第5話 人間引退(最終話)

Xは自分が人間でないという事を酒の力を借りて忘れようとするようになった。しかし、いくら酒を飲んだって「非人間化」を止める事は出来ない。やはり自分は人間でないのだ。倹約家の父と一緒に暮らしていた頃は「人間としての最低限度の生活」を送っていた。だが、今や人間でもないのだ。

 じゃあ、人間として生きるべきでないのか?


 Xは衝動的に、財布だけ持ってローカル線に乗って山のある田舎に行った。雪の降りしきる日だった。小さな商店で大量の酒を買った。

「この酒だけ飲んだら、山奥へ行こう」

自分は人間でない。なら野生の動物として生きればいい。人気のない山奥で生きればいいじゃない。そう思いながら大量の酒を飲んだ。大量の血を吐いた。意味の分からぬ事を叫んだ。山奥へ突進した。そしてXの姿は山奥へと消えていった。その場にはXの吐いた血と足跡が雪の上に残されていた。


 あれから二年。あの時吐いたXの血も、突進した時にできた足跡も残っていない。山奥のどこかで「野生のアニメオタク」として生きている。

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消えた足跡 @Nagaura

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