第530話 “お前”との因縁に結末を
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“神”によって定められた世界破滅の因果。
他の
「…………」
「…………」
世界の命運を守り、最後の敵を討ち払った男達。
憎き宿敵と手を取り合わなければ、この勝利があり得なかった事は分かっている。
――されど……
傷尽き果てた体に“天魔”の翼を
同時に思うは、一つの思念。
――この男ともまた、決着を付けねばなるまい、と。
――突き合うは、右の“極魔”の
何時迄も、何処までも輝かしくあり続けた金色の星屑。そこに宿る鬼神の如き決意と覚悟、真っ直ぐ見据えた
「……」
「……」
闇晴れ渡り夜明けを迎え、緩やかに降り注いだ朝の日差しが、丘の流砂をキラキラと照らす。すると、先の喧騒と何らかの因果でもあるのか、光明の元に
寒風に負けぬ、不屈の草花が。
「……もうお前とは、語り尽くした」
鴉紋がそう、揺るがぬ視線で呟くと、光の粒子に纏われたかの様な髪を風に流していったダルフは、フランベルジュの柄をしかと持ち直した。
「確かにそうだ。もう語らずとも、お前の意志が俺と平行線である事は、痛い位身に沁みている」
「ほぉ、そうかよ……」
メキメキとその肉を鳴らせ、憤激の面相を練り上げていく鴉紋が、口の端から煙を吐きつけながら黒き剛腕を挙げ始めた……
――激しき
腹を貫かれ、光明に全身を痛ぶられたダルフ。神聖の業火に長く炙られ、芯まで達した灼熱に未だ白煙を上げる鴉紋。両者のダメージは
互いの一挙手一投足を監視し合う視線。些細な動作で因縁の火蓋が切られる極限的状況……
その究極を打ち破ったのは――
「しかしそれでも……語らおう」
「…………は?」
ダルフによって放たれた、肩を透かす一言であった。
「言論の放棄は、人間性の放棄と同じだ」
「…………」
未だ構えを解かないでいる鴉紋に対し、危険水域に達した二人だけの戦場で、剣を下ろしてしまったダルフ。
「……この野郎」
腹を空かせた猛獣の巣窟へと、顎を上げて歩み始めたダルフ。今にとって喰わんと、牙を剥き出しにした悪辣の害意が浴びせ掛けられる。
「…………!!」
危険な闘志を一層と燃え上がらせた悪神が、それ以上近付くならばと気迫で言っている。
「…………」
ギラつく目を見下ろしたまま、
「くそが……っ」
「…………」
明らかに異様。明らかに無謀。一見すると、殺してくれとせがんでいるかの様でもある……だがそれが、全くの見当違いであるという事が、鴉紋にはもう分かっていた。
――
「その舐めた態度、高くつくぞ……!」
……遂には、鴉紋の拳が届く危険域へと、ダルフは悠々踏み込んで来ていた。目前の悪魔による
「お前の願う“ロチアートの喰われる事のない世界”。俺の目指す“人とロチアートが
「――……」
――既に拳は引き絞られている。鴉紋にとって必殺の間合い。もう瞬きする間に全てに終止符を打つ事も出来る。
あれ程渇望した……永き因縁の全てにケリを付ける事が出来る!
「双方茨の道……
……であるのに、
まるで聞き入るかの様な鋭い視線を見つめ、ダルフは更にと、互いの手が触れ合う程の距離にまで踏み込んでいく。
「だが、どんな不可能も、お前と二人でなら叶えられる」
「――――!!」
耳より侵入し、脳に落とし込まれる怨敵の言葉……
絶句した視線を上げると、そこにある――優しき眼差し。差し延べられた掌……
「お前のその手が、誰かと結び合えるという事を、俺は知っている」
「…………ッ」
「俺とお前の二人でなら、この野望を成し遂げられる。叶えられない事なんてない、世の中には、必要悪という存在も――」
垂れた鴉紋の手をすくい上げようと、ダルフは最後の一歩を踏み込んでいった。
そうして、彼等の手が結び合わんとした刹那――
「――――ッッ!!」
「な……っ」
拳を解いた鴉紋の右手が、ダルフの手を弾き落としていた――
「互いにかけがえの無いものを潰し合ってんだ。今更それが叶わぬ事くらい、分かってんだろうが」
「…………っ」
呆然としたダルフの首筋へと、黒き腕が伸びて来た。だがその手は、敵の喉元を裂くでもなく、心臓をくり抜くでも無く、彼の胸ぐらを掴みあげて、熱き視線を突き合わす様に額をぶつけて来ていた。
穴が開く程苛烈に見下ろされたダルフは、引きずられるまま宿敵の声を聞く――
「何処まで甘いんだテメェは」
「……!」
「弱みを見せるな。命を預けるな! 不可能を叶える覇道をゆくならッ!」
――強く、胸を押しやられたダルフが突き飛ばされた。震える視線で見上げたそこには、豪胆で力強い、男の相貌が落ちていた……
「…………そうか……」
敵に背を向け、振り返ったダルフは、鴉紋との距離を再び取り始めた。
「そう…………か……っ」
悲嘆に暮れた様相は、
背を向けた先、視界には、荒涼とした大地に朝日が降り注ぎ、草木を芽吹かせていく新生の光景――
やがて向き直った両雄は、その視線を覚悟と共に鋭くするまま、互いの得物を構えあった……
悪逆の翼白熱し、そこに激情の相が
「いくぞ……鴉紋」
「黙って不意打ちかませばいいんだ、この正義オタクが」
悪神の拳に闇が凝縮し、鬼神の
「ハアァァアアアアアアアアアアアアアアア――ッッ!!!」
「オオオオオオオォアァァギィアアアアアア――ッッ!!!」
躍動する翼が、空にかち合う――!
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