喪失した温度

清泪(せいな)

飛び越えた境界線

 

 自分が住む街を、都会だと思ったことがない。

 自分が住む街を、田舎だと思ったことがない。

 自分が住む街を、中途半端だとしか思ったことがない。


 遊ぶ場所も買い物する場所も観光地と呼べる場所も由緒正しき神様を祀る場所も、駅の近くにも駅から離れてもあってそこにいく交通手段も多数あって不便はない。

 車が無いからって不便だと言うこともない。



 仕事が無いわけでもない。

 こんな不景気でも50~60%ぐらいでは受かるらしいし、求人広告は毎週更新されている。


 何処かに遊びに行ったり、何処かに買い物に行ったりしても誰か知り合いにそうそう会うものでもないし、この街は狭くはない。

 むしろ近所付き合いなんてものがちゃんと成立していないぐらいだ。

 何処かでお隣さんに出逢ったとして、その人をお隣さんと認識できるかも定かじゃない。


 だから田舎じゃないとは断言できる。


 だからといって都会だとも思えない。

 実際の都会に行ってみれば、畏れ多くて都会だなんて言えるわけがない。


 平日昼間の駅のホームは客が疎らだ。

 田舎のイメージだと無人駅だし、都会だと平日だろうと人がごった返している。

 この街の駅のホームでは乗る人間も数人なら、降りる人間も数人。

 動きが無いわけではなくて、かといって動きが有るかと言われれば頷くには難しい。

 各駅停車の電車だけでなく、快速電車だって止まるのに客の流れはやはりお粗末なものだ。


 そんな静閑としそうな駅のホームは、平日となると電車が停まるホームがふたつになる。

 上りの2番ホームと下りの3番ホーム。

 1番ホームと4番ホームは、新快速だとか貨物列車だとかが通りすぎるためだけの線路になり、ホームにも黄色のロープで進入禁止と区切られている。






 その黄色のロープを今一人の女子高生が華麗に飛び越えた。

 ハードルを飛び越える陸上選手みたいな綺麗なフォームで飛んだ。

 泣いてはいなかった、確かに笑っていた。


 笑って、飛んで、轢かれた。


 それはそれは、鮮やかな最期だった。



 悲鳴が聴こえたのは、白線の内側に、と場内アナウンスが流れた後だった。

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喪失した温度 清泪(せいな) @seina35

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