第47話 栄転?
王都シュナイダー邸に戻ると、クレアが慌てて玄関まで迎えに来た。
そして、見慣れないが良く知る意味を持つ馬車が駐騎場に停まっていた。
「あれは王家からの勅使が乗って来る馬車だよな?
その件か?」
「そうなのよ。
私も立ち会うように言われてるんだから」
クレアにも同席の指示か。
例の件に間違いなさそうだな。
さすがに、俺が王様に謁見しに行ったのに、そこでは伝えられずに邸宅まで勅使が来てわざわざ伝えるとか、そこはクレアも違和感を持ったようだ。
「たぶん良いことと、どちらかというと悪いことだな。
俺が断れないようにされたんだよ」
「それは?」
「とりあえず勅使の話を聞こうか。
俺もどこまで本当なのか判らないんだ」
俺たちは勅使が待つという応接室に向かった。
勅使は王の代理、この屋敷で一番良い部屋が用意されていた。
「お待たせした。
何ぶん、今、王との謁見を終えて帰って来たところでな」
会って来たばかりなのだから王様が直接言えよという嫌味を貴族語でかましておく。
「これはシュタイナー伯も人が悪い。
あの場でこの恩賞を与えていたら、反対する者たちの罵詈雑言が溢れていましたぞ?
我が王のご配慮だとお考え下さい」
しれっと答える勅使。
「逃げ道を塞いだという気もするが?」
「何の話よ?」
俺たちの会話の意味がわからず割って入るクレア。
「これは失礼いたしました。
それでは改めまして」
勅使が身を正し、羊皮紙の巻物を広げて目の前に掲げた。
その内容を声高らかに読み上げるのだ。
「これより勅旨を伝える」
ここからは、勅使の言葉は王の言葉とみなされる。
俺もクレアも立って姿勢を正す。
「ケイン・フォン・シュタイナー伯爵を南部防衛を任とする辺境伯に陞爵する。
領地を加増し、南部アドラスヘルム領を与える。
現在の領地は地続きとなるためアドラスヘルム領に併合する。
ケイン・フォン・シュタイナー辺境伯は、領地に赴き南の蛮族の侵攻を阻止せよ。
それに伴い、第二王女サラーナ・ミルド・アーガストを降嫁し同行させる。
妃の序列は元王位継承順とする。
以上」
サラーナから言われたことがやはり現実となった。
違うのは最後の一文。
サラーナは王女だが、数々のやらかしにより王位継承順が公女のクレアよりも低かった。
つまり、正室はクレアで側室がサラーナだと王様が決めたということだった。
そこはサラーナも知らなかったんだろうな。
それに知らなかったが、俺が元々持っていた領地はアドラスヘルム領の隣の隣だったらしい。
隣の隣では地続きではないが、それもドラゴンスレイヤーになって加増された領地が、まさにその隣でアドラスヘルム領と繋がったらしい。
なにやら作為を感じるのは俺だけだろうか?
それに南の蛮族の侵攻だと?
聞いて無いよ。
そんなところに
ああ、俺が嫁たちを守るために必死になって働くだろうって、王様は思っているのか?
その通りだよ、ちくしょう。
ここでの返答は一択しかない。
「謹んでお受けする」
まあ、断ることも出来るが、それは謀反と同義だ。
死ぬ気で逃げなければならない。
それが無理だということぐらいは俺でも解る。
南部防衛の任務も逃げられない。
だが、蛮族と言っても相手は国相手だろ?
俺だけが行っても意味がない。
南部辺境を守る軍隊はどうなっている?
そもそも元の辺境伯はどうしたんだよ?
嫌な予感しかしないぞ。
「南部辺境の戦況はどうなっている?
軍備は?
前辺境伯はどうした?」
「それを私に訊かれましても」
それもそうか。
「それでは私はこれにて辞させていただきます」
「お役目御苦労」
ちくしょう、定型文でしか答えられん。
俺たちは勅使を見送った。
あの特徴的な馬車が去って行く。
と同時に別の馬車が門から入って来た。
サラーナのやつ、もう来たのか。
だが、その馬車の意匠は教会のものだった。
「ん? 教会の馬車?」
馬車が玄関前の車寄せに横付けされる。
そして開いたドアから出て来たのは……。
「責任取って!」
それはジェイコブパーティーに居た聖女だった。
魔力回復量0の魔導士・全滅勇者パーティーのその後ー魔力が無いなら魔力を吸えばいいじゃないー 北京犬(英) @pekipeki0329
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