第27話 呪われた家系
町内会にある小さな公園って想像できるかな?
滑り台と砂場しかないようなポツンとした小さな公園とも言えない公園。
幼い時はそこに行けば、だいたい赤羽と力漢が遊んでいた。
親にとって子供をあやすには丁度良い空間で、そこは
俺たちの親もそれぞれそこで、顔を合わせていたから親同士の付き合いもあった。
竹内家は今現在も変わらず、國枝家から十分くらいの場所にある。
当時の赤羽家は、國枝家の真前にあった。
俺たちは保育園から小学校、中学校と当たり前のように一緒に育ってきた。
力漢は兄貴がアレだから、小学二年生で既にヤンキーの頭角を表していた。
赤羽は運動神経が異常に良かった。
もちろん今とは違い、鼻メガネなんてかけていない。
とても明るくて
同じくマドンナBの
一方の俺は野球にハマっていた。
小中と七年間続けてきた野球の試合で、乱闘事件を起こして退部になった。それ以来は、今の様に力漢と連んでいる。
俺は赤羽が好きだった。
けど年頃の俺は、素直になれず生意気な事ばかり言ったり、そんな素振りを一切見せなかった。
中学三年の夏……突然、赤羽は引っ越してしまった。その事について何も聞かされていなかったし、突然の別れに、雷に打たれたかのようなショックに襲われた。
──もう会えねぇのか……。
好きだった事を伝えれば良かった。
もっと色々話しておけば良かった。
思いもよらなかった別れに、後悔と失意の念に囚われた事を今でも思い出す……。
そしてその後悔と失意の念は、学新学園の入学式までの、わずか八ヶ月で消え失せるのである。
「久しぶりね」
たった一言で済ませた赤羽の挨拶で、俺たちの奇妙な日常が元通りになった。
ただ一つ──、謎の鼻メガネを除いては……。
◇◇◇◇◇◇
──まずは、力漢の家に行くか。
カヤバシの依頼通り、俺は二つ返事で力漢と赤羽の家に向かっていた。
カバンの中には、二人の限りなく0に近い赤点のテストをしまって……。
力漢からは、相変わらず返事は来ていない。
メッセージ欄に既読マークが、つかないから心配していた。
そしてやっぱり、今日も力漢の家には愛車のゼファーがなかった。
──いないのか……、とりあえず聞くか。
ピンポーン、とインタホーンを押す。
『はい』と応対した声は子供の声だった。
三男の竹内
「おう、一護だけど……力漢いるか?」
『一護じゃん! 久しぶり。兄貴はいないけど、今行くから待ってて!』
武道は小学四年生の竹内兄弟の三男坊だ。
よく懐いてくれる可愛いやつだ。
玄関をガチャリと開けて武道が飛び出てきた。
「一護ッ!」
二人の兄貴と違って武道は、真面目な奴だ。
俺たちとは違う意味で尖っている。
バリバリのキノコカットで頭の良さが尖りきっていた。さすが竹内家、はんぱねぇ……。
「力漢と連絡つかないんだけど、最近どうしてんの?」
「アニキは春馬がぶっ壊れてから、ずっと帰ってないよ。たまに電話だけくるんだ」
──帰ってないのか……。
「そう言えば、春馬のやつおかしくなったんだってな?」
「うん。おかげで家族みんな暴力がなくなってホッとしてるよ」
──精神崩壊起こしてんのに、ホッとされるとか……。
なんか虚しいな……。
「久しぶりなんだし、ちょっと上がって行きなよ。母ちゃん仕事でいないんだ」
突然こんな状況になって、親は常に遅くまで帰らない。頼りの力漢は家に帰ってこない。
俺は武道が不憫に思えた。
──春馬の状態も気になるし。
「ちっとだけ、あがっていくわ」
そう言って俺は竹内家に上がった。
竹内家は玄関入ってすぐ正面に階段のある、よくドラマとかで見る普通の二階建てだ。
──ん?
階段に人型の黒い影のような、モヤの様なものが一瞬視界に入った。
目を凝らしてもう一度、階段を観察して見たがそこには何もなかった。
──気のせいか?
「どうしたの?」
俺のボーとした様子を武道が心配そうに聞く。
「いや、なんでもねぇ」
『あひゃあひゃひゃひゃひゃひゃ──!』
不気味な笑い声が家中に響く。
──なんだこの笑い声……。
俺は少し後ずさった。
「春馬だよ……」
「春馬の?」
「うん……」
武道は苦笑いをする。
俺は武道に言われるがままに家に上がり込んで、リビングに入った。
そこには、窓際に床にペタンと座って天井を眺めながら、不気味な笑い声を発する春馬の姿があった。
ヨダレをダラダラと垂らして目の焦点はどこを見てるのかもわからない。あのイケイケのチンピラは、廃人に変わり果てていた。
──目が……イってやがる……。
「ちわッス」
一応、一言挨拶をしてみるがこちらに対して何一つ反応はなかった。
「病院には行ったのか?」
武道に俺は聞いてみた。
「もちろん」
「なんて?」
「原因不明だってさ。まじで赤い人だと思ってる」
武道はそんな事を言いながら、ペットボトルの麦茶をコップに注いで俺の前に置いた。
──赤い人か……。
「サンキュー」
それから、力漢のテストを渡して、留年しそうな事、補習の事とカヤバシが言っていた事を武道に全部伝えた。武道は苦笑いを浮かべて点数を眺めていた。
「わかった。次の電話で伝えておくよ」
「あぁ……、てか俺の電話出ろよって伝えてくれ」
「うん。それも言っておくね」
そして俺は武道と少しゲームをして、竹内家を後にした。
──さて、次は赤羽だ。
ブン──とポケットに振動が走り、着信音がなった。スマホの画面には【竹内力漢】の文字が浮かんでいた。
──力漢!
「もしもし!?」
『おー、久しぶり〜』
「久しぶりってお前……、連絡も返さねぇーで……」
『悪りぃ、悪りぃ。ちっと立て込んでてな』
「お前やばいぜ──」
俺はカヤバシの話をそのまま力漢に伝えた。
『あっちゃ──、やばいなそれ』
と言葉とは違って声色は、あっけらかんとしていた。
「とりあえず、早く戻って来いよ。武道も大変だろ……」
『それがそうも行かねぇんだわ』
「は? 留年だぞ? てか、お前何してんの?」
──水の音?
受話器の向こう側からザァーと波のような、水の音が聞こえる。
──海?
『あぁ、海だ』
海なし県で有名な栃木県にはもちろん海などない。
恐らく隣りの茨城県だろうと思った。
「何やってんの?」
『前にさ。刀鍛冶の家系の話をしたろ?』
確か春馬が言っていたという……。
竹内家の祖先は、刀鍛冶を生業としていて呪われているとかなんとか……。
『そうそう。それでちょっと、調査しててな』
「オカルトとか信じてなかったじゃん」
『首無しライダー見た後じゃ、信じるしかねぇーだろ』
そう言って受話器の向こうから、大きな笑い声が聞こえてきた。
「それで? それがなんだって?」
『家の家系の男が、全員早死にしてんのは知ってるよな?』
力漢の父親は、三十代の若さでなくなっている。
祖父も同じく三十代、その前の祖先もほとんどが若くして死んでいると聞いた事がある。
『んで、今回の春馬の件だ……』
「いやでも、あれは赤い人と遭遇しちまっただけで」
『それも呪いかも知れないだろ?』
「ん……まぁ……でも、とりあえず今は補習うけろよ」
『そう言ってらんねーって、もしかしたら次は武道かもしれないし、それに今はすげー協力者にも手伝ってもらってるんだ』
──すげー協力者? 蘆屋のような陰陽師とか?
力漢が何やら説明しようとした瞬間、その後ろから『竹内くん。そろそろ時間だ』とダンディーな声が聞こえた。
『あっ悪りぃー。もう行かないとな。とりあえず、またその内ッ──』
「あ──ッ──おいッ!?」
と俺の返事を待たずに電話は切れてしまった。
すぐに掛け直してみるもそれ以降、繋がる事はなかった。
──まぁ、いいか。その内かかってくんだろう。
そうして俺は、赤羽の住所に向かった──。
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