第531話 最後の闘争、本当の夢、永劫のスティグマ


「やはりお前とは、決着を付けなければならない様だな!!」

「たりめぇだろうが、俺はちゃんちゃらお前を、許す気なんざねェんだからよお!!」

「これで本当に最後だ、鴉紋!!」

「お前の顔は、もう見飽きたんだよ!!」


 黒と白の雷撃が弾き合い、砂塵が舞い上がる。日差しの中で吹き飛び合った両者は、宙でひるがえって雷電を走らせた――!


「『雷炎ノヴォルフレイム一閃・フラッシュ』!!」

「『雷爪らいそう』ッ!!」


 丘に茂り始めた草花をかき乱し、強烈なる雷火と邪悪の雷電が鍔迫り合う――


「おおおおおおおおおッ!!!」

「ギイィグアア゛――ッ!!!」


 灼熱の闘気満ち満ちて、寂しげな丘に衝撃がぶつかり合う。その波動は何処までも響き渡り、遠く、半壊した修道院の壁を崩落させた。

 白と黒の閃光混じり合い、反発を繰り返して爆散する――


「っだぁあ!!」

「く、ウウッ!!」


 弾かれ合った両者の肉に、響く鈍痛、震える打撃と斬撃の名残り。切れた皮膚を撫で上げながら、二人はまた空へと飛翔する――

 激しき雷鳴バリバリともつれ合い、蒼穹そうきゅうに絡み合いながら閃光が昇っていく。


「『雷炎ノヴォルフレイム旋風・エア』――ッ!!!」

「がぁッ……くッそが!!」


 鴉紋の頭上にて、陽光に煌めくフランベルジュを振り下ろしていたダルフ――打ち出された二重螺旋の雷火は、その渦を過激に増幅しながら、大地へ突き立つ剛風と共に鴉紋を地に叩き込んだ。

 打ち出す風に美しき翼を乗せて、ダルフは急降下しながら、巨大剣を刺突する構え。

 光と風を剣先に切り裂き、ダルフの速度は超常の域に達する――


「お前のうそぶく夢はもう実現し得ない! それが分かって、何を実現しようというのか。答えろアモンッッ!!」


 急降下していくダルフの視界……

 眼下。高く上がった土煙の中で、怒りに満ちた男の声が風を切り裂く――!


「『雷牙らいが』アァッッ!!!」

「が――ッ……あそこまで加速したフランベルジュを止めただと!!?」


 鴉紋の背に滾る邪悪の十二。それはうごめき、悪魔の牙となりながら脅威を挟み、加速を終え、落下のエネルギーを加えたダルフの剣をピタリと止めていた。

 鴉紋の肩口を掠める程度で静止したフランベルジュ。鼻先を突き合わせた両雄……

 目前より垂れ落ちたダルフの汗を頬に受け、瞳を細めた鴉紋は――振り上げたかかとをダルフの脳天へと叩き込んだ――


「ぐぁ――が……ッッ!!」

「それはお前も、同じだろうがダルフ――ッッ!!!」


 逆に大地に叩き伏せられる事になったダルフは、一瞬白目を剥きかけながら頭蓋より流血する。余りの衝撃に地を跳ね返り、一瞬白んだ意識を取り戻すと、逆さまになった視界の正面より――渾身の打突が、自らの顔面に襲い来ていた。


「俺と同じで……本当に肩を並べたい者達は、全員くたばっちまったんだろうがァ!!」

「――――ッ!」

「てめぇの事だけ棚に上げてッ夢だなんだとのたまうんじゃねェよッ!!」


 迫る直撃の悪意を面前にしながら――その時、ダルフの握るフランベルジュが魔力を解き放った――

 灼熱と迅雷じんらいが鴉紋に絡み付き、僅かに逸れた拳はダルフの頬を切り裂くのみに留まる。


「俺の夢はまだ終わっていない……!」

「ッ――ぐ!!」


 敵の怯んだ隙に体制を立て直し、フランベルジュの斬撃が鴉紋の胴へと斬り込まれる――

 ――同時に、ダルフ迫真の怒号が鴉紋を貫く!


「お前の夢は……はどうなんだッ!!」


 捻り、斬り込み、神域にまで達した炎熱と雷電が、鴉紋の全身を包む。“獄魔”に反応を示した豪炎が、蒼く変化して邪を焼き滅ぼす。

 

 だが――――ッッ!!!


「は――ッ?!!」

「お前の言いたい事はもう分かった……」

「フランベルジュが、動かな――」


 鴉紋の黒き肌をも切り裂き、深くえぐり込んだ波状の刀身。しかし、引き抜こうとした剣が戻って来ない。まるで岩山に突き刺さったかの様に、全力の力で引き込んでも微塵も動かない――

 裂かれた肉を力み、強張らせ、さらには刀身を掌に抑え込んだ鴉紋は、雷火に燃え、腹を切り裂かせるまま、巨大剣を拘束して一歩一歩と歩み始めた。波打った刃面に血が滴り、ずぶりずぶりと肉を切らせながら、憤激した悪魔の相がダルフへ迫る……


「あえて言わせろぉ……フザケロってなァ!!」

「ぅぁ――――っブ?!!」


 腰を捻り、殺人的な迫力で打ち込まれた全力の拳が、ダルフの顔面を完全に捉えて、衝撃波を後方彼方にまで及ぼす――しかし!


「アアッ!? ……俺の、全開の一撃を受けて……っ」


 仰け反ったまま、一歩も後へは引かないダルフ。かち割れた額より鮮血を飛び散らせたまま、鬼神の眼光で鴉紋を射貫く――!


「ふざ……けるのは! ……貴様だアモン――ッ!!」

「ウグぁッ!!」


 ダルフ報復の拳が、雷撃を纏い鴉紋の眉間を捉える。同じく衝撃の旋風を彼方まで残すも、鴉紋もまた鬼の形相で踏み留まり、顔面に残ったままの拳を額で押し始めた――


「ダルフぅ……!!」

「本当の夢を言えよ!! 今更何に縛られるという。お前の本当の夢は、俺と同じ! だろう!」

「カァァァアアッ!!!」

「人とロチアートはであるとッ、人が人を虐げるのは間違っていると! お前は叫び回んでいたんだろうッ――アモン!!」


 意地と根性と気迫の応酬。終わりなき骨肉の争いは、凄絶なまでの血飛沫と共に、互いの足を前へと進め合う――


「気安く言うんじゃねェよ、家畜として虐げられて来た赤目達! お前ら薄汚い人間共に押された烙印スティグマ!! あの屈辱と痛みの記憶が、俺達から消え去る事は永劫ねぇんだよッ!!」

「……お前っ」

「それが……どれ程困難な、どれだけ難しい……事かっ」


 割れた額より垂れた血液が、恐ろしき邪鬼の目元を染めて、涙と入り混じるのをダルフは見ていた。


「お前は……優しき魔王だ」

「あッ!!?」

「だが俺はお前を否定する! 考えてもみろ、こんなに恨み合った俺達も、ただ一時いっとき手を取り合えた!」

「……!」

「共に協力し、力を合わせる事で、倒し得ぬ敵さえ討ち滅ぼした! 不可能なんて無い、線引きなんて無い。人とロチアートも、同じ様に出来る筈だ!!」


 そう、確かな眼差しで言い放ったダルフの眼前に――邪悪の鋭利が怒涛と押し寄せる。それと同時に、憎悪に燃える鴉紋の声が、地鳴りのような怒気を孕んで解き放たれて来た。


「――ッだがァッ俺たちは今、殺し合っている!!」

 

 白き翼の鋭利が邪悪を相殺すると、その衝撃に両者は空へ弾かれ合っていた。さらに興奮冷めやらぬ激怒の叫声が、ダルフに重く伸し掛かる――


「これはだ! “人類”であるお前と、“赤目”である俺! それぞれの行く末のッ!!」

「縮図……ッ」

「俺達は分かり合えない! この闘争の勝者が、次代の覇者となる!!」

「……ッ」


 腹が裂け、額の割れた血濡れの悪魔が大手を広げる。額と脳天カチ割れて、おびただしい流血に覆われた天使が“希望の剣”を胸の前に掲げる――


「『黒の螺旋』……『冥界の拳アビス』――ッッ!!!」

「『因果の雷炎斬シャルル・バラドレイ・ド』――!!!」


 そして両者、必殺の構えにて――


「オオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッッッ!!!」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――!!!!!!」


 覇権をかけて、煌めきが衝突する――――

 

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