ラスボス級やん

◇とある辺境の草原にて




 それにしても健也に教えてもらった鑑定スキルは便利だ。

 召喚特典で習得したらしいが、これで毒がある草と薬草を一瞬で選別することができる。


「これが薬草。体力回復が出来るなら沢山取っといた方が良さそうでしょうね」


 こうして鑑定スキルによって有意義な時間を過ごしていたのだが、突然暗雲が立ち込め、近くで雷がとどろいた。


「なんだ、寒い。そういえば従者の人がこれから寒くなると言ってたけど……」


 急な天気の悪化ように今って前の世界で言う雨季なのかなと呑気に考察していたのだが、背後に圧倒的な存在感が姿を表したのを気配で感じ取り思わずたじろいだ。


「貴様には悪いが火種は今のうちに消さなきゃならない」


 いきなりボス襲来だと!?

 頭に黒い輪っか?

 フードを被っていて顔は見えないが、凄まじいオーラを身に宿しているのは分かる。

 まさか……魔王!?


 いきなり最初からクライマックスな展開に動揺が隠せない自分に向かって、機械音声が混じったような女性っぽい声で余裕綽々な奴はこう言い放つ。


「貴様の膨大な魔力は災禍の種となる。だが貴様を消せばその魔力は他の者に宿るとされている。召喚士らは新たな魔力者を血眼になって見つけ出し召喚するだろう」


 命の危機を感じた俺はこの場から逃げようと思ったのだが、身体が思うように動かない。


「貴様は唯一無二の存在だ。ならお前に呪いを、その身を牢としてその力を封じるが良い!」


 そこで目の前が真っ暗になった。



       ◇



 目を覚ますとさっきの暗雲が嘘のように晴れ晴れとした草原に寝そべっていた。


「フード被った人も居ない……」


 それに両足が攣っている……

 その影響で身体が金縛り状態になったのだろうか?


 遠くで自分と同じく召喚に巻き込まれてしまった健也の声と聞き慣れない声が聞こえてくる。


「近くで四天王以上の魔力の持ち主が現れたって聞いて駆けつけたんだが、お前かよ」


「これが噂のミズマソウマか。天上天下唯我独尊総大将にして勇者候補のアレックスだ」


「はいはい。アレックスは100人の部下がいるんだねーすごいなー……それよりなんだこの警告は? 相馬の頭の上に文字が、呪い?」


 剣の勇者は『とりあえずお前は自身を鑑定してみてくれ』と言ってきたので、試しに大賢者に調べてもらおうとしたのだが……


「あ……れ? 発動しない……?」


「なんだと!?」


 鑑定スキルが使えない……!?

 ゲームみたいな表示が無くなっていて、普通の目に戻ってしまっている。


「さっきから何言ってるか分からんが、精神一到•輪意瑠怒黒露崇!(ワイルドクロス)すればいいんじゃないか?」


◇二条健也はポケットから無数の割引券(冒険者御用達サキュパス店)(キャバクラ)をアレックスに握らせる。


「よーし、100人の部下を持つアレックスさんはこんな地味な勇者に構うより、城街をその部下とやらと共に派手に暴れててくれ! そして今日はこの草原に近づくな。これは勇者命令!」


「ほう? 勇者命令かあ。勇者命令なら仕方ないな。勇者命令、野郎どもに至急連絡しないとなぁ!」


◇アレックスは意気揚々な気分になりこの場を去っていった。このあと街で一悶着することになるが、それはまた別のお話。


「おい『大賢者!』これは一体どういうことだ! 説明しろ!」


 言葉使いを荒げ、神の能力に語りかける。だが、大賢者の応答は無かった。


「健也、俺の能力鑑定をしてみてください。何かがおかしい……」


「おう、分かった……」


◇健也は今の三瀦の状態に言葉を失った。呪いの種類は分からないが、ただ一つ言えることは自分では解呪不可能ということ。


「単調直入に言うわ。三瀦相馬は今呪いに侵されてる。しかもかなり強力なやつに」


 どうやら呪いにより初級魔法しか使えなくなってしまった。

 しかもしっかりと詠唱しないと魔法が発動しないようで。一応、初級魔法は簡単だから特段支障は無さそうだが……


「火系の魔法は無詠唱で放てたはずなのに……」


 健也は『そもそも無詠唱で魔法放てる方が異常』と言いながら、呪いの解析を進めていく。


 この呪いはメリット効果も付与されているようで、暗視能力と老化の抑制が呪いによってつけられていた。


「思ったよりもかなり面倒な呪いがかけられてしまったのですね。自分は……」


 しかも健也によると、元の世界に戻れたとしても手足が魔力に囚われて動かなくなるらしい。

 今のまま元の世界に帰ってしまったら歩けないし手も動かせない不自由な身体になってしまうようだ。


「ご丁寧に、実質元の世界に帰れない呪いまでかけてきやがって。理不尽極まりないじゃないか。魔王かその幹部か、誰なんだよこんなやっかいな呪いをかけたやつは……」


 解析を終えた健也は空を見上げてこう呟いている。


 自分は召喚士が今朝話していたことを思い出し、ハッとした。確か明日、王城内で王自ら旅の援助をしてくれるらしいが……


 ……勇者の力を失ったしこのままじゃマズい気がする。

 神の知能に主人公だけに見える的なゲームの鑑定スキルも無い今の自分じゃ、子供にも勝てないかもしれない。



       ◇



 健也が手配した神官による解呪術も、解呪阻害の呪いが重ねがけされてるため解くことが出来なかった。

 神官が言うにはあらゆる呪いや加護をも寄せ付けない呪いがかけられてるんだそう。


 神官がずこずこと帰っていくのを健也と共に遠い目で眺めていると、どこか可哀想な眼で自分を見てきた健也が気まずそうに語り出した。


「お前って魔力が高いのと脚力が平均値以上なだけで後は平均以下だよな。それって一般兵士にも負けてしまうぐらいなんじゃ……」


「……そうですか」


 魔法が無ければ、剣術で一兵士に負け、体力も無い。

 体術と脚力だけは自信あるけど……

 これでどうやって戦って行けばいいんだ……


 何度も言うが、魔王退治の旅に出るのは明日から。

 今の自分ではオークどころか猫等の小動物にも敵わないだろう。そんな自分が、明日魑魅魍魎の戦に単身放り込まれるのか。


◇そんな感じで三浦相馬は今置かれている現状に絶望し、完全に途方に暮れていた……そんな時、ある言葉に一筋の希望を抱いた。


 そういえば、城から出る前に国の兵士長と名乗る人から……


『勇者とは言っても皆ヘロヘロな身体。そして旅に出て、結果みんな死んだ。俺はこの現状を変えたいと思っている。どうだ、貴様は勇者なら軍で鍛えてみないか?』


 ひとまず健也とは別れ、俺は現状出来ることを必死に考えをまとめようとしていた。


「軍から誘われてるけど、どうしましょうか。呪いをかけられたとはいえなにも魔法が使えないわけじゃないし、健也からは剣術学んだし」


 一応返事は保留にさせてもらっているが……



       ◇



 とりあえず、魔王城やその領地について知りたい。誰か適当に話しやすそうなこの世界の住民に聞いてみようか。

 何か知ってるだろうか?


 そう思っていたらちょうどいいところに、ジョギングをしている坊主頭の人相が悪い人が横切った。


「ハッ、脱獄魔とはこの西山寅吉のことさ! あーあこの街で捕まったのは3回目か。流石にもうこの国じゃ女遊びは出来ねぇかなぁ」


 ていうかこの坊主の人、脱獄犯なのか……?


 脱獄って確か曲芸師か怪盗がよくやってるイメージだな。もしかしてピエロを生業としてるのかも?

 ま、いいか。

 この土地について何か知ってるだろうし、追っかけて聞いてみよう。


「待ってくださーい! そこの人、魔王の住む領地がどこにあるのかを教えてくださーい!」


「な、なんじゃこいつ! 追手か!? とにかくずらかろう!」


 そんなわけで、日本人男性らしき人に魔王領への行き方を教えてもらおうと声をかけたのだが、答えを聞く前にその人は森の中へ逃げ出していた。


 自分はめげずに坊主の人を追いかけていく。


「ちょっと待って怪しい人じゃありませんから話だけでも~!」


「うわっ、アイツ想像以上に足が速え!」


 部活で鍛えてたし、煩悩を紛らわすために下半身を苛めてたから。脚力には少しばかり自信をもっている。

 森の中の悪路も自分の脚なら楽に踏破出来だろう。


「そもそも捕まるかもしれんのに誰が足を止めると……」


「ちょ、急に止まらないでください!」


 坊主が急に足を止めたので、俺は勢い余って坊主にぶつかってしまった。


「痛た! 止まるなら先に言ってほしかったですよ。でもやっと止まってくれましたね……え?」


 巨大な影が自分達を覆っているのに気づき、恐る恐る影の正体を確かめるため見上げてみると……走馬灯が見えた。


 ある日~森の中~熊さんに~出会った!


「逃げろ~!」

「ウォォォォ、なんだあれぇぇぇ!?」


 巨大な熊が俺達の目の前に!

 そうだ、童話であったぞそんな話が。


 とあるお嬢さんは俺達と同じように森の中に入って熊に出会うんだ。

 そして熊さんはお嬢さんお逃げなさいと言うんだけど、お嬢さんが逃げだしたら熊も一緒に後をつけていくんだっけ。

 しかし、熊さんの本当の目的はお嬢さんが落とした白い貝殻の小さなイヤリングを届けるため。


 なら、俺も何か落とし物をしたことで、現在熊に追われているんじゃないか?


 なら言語が通じた上で喋れて、ただ単に落とし物を届けようとしているお人好しな熊さんだったら話が通じるかもしれない!


「熊さん! 俺の落とし物を渡そうとして追いかけてきてるのかい?」


 しかし、熊さんは唸り声を上げた上でさらにスピードを上げて俺達に突進をかけてくる。


 あれ、これ……死じゃね?


「アホか! 熊に対話が通じるわけないだろうがぁぁぁぁ! ほら、逃走用のまきびしをばら撒いたから熊が怯んでる間で今のうちに逃げるぞ!」


「ああ、すみません。ついつい悪癖が出てしまいました」


 俺達は必死に森の中を逃げ回った。

 そして、西山さんの案内によりなんとか森の外に出られる手前まで歩を進めたのだが……


「日本にいた頃だったら勝てなかったけど、魔法が使える今なら!」


「ダメだ! この熊は日本にいるヒグマに加えて各種魔法耐性に全属性耐性が備わっている化け物だ! 生半可な魔法じゃ弾かれて終わりだ!」


 この熊、化け物じゃね?


「いや、やってみないと分からないですよ! フレイム!」


◇フレイムが熊に直撃!

◇しかし、熊は無傷だった!


「嘘ぉぉぉ!? そうだ、自分は呪いで初級魔法系統しか使えないんだった……」


 ヤバイ、追いつかれる!


「撤退、退避、戦略的撤退!」


「こうェ、なっちゃら!」


 この人、口の中を弄りだしたと思ったら何かを取り出したぞ?


「カミソリの刃!」


 熊の腕にブッ刺した!

 だけど全く怯んでない!


 すると、今度は袖に手を突っ込んで竹筒みたいなのを取り出し、矢らしき物体を熊に放っていた。弾かれてたけど……


「グヌゥ……抽箭でもダメか。所詮隠し武器め。後残ってるのはスモーク爆竹だけか。アイツ火や煙、全然怖がらないんだよなぁ」


 何故こうもこの男は落ち着いているのだろうか? このままじゃ追いつかれた後、色々大事な所をつつかれ殺されてしまうかもしれないのに。


「ハッ! あれは!」


 あれは……好機と見るべきか今の時期的に肌寒い中、自殺行為と見るか……

 だが、選択肢は一つしか残されていない!


 最後に念には念を入れて小細工を仕掛けた後……


「飛び込め~!」




       ◇



 1分か2分は経ったか。恐る恐る水から顔を出してみると、諦めたのか熊は姿を消していた。


「化学の実験で霧を生み出すという授業があったけど、魔法を組み合わせたら案外簡単に出来るんですねこれ」


 目眩しとして少しは時間稼げるだろうと思い簡易的な霧を張ってその後、池に飛び込んだ形だ。


「はぁ、何でこんな目に。熊に喰われるよりはマシだけどよ」


 こうしてなんとか熊を撒くことが出来たのだった。霧はあんまり意味無かった気がするけど、まあ魔法をうまく使うことができたらたとえ初期魔法でも十分武器になると分かっただけでも良い収穫だ。


「それより、凍え死ぬ……熊に食われるよりはいいけど、明日風邪になるかもしれん……勇者なのに」


「ん? 勇者……そういえば最近勇者が召喚されたらしいが、もしかしてお前が……」


◇すると、西山の悪知恵が火を吹き始める。


「てことはこれからお前は魔王幹部に相対するのは確定ってわけだ。この世界では勇者は魔王側に警戒される存在だからな」


 顔から血の気が引いていくのを感じる。今の状態で魔王幹部と激突なんかしたら、確実に秒殺だろう。

 それに加え、魔王側に勇者は常に警戒されていると考えると……バッドエンド不可避じゃね?


(確か魔王幹部が点在している城には宝が眠っていると聞いたことがある。魔王は論外だが、勇者の仲間になったら宝強奪してこれからの人生謳歌できるかもしれんな)


「分かった。魔王の領土が何処にあるのかを教えてやる!」


「おお!」


「そのかわり俺を案内役として勇者の仲間にしろ!」


「お?」


「俺はお前に賭けてみることにした!」


「ええええええ!?」


 こうして三瀦相馬の呪いを解くための旅(魔王退治及びその幹部の討伐)が始まろうとしていた。「」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る