして、現場に到着した僕はあまりの光景に戦慄することとなった。
「地面が、血で染まって……」
助けを求める目を包帯で巻かれた負傷者に臓物を撒き散らしながら死を待つしかない人もいる。
「アレックス無事でしたかって、その人達って」
「ああ、察しての通り戦死者だよ」
夜襲の中でも激戦区になった場所は遺体安置所になっていた。
犠牲者の中には同じ釜の飯を食べた奴もいる。
「コイツは妹の治療費を稼ぐために軍に入り、アイツはここで結果を残して相手の親に結婚を認めてもらうため頑張ってたのにな。俺も子分を数人失った」
「各地で人攫いや虐殺してると聞いてはいたけど、やはり本当なんですね……クソッタレ」
いよいよ本性表してきたってことなのか? 魔王よ!
「勇者様ぁぁぁ!」
「今度はどうしました!? 騎士団長殿? 貴方も出陣してたのですね」
いつもは城の警備をしている騎士団長が息を切らしながら切羽詰まった震えた声でこう言った。
「勇者•二条健也様が戦死を遂げたと一報が! パーティー仲間を庇って……」
「……なんと!?」
俺はそいつのためだけに呪いに負けず強くなることを決めたんだ。
だけど……そいつは、死んだ。
勇者として……
勇者メンバーによると、魔王幹部に奇襲をくらいそのまま……
そこで俺は……身体の中で何かが切れた。
「……魔王め……!」
4ヶ月前、かつては魔王討伐をやるメリットは無いと、そう思っていたが訂正しよう。
旅の目的に魔王討伐を追加する……
まどマクライク〜本来は倒す理由が出来た魔王を退治するための旅だが、あわよくば自身にかけられた呪いを解きたいのと生涯の伴侶が欲しいという話 まちゃかり @macyakari
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。まどマクライク〜本来は倒す理由が出来た魔王を退治するための旅だが、あわよくば自身にかけられた呪いを解きたいのと生涯の伴侶が欲しいという話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
母を重ねる/まちゃかり
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます