第46話 外堀埋まる

「お姫様だっこが、あんな嫌らしいことだったなんて知らなかった」


「いや、知ってて言ってるだろ!

そもそもあれは、そのような抱き方ではない!」


「あんな公衆の面前で聖女のピーに指を入れるなんて、聖女も聖女の資格を失ってしまったんじゃないの?」


「そっちじゃねーよ!

いや、そもそもそれだと見えてなかっただろ!

くそ、誘導尋問か!」


 まんまと嵌められた。

ローブの中のことだ、何をやっていたかは推測に過ぎなかったのだ。

この話を喧伝されたら、教会ともめる事になるから止めろよな。


「何が望みだ」


「あら? わたくしが魔力を吸わせると言ったのは、覚悟があってのことよ。

わたくしならば、究極奥義『駅弁』をする覚悟もあったんだからね」


 それはピーでピーを常時接続して魔力結合状態で戦う究極奥義。

王様の前で姫とそんなことをして見せたら不敬罪で殺されるわ!


「そ、それは禁じ手。

何故そんなことを知っている!」


「ふふふ、わたくしがケインの妻となることに決めたからよ」


「そんなこと、王様が許すわけがない!」


「何を言ってるのよ?

元々わたくしとケインを婚約させてたし、今回の件でケインの評価は上がっているのよ?」


「それじゃあ、さっきの勇者就任の打診も本気だったのか!?」


「まあ、それは半分冗談でも、ケインの障害は後天的なものでしょ?

ならば、その能力は子に受け継がれるだろうから、王家に欲しいなって話になったのよ」


 王様共々俺の子種目的かい!


「俺は公爵家の出のクレアを妻にしている。

そこに後からサラーナ姫が入るのは問題だろう」


「そこなのよねぇ。

聖女も嫁ぐと言ってるらしいから、どうすれば良いのかしらね」


「聖女もかよ!」


 まさか尻の件だけでそんなことを言っているのか?

いや、聖女だからこそ免疫が無かったのか。


 だが、サラーナ姫も聖女も、魔力タンクとしては極上。

人目さえ気にしなければ傍にいてもらえるのは有難い。

だが、この国の中では、大っぴらに魔力が吸えずに宝の持ち腐れ。

余計なしがらみが増えるだけで、面倒なだけだろう。

よし、逃げるか。


「そうそう、ケインには、新たな領地が下賜されるわ。

隣国との国境にある国防の最前線だから、辺境伯になるわね。

そこへの赴任、決定だからね」


「聞いて無いよ!」


「だって、謁見の間で言ったら、ケイン、断るでしょ?」


「そりゃ断るな」


「勇者就任も、領地の下賜も断ったら、どうなると思う?」


 ああ、さすがに王様の権威に喧嘩売ることになるな。

アレスティン侯爵クズ派だった貴族共が黙っていないだろう。


「だから、わたくしの降嫁も断れないんだからね?」


 ちくしょう、完全に外堀を埋められている。

国防の最前線行きを断ったら、公爵家にも迷惑が掛かる。

そもそも、辺境伯に陞爵って、サラーナ姫の降嫁のための格を整えるためだろ?

サラーナ、やりやがったな。


「後で王都シュタイナー邸に行くからね」


 このまま何の告知もなく辺境行きなのか?

帰ってクレアに何と説明すれば良いんだよ。

正室から側室になりましたってか?


 俺は憂鬱になりながら王都シュタイナー邸に戻った。

当然ながら、馬車は公爵家のものを借りたままだ。

非常にバツが悪い。

そういや、放置していた元の領地はどうなるんだよ?

せっかく代官が決まったのにな。

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