第532話 彼は“巨悪”を名乗り出て、星屑を仰ぎ見た……


「ハアアアァアアアアアアアアアア――ッッ!!!」

「ドオォオオオラァアアアアアアアアッッ!!!」


 一つに束ねた極太の黒き螺旋と、光を束ねた超大剣が空に相克する――

 

「あっぐ……ぅぅ、うううお!!」

「ぬぐ、ぅ……ッあ、アアアアア!!!」


 清々しい空に、光と闇の命運が走る。世界に走る亀裂が、青に何処までも波状を届き渡らせる――


「コイツガァアアアアアアアアアアアガァ!!!!!」

「負けられるカァアアアアアアアアアアア!!!!!」


 鴉紋の拳に爆ぜる邪悪。ダルフの剣に混じり合う灼熱の雷火。

 敵を討ち滅ぼす全開の奥義が、互いの存在を白熱に飲み込み、肉を焼いていく――!


「――――――!!!!」

「ッ――――――!!!」


 白き翼と黒き翼が向かい合い、互いのエネルギーを押し付け合う。空に開かれた羽は対となり、青き空に二十四の翼が開く――


「ここだああぁあああアアアアっ!!!」

「――――……ッ!!」


 煌めくダルフの力が増して、鴉紋を一瞬押し留める――だがやはり、


「思い上がってんじゃねぇえぞゴラァアアア!!」

「うぅあ――っぐ――!!!」


 深淵もまたその濃度を増して、両者迫真の形相のまま、傷付く体に構わず闇と光の激流を前進し続けた――!!


 ……やがて額をぶつけ合った明暗の閃光――次の瞬間、都全土を揺るがすインパクトが発生した!


「ぐうああああああああ!!!!」

「ああっ!! うああああああ!!!」


 降りしきる朝の日差しの中へと、二つの存在が墜落していった。


 森閑しんかんとして、打ち震えるだけの砂丘に――


「フン――――!!」

「カァッ――――!!」


 二つの土柱が天高く打ち上がる! 躍動する二つの翼が、力強く空を切り裂いた――


「こんなもんかダルフ……この程度の力で、俺の諦めた夢をその手にするとほざいてんのか!!」

「フゥ……フゥ……ゥウッ!!」

「いいかダルフ……!」


 互いに頭から血を被った様相。骨の何本かはイカれた満身創痍の体を引きずり、息を荒ぶる。

 未だ気迫だけは冷めやらぬ両者……先に灼眼輝かせて歩み始めた鴉紋が、体をくの字に曲げて悶絶しているダルフを見下しながら、力強い語気で語り始めた――


「お前の目指す世界は、神を討ち滅ぼすよりも過酷な道程みちのりだ」

「……ッ」

「それでもこの空想に手を伸ばすというのなら、お前は誰にも負けちゃならねぇッ!!」

「……っ」

「赤目と人間……全てを統べる““となり、全人類へと揺るがぬ道を示さなくてはならねぇんだ!!」


 身振り手振りで訴える鴉紋は……らしくもなく、何処か必死極まる様子でダルフを見ていた。


「こんな所でへばって何が“共生”だ。こんなに不甲斐ねぇ男が帝王を名乗る位なら――俺が全てを邪悪に塗り潰してやる――!!!」


 空に拡散した冥府の闇が、蒼穹そうきゅうを呑み込む程広大に、翼の十二を押し広げる。

 そして開かれた天輪。朝日を遮り夜が押し寄せ、世界が再び闇に支配されんと、邪悪を拡大させていく――


「鴉紋……」


 だがそこで、もう一つの天輪が空に開き、翼と共に夜を押し返し始めた――

 先の衝撃を呑み込み、紅く変貌したフランベルジュの一刀を握り締め、ダルフはしかと、瞬く金色の視線を上げる。


「次の一撃が、俺とお前、どちらかにとってのとなる」

「……この怒り、全て拳に乗せて――」


 火花を散らした眼光が、同時に空へと共鳴を促した――


「『天撃』――――――!!!!!」

「『天剣』――――――!!!!!」


 掲げた紅き剣先に無数の白雷降り注ぎ、雷火坂巻く光の剣が満ちる!!

 闇垂れ込めて纏った深淵が、拳に宿って悪神の威光を顕現けんげんする!!


 ……一度静まり返った空気の後に――


「これで全部終いだぁあ!! ダルフ――――ッッッ!!!!!」

「世界は終わらせない、俺がみんなの、光の道となる――ッ!!!!!」


 爆烈した閃光が、凄まじい轟音をあげてぶつかり合った――!!!


「デェエエエエアアアアアアアアアアアアアアアア゛アアアアアアアアアアアアアアア゛アアアアア゛アアアア――――ッッッッ!!!!!!!!!!!!」

「ウウウゥウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアア――――ッッッッ!!!!!!!!!!!!」


 鬼神と悪神、


「うぉオオオラアアアアアアアアアアアアアアアアギイイイウアアアアアアアアアアアアアアアア゛アアアア!!!!!!」

「ドオオォオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 暴虐と亡者、


「グウゥウウウウオオオオオオギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアラアアアアアアアアア゛!!!!!!!」

「ハアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


 傲慢ごうまんと貪欲、


「ダァアアアルフゥウウウウウウウウウウウウウゥウウウウウ――!!!!!!!!!!」

「アァァモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ――!!!!!!!!!」


                光と闇が――


 空に果し合い、衝撃の波動を何重にも打ち出し続ける――


「ううぁッぐ!!!」

「くたばれダルフ!!!」


 重なり合った拳と刀身。目前に敵の面構え!

 ダルフに覆い被さるように力を上げた鴉紋が、灼眼を燃え上がらせて空に咆哮し始めた。


「ここで終わるか、ダルフ――ッッ!!」

「負け……る訳には――何があっても……俺はぁッ!!」


 押し負けるダルフは決死の抵抗を続ける。背より噴出する白き雷が、限界を越えてささくれ立ち、更なる怒涛で空を割る、が――


「終わるんだよおおッ!!! 弱いオマエハッ!! 俺というに敗れてッッ!!!」


 鴉紋も同じく、限界突破の瞬きで翼の威力を上げていた――!!


「ああ、ぐううあああ――アアッッ!!!」

「潰れろダルフ!!!!」


 互いを破壊し合う超常の争い。双方の身に凄絶なダメージが刻み込まれていくも、未だ猛進するは漆黒の一筋――!



 ――ダルフさん……

 ――旦那……っ!



「――――んッ?!」


 闇に引きずられゆくその時、ダルフの耳に微かに聞こえた。


 ――ダルフくん

 ――負けてじゃねぇよShit!

 ――頑張って、ダルフ・ロードシャイン!


「――――はっ!!!」


 眼下に集い始めた、の声援!!


「みんな……生きて――っ……」


 振り返ると、そこには生き残った数々の仲間達が居た。皆が一心にダルフを見上げ、続々とその数を増していく――


「いけえ!! ダルフさん!!」

「……グレオ」

「旦那ぁぁ!! 信じてるぜ、全部ぶっ飛ばしてくれよ! あの時みたいによお!!」

「バギット」

「負けたら殺すぞ!! Shit!!」

「フゥドも……生きて――」


 そこにはリオンやピーターの姿は無かった。……けれど、一度途絶したと思われた仲間達の気が、こうして再びに燃え上がっている――!

 それはダルフにとっての微かな希望となり、灯り……気付けば、闇夜を照らしていた。


「………………」


 対して、鴉紋の背には


「………………」


 雄雄しき声援に満ち始めたダルフと違い、鴉紋の背後には……誰も――


 仲間達の声。彼等の期待。未来への微かな希望を灯し、ダルフの全身が光瞬く――!!


「オオ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

「……ッ…………!!」


 闇を押し返した光明が、瞳の星屑を燦然さんぜんと照り輝かせ、体を入れ替え墜落していく――!!

 怒涛の光明闇を押し込み、白き閃光と翼が、夜を連れ去っていく――!!


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」


「――――――………………ッッ――――!!!!!!!!!」


 ――白き正義の落雷突き落ち……




「――――アッ――…………――――――」



 人類のつるぎが、鴉紋を大地へと沈め込んだ。

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