引き続き快晴、場所によってはオーロラが見られます。こっこちゃんな

 はるかな昔、幼い月の女神ティリアは住んでいた月から何もない星を見つめていた。

 やがて彼女は四柱の龍王を産み従者らと何もなかった星に降りたった。

 さらに大地に生きる全て者たちの為に世界樹を植えた。

 そして両親と従者から伝え聞いていた人間を朧気にしか理解できていなかった彼女は異世界の創作世界の住民を真似て人を産み出し多くの家族と幸せに暮らしはじめた。

 やがて世界樹を素材に八体の王機が形成され空と海ができたことで世界樹以外の場所にも生き物が出現し始める。

 その頃、龍王の一柱、青の龍王は兄である黒の龍王と共同で寿命を代価に異世界から人を呼び込む魔法、トライ招来を確立した。

 これによって試験的に呼び込まれた異世界人がトライアル、後のトライだ。

 呼び込むのに必要な要素は三つ。

 まず青の龍王の寿命とドナーと呼ばれる血の提供者がいる。

 この二名がこちらの世界でのトライの親といわれる。

 俺の場合は先々代の青の龍王の子孫とドサンコが親だ。

 三つ目は創世神ティリアが最も得意とした唄で世界を編み上げる魔法、今でいうソングマジックだ。

 異世界地球の主に日本からに招来されたトライ達は瞬く間に星の文明を塗り替えた。

 更にトライ達が使用できるユニークスキルはソングマジックと比較して安定的、かつ応用に富んでいた。

 また、異世界からの転生者トライたちがもたらす未知の世界の情報は幼い女神を夢中にさせた。

 そうして月日が過ぎ去り蓬莱人ほうらいじんを片親に招来された一人のトライと青の龍王が婚姻、子を作ることに成功する。

 四柱の龍王のうち青の龍王が血統化した瞬間だ。

 二人から生まれた愛娘、ティリアの孫は母と同じくトライの招来が使えた。

 当時の神話を紐解くと大体ティリアの不安や欲望なんかが外部に漏れだして大騒ぎになり周囲がそれを隠蔽、もとい解決するエピソードだらけだ。

 それでもなおアットホームな日々だったって言っていいんだろうな。


 御伽噺は多くの場合ハッピーエンドだけでは終わらない。


 やがて家族が増え世界が広がるにつれてティリアは再び孤独を感じるようになる。

 親の愛に飢え恋する心を知らぬまま四柱の子持ちになったティリアはシンプルに言うと子離れができない親だった。


 女神の愛は暴走し世界に破滅の大怪獣が降臨する。


 ティリアの子である龍王たちは親からの独立のための戦争を行い、その結果として大陸東部に大きな穴をあけ月を木っ端みじんに砕いた。

 それに伴い戦闘用に改造された王機は過半が大破、青の龍王はトライの過招来で寿命が尽き死亡、黒の龍王は激戦ののち行方不明となった。


 その後、かろうじて生き延びた青の龍王の子孫と赤と白の二柱の龍王は世界樹の枝を挿し木として大地に植え世界の再生を図った。

 後にティリアの御霊を鎮めるための礎となったこの枝が霊樹である。


 とまぁ、カリス教では盛りに盛った悲劇として世界の守護者たる龍王たちと創世の女神の親子喧嘩を説明する。

 そこはさておくとして一般的にスキルってのはトライが使うユニークスキルという名の魔法のことだ。

 他にも怪獣なんかと比べると大体の生物が弱っちい上に強さの基準が親子間の怪獣大戦争時代に固定されてしまったのもあって通常生物は深度零よわい無能力できない無才能そだたない扱いだ。

 実際、深度一の怪獣でも生きてるトラックみたいなもんだから人間が正面からぶつかれば普通死ぬ。

 そんな世界に残された者たちはティリアから引き継いだ魔法を起こす因子を月のかけら、ムーンピースと呼ぶようになった。

 いわゆるMPだな。

 突き詰めてしまえばすべてティリアが持ってた力がばらまかれたもので、本来ティリアが持ってたフルスペックの能力なら自在に時間を巻き戻し宇宙を創世し異次元間の任意の要素を自在に入れ替えることも可能だったと神話にはある。

 この世界ではその力を創世の魔法と呼ぶ。

 トライのスキルはその最たるもので赤龍機構せきりゅうきこうではその力が残ったトライの招来札、龍札たつふだをストレージと呼ばれる龍札保管庫に奉納している。

 赤龍機構ではその龍札の力スキルを冒険者に貸与するという形で冒険者のタレントを作り上げた。

 タレントは赤龍機構の内部処理的にはDスキル、他にもインスタントスキルともよばれてた時期があるが今だとタレントって呼び方の方が主流だな。

 カード上ではソードなどと表現されるタレントも裏には剣技という龍札が動いてるって仕組みだ。

 上位タレントのデュアルソードの場合だと赤龍機構内で動いてる龍札は双剣な。

 つまり根幹部分は招来されたトライのスキルを借りてるだけだって話だな。

 そしてトライのスキルは招来時に龍札に書かれる漢字で規定される。

 そう、漢字なんだ。

 この世界の標準語は五十音の読み文字と外来語用の振り文字、漢字で構成されてる。

 原因はティリアが理由は知らないが最初から異世界テラの日本を認知していたことに起因する。

 そんなわけで龍札は漢字、さらにざっくり言うと文字数が多いほどティリアの魔法に近づき不条理かつトンデモになる傾向がある。

 龍札に四文字が使えたのは初代の青の龍王だけで、その娘は三文字、子孫に至っては二文字でしか作れていない。

 長くなったがここでやっと招来されたトライ、オーロラの話につながる。

 エルフの娘と青の龍王の娘を親とするオーロラは三文字で招来されたトライだ。

 その文字は『超魔法』

 この頭の悪さ全開の三文字は世界がまだ平和だったころに、どこまでできるのかを試したかった青の龍王の娘が交流の深かったエルフの娘と試した。

 その結果、トライとして招来されたのが勇者オーロラだ。

 トライの文字ってのはその前世、特にに関係する文字になる傾向があるんだが、当時はまだよくわかってなかった。

 今だとこういったネタ招来はほぼ不可能だ。

 何て言っても青の龍王の子孫の寿命削るからな。

 でまぁ、小娘二人の悪ふざけで爆誕してしまったオーロラなんだがな。


「えっと……中には何もありません」


 そういって俺たちの視線の先に中が空のシルクハットを見せるウィンディ。

 シルクハットつっても俺がさっき突貫で作ったやつだから雑な奴なんだけどな。

 それを頭を上にして手を差し入れてサニーとレインを見たウィンディ。


「こうやって……よーくゆすって……はいっ!」


 シルクハットを上にあげるとそこには大きめの雌鶏が一匹いた。


「鳥が出ますっ!」

「「おーっ!」」


 そんなウィンディの足元にはさっきから双子にせがまれるままに出現させた複数の雌鶏がこっここっこと鳴いていた。


「「もういっかい、もういっかいっ!」」

「え、でっ、でも、私もう限界で……」


 普通のタレントはマナを使わない。

 使うのは魔導系ウィザード錬金系アルケミストといった魔法に近い系統、それと今ウィンディが使ってる勇者系ヒーローみたいな特殊タレントだ。

 取得直後のタレントの場合、一日の使用回数は十回に制限されてるんだが例外もある。

 勇者系ヒーロータレントはその例外の一つだ。


「もう一回だけお願いしますっ!」

「チキン!」


 レイン、チキンってお前、ウィンディに臆病者って言ってるみたいにも見えるぞ。

 俺は足元をこっここっこと鳴く雌鶏に支配されながら危なくなったら即割り込めるようにずっと観察していた。

 神眼を使ってみてるんだがこんだけ使っても切れる気配がねーんだよな、ウィンディのマナ。


『アキラ』

「なんだよ」


 複数のランプを点滅させたパスカル。


『報告と質問があります』

「なんだ」

『ウィンディの腕の青痣が薄くなっています。ウィンディと同化したチューリッヒ、及びヒーローのタレントによって不足したマナの代償として体内に浸食しているヒドラフォッグをMPとマナに分解しているものと思われます』

「はぁ!?」


 数秒黙った後で俺はパスカルに聞き直した。


「つまりあれか、ウィンディは宇宙怪獣を素材に鶏こしらえてるのか」

『おそらくは』

「不条理極まりねーな」

『エンシェントマジックですから。ティリアの魔法は大体にして不条理です』


 それで説明がつくのがひでーな。


「それはわかった。それで質問ってなんだよ」

『なぜ鶏なのですか』


 そういうとこは覚えてねーんだな、お前も。

 俺は床に複数うろつく見た目もマナも完全に同一の鶏達をちらりと見てからこう答えた。


「オーロラがペットの鶏しか出せなかったからだよ、言わせんな」


 コイン消して鶏を出す勇者、それがオーロラだ。

 それとこの鶏の名前はな。

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