プロローグ 02 雑草

 生まれた時から彼等の運命は決まっていた。


 それは、どこかの世界。支配する者と支配される者、その均衡はずっと昔から決まっていた。彼等は、人々と姿かたちは同じでありながらも、虐げられて然るべきものとして、誰も知らぬ遠い昔からそういう存在としてあった。


 彼等は奴隷や最下層の貧民として、人の社会を支えた。彼等も同じ自我を持ち感情を持つ人間であったが、人々は彼等のことを人間とは呼ばずに人以下の卑しい存在として遇した。

 虐げられ、賤業を課せられ、嬲られ、生殺与奪の権利すらも握られていた彼等は、その長い長い抑圧の時間の末に、大多数が希望を失った。ただそこに在るだけ、抵抗も主張もせず只々漫然と鬱々と自らの生を人間たちのために消費するのを良しとした彼等は、ある意味で、生まれた時からどう生きるか決まっていたのかもしれない。のだ。


 自らの生きる目的や希望を失った彼等だったが、その存在だけは確実に繋いでいった。いくら打ちたたいても、嬲っても、殺しても、彼等は命を次世代に繋いでいき、増えていった。まるで、いくら踏み潰しても、抜いても焼いても生えてくる草のように。人々は、いつしか彼らのことを≪雑草ウィード≫と呼び習わすようになった。その呼び名は揶揄でもあったし苛立ち故でもあったし、あるいは憎しみ故であったのかもしれない。


 大した役にも立たず自らの意思を持たない正に雑草のような存在だった彼等であったが、しかし、そうでない者も居た。人間社会から逃げ出し、己の生は己で選ばんとする者も居た。それはちょうど、広い根を張り長い茎と大きな葉を付けて作物に行き渡るべき養分を奪わんとする草のようで、それらの者達は社会の枠組みを逸脱した存在として往々にして社会基盤の安定を揺るがしてきた。

 人々は彼らをまつろわぬ民として度々≪雑草狩り≫と称して討伐と捕獲を繰り返したが、雑草と揶揄されるのを逆手に取るように、彼らは追手の魔の手をすり抜けて王権の及ばぬ辺境の地方で跳梁跋扈し、その自由になった生を謳歌して死んでいくのだった。


 そのようにして小さな波はあれどそれらは大きな変化をもたらすことなく、世界は淡々と回り続けた。|

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