【第3話】ギルド倒産、アイテム袋の偏移

3日前、俺の勤めてるギルドが倒産した。


俺が勤めていたのは『アイテム管理ギルド』。

冒険者なんかが持っているアイテムを管理する仕事だった。

名前だけ聞くと、預かったアイテムを保管しているだけに聞こえるがそうではない。


冒険者というのは依頼で得た報酬だのモンスターを討伐した際に出た素材だのが

どうしてもかさ張る。

そこでアイテム管理ギルドの出番だ。


「次の依頼では荷物がかなり出そうだ、なんとかしてくれ」


みたいな注文が冒険者からあった場合、折りたたみ式の枠組みを手渡す。

この枠組みには空間転移魔法が掛けられていて、

うちのギルドが管理する複数の金庫の内、対応した金庫に繋がっている。

冒険者が魔物の素材や依頼の報酬なんかを枠組みに投げ込むと

金庫内に入った物は浮遊魔法で自動的に仕分けられ、管理される。

この浮遊魔法はとても複雑で、物品ごとに細かく仕分けられる仕組みは

創業者の一族しか知らない門外不出の極秘魔法だ。


魔法の誤作動やアイテムを盗まんとする盗賊が来る万が一を想定し、

金庫の前には交代制で職員が番をする。

また、金庫に生物が投げ込まれると警報が鳴る為、

そういった場合にも職員が対応する。

他にも、浮遊魔法の定期メンテナンスも担当している。


創業400年、冒険者からの信頼も絶大で

絶対に取って代わられる事のない不滅の職だと思っていた。



半年前までは。



空間の縮尺・膨張に関する魔法を研究していた魔法使い達が

マジックアイテムを製作、販売するギルドを立ち上げたのだ。

商品の名前は『無限収納袋マジックポーチ

形状は何処にでもありそうなポーチだが、

中には特殊な魔法が掛けられているらしく、

見た目以上に大量の物品を詰められるらしい。

客を盗られる可能性を危惧する者も

うちのギルドに少数ながらいたが、私も含め大半は鼻で笑っていた。


「あんなちっぽけな袋が何になると言うのか」


だが実際は違った。

販売から僅か3日ほどで冒険者達がこのポーチを買い求める様になり

1ヶ月も経つと冒険者ギルドが大量に発注し、

冒険者向けの雑貨屋にポーチが並ぶ様になった。

そしてポーチの人気に反比例する様にうちのギルドへの注文は激減。

更には


「ぶっちゃけ言うとあの枠組みは折り畳めるとはいえ、冒険中も邪魔だった」

「あの金庫に入れた素材を後でよく見たら少し傷がついてた」

「汁物を入れると他のアイテムがダメになるんだよね、あの枠組み」

「酔っ払って枠組みに入ってしまい、警報を鳴らすハメになった」

「枠組みって名前と見た目がダサかった」

というこれまでに抱えられてきた不満、めちゃくちゃなクレームなどが殺到し、

益々うちの利益は右肩下がりに。


そしてついに3日前、400年の歴史を誇ったアイテム管理ギルドは

長い歴史に幕を下ろす事となった。

創業者一族は夜逃げ、失業した職員の一部は

プライドもかなぐり捨て、例の無限収納袋のギルドに駆け込んで職を求めた。

因みに俺もその一人。

現在は無限収納袋を製作する工場で、

出荷予定のポーチに不具合がないか検査する仕事に当たっている。

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【単話完結】ファンタジーっぽいものを書くだけ 堅牢烏 @kenroukarasu

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