まどマクライク〜本来は倒す理由が出来た魔王を退治するための旅だが、あわよくば自身にかけられた呪いを解きたいのと生涯の伴侶が欲しいという話

まちゃかり

過去編

前途多難

 三瀦相馬は戦慄した。

 これから女の子とラブコメ純愛的展開を期待してたのに……

 目の前に居るのはおっぱいバインバインのお姉さんじゃなくて、怪しげなおっさん!


 ラブコメの流れを断つ異世界転移……


「返せよ、俺のヒロイン兼正妻候補を返せぇぇぇ!」


 この魂の叫びは虚しく空に消えていく。



       ◇数分前◇



 ある朝、食パンを頬張りながら走っていた少女にぶつかりかけたので、なんとかかわしたのだが……


「嘘でしょう……」


 かわした先には爺さんが全速力で漕いでる自転車、それにまともにぶつかった俺の身体が盛大に宙に舞った後、地面に叩きつけられた衝撃で全身が軋む。

 柔道をやっていたのでなんとか受け身は取れて身体のダメージを軽減することはできたものの、軽い脳震盪を起こしてたしく少し視界がぼやけてきた……


「クソ、異性の桃源郷を見るまで俺は死ねない……」


 なんで今どきパン咥えながら走ってる少女に出会ったのか? もしや運命の出会い?

 それにしても凄いデカいおっぱいだったな。そうぼやきながら意識を失い……


 そして次に目覚めたとき、自分が居る世界が変わってしまっているのに気づいた。


「なんでだろう、痛てて……え?」


 成功したという言葉とおっさん声が建物内をこだました。


「は?」


 俺はただのしがない煩悩を紛らわすため下半身を重心的に鍛えてる、おっぱい大好きで卒業間近な高校生だったはずなのに……


「勇者様方々お待ちしておりました」


 一言で今の状況を説明するが、俺は勇者として異世界に召喚されていた。

 ついでに買い物をしてたので、少しばかりの食料や調味料が入っているリュックと共に。


「ええ!? 自分の部屋でうたた寝していたら何処だここは!? そして誰なんだよこのハゲジジイは!」


 どうやら、自分のように何も分からぬまま召喚されてしまった人が居るようだ。


「我が勇者様方を召喚いたしました。貴方達にはこれから魔王退治の旅に行くことになります」


「そうか、これはドッキリですね。こんなに凝ったドッキリには初めてかかりましたよ!」


 召喚士は俺が言ったドッキリという線を完全に否定した。そしてこの発言にかなり怒り狂っているが、嫌な予感がするな。


「家に帰らせてくれませんか? 帰ったらエロ雑誌読もうと思ってたのに。もう下半身が爆発しそうなんですよ」


「そうだそうだ! 僕は家の中にある子供部屋が天職なのに……いやまてよ……これはこれでいいのかもしれない……!」


 自分はこの後、家に帰って自炊する予定だったのが、見事に狂ってしまった。

 今すぐにでも帰らせてほしいと召喚士に言ってみたのだが、召喚士の返事はNOだった。


 召喚士によるとこの世界は度々魔物が大量に人間が住む国々に発生する厄災が周期的に起きている世界のようで。

 厄災は各地の王国の偵察部隊により、それで予測しているらしいが……


「厄災を収めるか、魔王を打ち破るか、そのどれかを達成出来たならお望み通り元の世界に帰してやらんことはない」


「この召喚士、さっきから謎の上から目線マジで不快なんやけど。殺していい?」


「まあまあ落ち着いて」


 同じく召喚されてしまった少年を宥めながら、俺は召喚士の話を聞いていたのだが、あの少女にぶつかることで召喚のトリガーが発動した模様だと聞いて流石の自分もイラッとした。


 自分が召喚されたことよりも、あの美少女が『誘拐召喚』という犯罪に加担させられていた事実に。

 それも結構計算されていて、自分が召喚されるよう調整していたようだ。


 これが異世界版ハニートラップってか? うるさい!


 召喚に巻き込まれた人も、子供部屋で寝る前に外に出た際に同じく少女とぶつかってここに来たようだ。


 もしかして俺達と同じように巻き込まれた人達もいるかもしれない。


「おお、なんか来たぞ?」


 少年が指差しながら騒ぎ立てている。

 あら、目の着く場所に居るのは豚の化け物?


 召喚士は焦る様子は無く、こんなことを言いだした。


「まずは、ちょうどいい具合に猛獣が来たな。これに魔法攻撃を仕掛けなさい。ワシに力を見せてみよ!」


 召喚士が言うにはこの魔物、オークと言うらしい。


 この魔物、オーク以外のメスを栄養源にしているらしく一度目を付けられたら女はボロ雑巾になるまで凌辱されてしまう。ついでに、飢えてるオークだったら男もターゲットにすることがあるという危険なモンスターのようだ。


「魔法ってどうやって出すんですか?」


「この魔導書読んで見よう見真似で放ってみい!」


 この召喚士、なかなか無茶振りを言ってくる。魔法なんて1から学ばないとダメそうなイメージがあるが、大丈夫なのだろうか?


 とりあえず、1番派手そうなこの炎系魔法を使ってみる。見るからに複雑だし、多分不発に終わるだろう。


「なんと、手のひらから火柱が!」


 そんな考えは灼熱の業火に焼かれ、消失した。


「ほうほうほう! ヘルインフェルノは四天王の一体が最終奥義として使ってくる大技ではないか! それを無詠唱で放って見せた」


 オークを一瞬で消し炭に……

 自分は己の力に少し恐怖を感じた。


「すまないオーク。当てるつもりはなかったし殺すつもりもなかったんだ。ただ……力の制御がうまくいかなかった。少し罪悪感……」



       ◇



「やはり2人とも立派な勇者であった。1人は魔王にも劣らぬ膨大な魔力を持ち、1人は剣の達人! この世界の未来は明るいですなガハハ! しかも相応に健也は魔法使えるし、魔法使いも体術は非凡のセンス!」


 魔力が膨大なのはきっと俺のことだろう。生まれてこの方自分は剣を持ったことないし、運動と言えば中高で護身用の体術•柔道をやってただけである。


 元々身体が弱かった幼少期。

 少しでも強くなろうと始めたのが柔道だったのだが、一時期熱中した時期があったおかげでそれなりの実力は持っている。

 体力面も特に問題は無い。


「これなら我が王に謁見させることが出来るであろう。ワシは見聞を広めるため友好国であるここにやってきたが、陛下にいい報告が出来そうだな」


 召喚士はうっとりした表情で自分をまじまじと眺めている。美少女だったらいいが、おっさんはダメだ。


 てなわけでこの召喚士を今すぐどついてやりたい今日この頃。しかしこれでも要人。

 非常に納得はしてないのだが、拒否権を持たない俺達は従うしかないのだ。


 魔王退治の旅に出るまであと1週間。


 ここに来て10日余り。

 なんとか回復魔法以外の魔法は使いこなせるようになったので、次は健也に剣術とか教えてもらうことにした。勇者は剣を扱ってるイメージがあるし今後使うかもしれないので。

 そんなわけでこの1週間はもっぱら健也と一緒にいたのであった。


 そして、ある日健也が……


「少し勇者同士で能力共有しないかい?」


 という提案をしてきた。

 もちろん快諾。


 そうして能力を確認している内に、とある事実が発覚した。


「召喚に巻き込まれたお詫びに神からサポート知能大賢者が来てないかですて?」


 そういえばさっきから何か機械音が聞こえてきたような?『この世界は元いた世界より危険なので神が直々に贈り物を差し上げましょう』とかなんとか。


 脳内に直接語りかけてくるような、無償に気持ち悪い感覚に襲われる感じは、これはもしかして……呪いの言葉か!?

 確か異世界系には神とかを名乗る人がなんらかの能力や武器を授けてくれると聞く。

 だがしかし俺はそんなことは経験していない。

 俺はこの世界にとっては部外者だ。

 動物でいう特定外来生物。

 きっと外来世界で悪さをしないように悪い贈り物をくれたに違いない!


「君は大丈夫なのか? 呪いとかかけられたりしてない?」


「(・Д・)? いや特にかけられてないけど……」


 健也に使い方を教えてもらうと、大賢者を使うことができた。


 大賢者は一言で言うと神の知能で能力保有者をサポートしたり、解析や生物の体力•魔力を数値化することができる優れ物。いわゆるチート能力ってやつだった。



       ◇



「おー! 火の魔法でハートを作ってる」


「俺は主に火属性の魔法が使えるのですね。料理とかで日常的に火を扱ってたからかな?」


 一応全属性扱えることが分かったが、火属性魔法の方が得意だなと思った。

 火属性最強の魔法は無詠唱で放てるのだが、それ以外の魔法は詠唱しないと発動しなかった。相性の問題なのか?


「そうそう、健也という日本人がいるんだ。どうしても確かめて起きたいことがある」


 ついでに、自分がふと疑問に思ったことを健也にも話しておこうと思った。


「日本人なはずの俺達が何故、普通に異世界語を読み書き出来て言葉を理解してるんだろうなと。普通外国語は楽して覚えられる代物じゃないし」


 確かにと首を傾げる健也だったが、その数秒後何故か答えを知った学生の顔になり『大賢者の見解なんだけど』と前振りを言って健也はこんなことを喋り出す。


「ここに来る前にこの世界の女神が『異世界語が分かるようになる代わりに低確率で記憶喪失になっちゃうかも』の加護をかけてたらしい」


 ハイリスクハイリターンじゃね?

 ていうか誰なんだよ女神って。そういえば確か、神が直々に贈り物差し上げたとか言ってたような。


 情報人口密度が初詣すぎる。

 もうつっこむの疲れた……


「この後、この領土にいる王に謁見することになっておる。仲間探しの出会いの場酒場はそのあとじゃ。一応言動には気をつけなはれ」


「あ、クソ召喚士。居たのか、居るなら先に言えよ。三瀦が頭抱えてしまったじゃんか」


◇召喚士はずっとこの場所に存在していたのだが、この発言をするまでずっと蚊帳の外になっていた。



     ◇謁見の間



 ふむふむ、やはり王国を背負う王族だ。純白の長い髪に可愛い顔……


「ゲブバ!?」


「いきなり鼻血スプラッシュマウンテン!?」


「ハァハァ大丈夫だ健也。改めてご機嫌麗しゅう、姫様。ハァハァ、やはり噂通り美しいですね。ブレスレットが似合ってます。結婚しましょう!」


「おい待て、お前王に会うのは今日が初めてだろ? 色々すっ飛ばしすぎだ。あと鼻血止めろ」


 健也が小声で何か言ってるが無視する。


 それで、健也の言うとおり初対面である王の様子を見てみると何故か激しく狼狽していた……

 そして最初から口語強めで王がこんなことを言う。


「流石に勇者候補だとしても我が娘はやらんぞ!」


「何故ですか? 俺は姫が可愛いと思ったから婚約を申し出ただけなんですが……?」


「まだ朕の娘は17なのだが……」


 王は怒っている……いや呆れているがそんなことは大した問題ではない。


 今回は謁見だけと聞いていたので、そうそうに切り上げることにした。


 例の召喚士は頭を抱えていたが、それより自分は試さなきゃいけないことが沢山あるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る