健也は激怒した

「マキバオー! 流石に100Gだけってことは無いでしょう。いくらなんでも」


 王の城から旅立つ前に、マキバオーことこの国の王様にこう言い放ったのは勇者二条健也だった。



       ◇回想◇



 二条健也は激怒した。必ずかの邪智暴虐の王の考えを改めなければならぬと決意した。

 二条健也は一般的なルールが分からぬ。二条健也は生まれながらのニートとして、妹とヤギの尻に轢かれながら廃課金と笛を吹いて遊んでいた。


「さあいけ勇者よ! いざとなればカンマン王国の王やその勇者に頼るといい。友好的な関係だからな!」


「え?」


 そこで二条健也は疑問符を浮かべる。それに釣られたのか王様も疑問符を浮かべ返していた。

 そのあと健也は不満を口に出し、痛烈に王様を批判。


「マジですか? 全人類の命運背負って、やりたくも無い戦いに身を投じるのにたったの100G……日本円で換算するとたったの100円じゃないか。そうですか、分かりました。じゃあ僕魔王退治の旅辞退します」


「そ、そんな! 君は仲間を集めてたと聞くが、そいつらはどうするんだ!」


「そんなことは今どうでもいいです。大体、別に遊んで暮らせるほどの金くれとは言ってないんですよ。だって小国とはいえ豊かだし、住民にあんだけ金使ってるんだから、世界を救わんとする僕に10億Gくれてもいいんじゃないかな? なあ君もそう思うでしょ?」


 今まで静観を貫いていた三瀦相馬。

 しかし健也の圧倒的な気迫に押され、いやでも確かに勇者の待遇は悪かったしなと、そう思ったのでこの流れに同調することにした。


「いやでも10億Gって……」


『健也、金の亡者じゃね』と自分こと三瀦相馬は心の中でツッコミを入れた。


「これ以上は絶対に譲りませんよ。俺つえー展開に持ってくために必要経費ってことで! 以上!」



       ◇回想終了◇



 健也は何故今まで自宅警備員なんかやってたのか?

 かなりの交渉術だったなぁ健也。


 もしかして、親の介護!?

 テレビで見たことがある。片親かつ親の体が弱いので代わりに子供が全てを担っているというのを。

 そうか……君は若い頃から自分の時間を犠牲にして親孝行を……

 なんていい子なんだ!


 自分はあまりの大金を目にし……『金に目が眩んだ暗殺者や強盗殺人、日本の何処かに居たゆるキャラ【カネクイムシ】が襲ってくるかもしれん』そう想像してしまい、それから恐怖で背筋が凍りついてしまった。


 そんなこんなで身の上の恐怖を感じたのでかなり遠慮して、1000万Gにしてもらったがそれでも多い。

 金だけで荷物袋を圧迫している。


 まぁ西山にはなぜ遠慮したのかで大目玉食らったが、自分も10億貰ったら国が滅ぶだろ?

 国の民に平和をもたらす為、勇者を送り出したが故に国が滅びたなんてことが起きたら本末転倒じゃない?


 それに第一、自分は魔王討伐を目的とはしていない。

 大事な人が殺されたとかなら分かるけど、俺にはそんなのないし正直やるメリットは無い。


 そんなのは健也とか他の勇者にやらせとけばいいのだ。


 自分は自らに課せられた呪いを解くために旅をする。もし厄災を治めたとして日本に帰れたとしても、呪いが原因で身体が不自由になってたとか嫌だし。

 日本の女性を触れなくなるのはあってはならない。


「いや待てよ、結局100Gが1000万Gになってるから、どちらにしろかなり得してるな。それに、10億むしり取った奴と比べ相対的に王と民衆の印象UPを促してると考えたらそんなに悪くない判断……」


 ああ、自重したのにも多少そういう効果があるんだ。

 西山さんは頭を悩ませながらこんな結論を導き出したようだ。


「いやそれでも10億貰っといた方が良さそうだけどなぁ。まあ終わったことなら仕方ない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る