第24話「とある軍曹の独白(その2)」【挿絵】
”世間じゃ俺の事を英雄だ、出世頭だ言うよ? じゃあ、代わってくれよと言いたい。偉くなればなるほど、死ぬ思いさせられるんだから”
トーマス・ナカムラのインタビューより
英国の〔
後に「英国面」と揶揄されることになる、色物兵器だ。
アメリカの〔M1〕対戦車ロケットランチャー、所謂〔バズーカ〕砲に先駆けて実戦投入された、歩兵用対戦車兵器である。
後にこの種の兵器の代名詞となるほど名が知れる〔バズーカ〕と異なるのは、発火機構にばねが用いられ、反動を吸収する仕組みになっていることだった。
射程が短く命中精度が悪い、反動の大きさに作動不良が頻発するなど、弱点が山の様にあるが故の「英国面」だ。
しかし反動を殺す目的で後方にバックファイアを噴射しないと言う点では、〔バズーカ〕より優れていた。ことこの時の様な状況下では。
うかつな
そして、威力自体は〔バズーカ〕と遜色無い。
英国でこれが開発されていると知った大公派陸軍は、一刻も早くこちらに回してくれと矢のような催促を行った。
結果、開発の
まだ初期不良があれこれ残っている段階のものだけあって、作動不良は実に5割近かったが、それでもこれだけの数を用意出来れば、充分目くらまし以上にはなる。
ナカムラ軍曹らがせっせと運んでいたのは、後方から大急ぎで運び込まれた追加分だった。
「礼を言うぞ!」
〔PIAT〕を手渡された血の気の多い日本兵たちは大喜びで肩に担ぎ、砲弾を持った装填手と共に塹壕を飛び出してゆく。
じゃ、そういう事で!
しゅたっと手を上げて後方に戻ろうとするナカムラの肩を、大柄の曹長ががっしり掴んだ。
左手には〔PIAT〕が握られている。
「さあ、貴官も」
良いことをしてやったと言う完全なる善意な笑みに返したのは、当然ながら引きつった笑いである。
「しょ、小官は
何度もその言葉が出かけたが、言ったら最後、このゴリラに肩を握りつぶされるのではないか? 気が付いたら〔PIAT〕を受け取っていた。
何故だ、何故なのだ?
ズボンをびしょびしょにしながら敵戦車に向かって走る。
自分は平穏に甘い汁が吸いたいだけなのに、なぜこんな目に遭っているのか!
風切り声と曳光弾の一閃。
目の前を走っていたゴリラ曹長が、顔に大穴を空けられてひっくり返った。
米国製の重機関銃は大威力で、弾を受けると肉が漏斗状に吹き飛ぶと聞いたことがある。その事実に震え上がるが、今足を止めたら、きっと彼のように妖怪みたいな死体にされる。
後ろを走っていた伍長が短機関銃を手放し、曹長の死体から〔PIAT〕を拾いあげていた。
戦場は戦車と歩兵が入り乱れて戦うと言う、狂乱の宴となっていた。
塹壕を飛び出してキャタピラに対戦車地雷を放り込む者。キューポラから身を乗り出して拳銃をぶっ放す車長を射殺して、車体をよじ登りそこから車内へ手榴弾を放り込む者。
挙句の果てに、戦車の銃眼に短機関銃の銃口を突っ込んでトリガーを引くものまで現れる始末。
これらの脳内麻薬漬けのジャンキーを排除しようと、随伴していた帝国派のハーフトラックが歩兵を降車させてゆくが、彼らも待ち伏せていた〔97式自動砲〕及び〔ラハティ〕対戦車ライフルの標的にされた。
時代遅れの対戦車銃も、長距離からの対人狙撃やトラック等の軽装甲車両相手には十分に効果がある。
無論、大混戦の状況は地上だけでなくその頭上の空も同様であった。
上空では帝国派の
〔サイクロン〕の画像はこちら
https://kakuyomu.jp/users/hagiwara-royal/news/16817330667496050400
空に大地に、破片と人命を撒き散らしながら、兵士たちは獣性のままに流血の狂宴を満喫した。
やっぱり退役しよう!
この戦いが終わったら、あのくそったれ少佐が何と言おうと辞めてやる!
怖い思いをするのはこれが最後だ! 誰が何を言おうと知ったことか!
そこで肩に担いだ〔PIAT〕に気づく。
そうだ、とっととこいつを撃ってしまえば、さっさと逃げる口実が出来るじゃないか!
そう思ったところで気づく。これ、どうやって撃つんだ?
「軍曹! こちらです!」
追いついてきた装填手の上等兵が、ぎこちない動きで砲弾と信管をランチャーに取り付けてゆく。
だが、問題はそれに続く一言だった。
「遠慮なくぶっ放してください! まだ
(そんな気遣い要らねぇんだよおっ!)
ナカムラ軍曹が心中の慟哭とともに伏せ撃ちした砲弾は、理想的な山なり軌道で飛翔し、接近する歩兵を蹴散らしていた1台の〔T34〕に直撃した。
その〔T34〕にとっては何とも間の悪いことに、左方の大公派戦車を狙おうと砲塔をそちらへと向けていた為に薄い側面装甲にとほぼ直角に直撃を受ける格好となってしまった。
炸裂した〔PIAT〕の弾頭は薄い側面装甲をあっさり貫き、砲塔内の砲弾に引火した。
新鋭戦車は瞬時に爆ぜて沈黙し、それを目にした歩兵たちが雄たけびをあげる。
「……やった! やったぞ!」
ナカムラは狂ったように両手を振り回し、運命に勝利したことを全身でアピールした。
「どうだ少佐のクソ野郎! 俺は、男になったぞ!」
帰国したら、ドヤ顔で娘を貰いに行ってやる。
どうせ八つ当たりで殴られはするだろうが、一瞬だけでも悔しそうな顔はするだろう。それだけは見なければ、死んでも死に切れない。
だが、彼の歓喜は上等兵の一言で掻き消された。
「お見事です軍曹! さあ、装填は終わりました!
「……」
ちぃくしょおおおおおおお!
彼の叫びは、砲声と爆撃音に遮られたが、友軍兵士たちはその姿を見て思ったという。
なんて勇敢で頼りになる下士官どのだ! 彼の
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