第513話 共鳴の翼
空に現れた“神聖”の思惑を知り、あんぐりと開いた口を閉められないでいる鴉紋とダルフ。未だ驚愕としたままの残された人類へと、コルカノは姿形を変え続けながら語り始めた。
『園の“核”でアリ管理者でアッたミハイルが没した事デ、エデンは循環を失イ、淀むノみ』
地上の人類を境界線とし、対角の空で留まったクロンは闇を深くしながら髪を
『崩壊したエデンは“無”に塗り潰す。空も地上も命も全て』
『ソノ後世界を“無限”デ覆い尽くす。ツギなるエデンの新生の為ニ』
『世は四度目のエデンへと移行する』
ダルフを正面にしたクロンの側の地平は暗黒に呑まれ、鴉紋の正面に漂ったコルカノの側の地平は、見渡す限りの文明と土地にひしめき始めた。
「ぁ…………?」
「四度目のエデン……新生? この世界に幕を下ろす……だと?」
余りにもスケールの違う発想に呆気に取られる……だがしかし、現実に巻き起こる光景は、紛れも無いまでに世界を包み込んでいた。
鴉紋とダルフの二人が抵抗を辞めれば、すぐにでも彼らの言う
ダルフはクロンに向かって一歩踏み出し、自らの胸に手を当てて見せた。
「ミハイル様の力は俺が引き継いだ! この世界の循環にあの力が必要というのなら俺が――」
『人に触れた“天性”など、最早そこに神秘の一切も無い』
「神秘って……」
『原罪を背負いし人類は必ず堕落する。ミハイルに依存する必要など無い。新たなる神秘を産み落とせば良いだけの話しだ』
たじろいだダルフが玉のような汗を垂らして後退ると、そこには同じ様に言葉に貧して黙りこくった鴉紋が俯いていた。
意気消沈としたそんな暴虐を見下ろし、首を捻ったコルカノは口を開く。
『スベテの決定は我等がクダす』
そしてクロンもまた口を開く。その身を暗黒の濃霧に紛れ込ませながら……
『善悪は我等が決める』
この世の一挙が伸し掛かるかの如き重厚な声音。その荘厳はいかなる者の抵抗も認めず、ただ我に付き従えと……魂に強制していた。その強烈なる拘束力には鴉紋とダルフでさえもがピクリとも動き出せ無くなり、滝の様な冷や汗を垂らしながら、心臓をバクバクと跳ね上がらせる。
『抗ウのか、楯突くノカ?』
『であるならば、お前達は“悪”である』
『見渡すカギリの小麦に紛れル毒麦ニ同じ』
カタカタと肩を震わせる背後の存在に気付き合いながらも、鴉紋とダルフは強く歯を喰い縛って赤面するしか無かった。“神秘”によりける何かの事象が、二人の言語も意思も動作も縛り付けて、まるで動き出す事が叶わなくなっているのだ。
そうして“神”は語り続ける。
この世界を言語で埋め尽くすかの様に
一言一言に神の威光を纏わせて、大地と命を縛り付ける様にして――
『神ハ
「…………、ぅ……」
『神は
「こ…………、……」
『神は
「……く…………」
『神の
「――――、――」
彼等の語る一音一音に、まるで祝福をあげるかの様に、世界に金色の輪が共鳴し、波打って消えていった。
――神の何たるか、を自ら語り尽くした“神聖”は、それがまるで嫌味にもならない程の威光を遺憾無く解き放ち、全てを服従させる……
「……ハァ……ハァ……っ」
「フゥウ、ゥウ……フゥウ……!」
黙したままブルブルと震えた鴉紋とダルフは、その拳とフランベルジュを下ろしてガクンと項垂れた。萎れ、火力弱まっていくそれぞれの翼……
『異論無イ様ダ……』
『……これより
『
世界が“無”と“無限”に埋め尽くされる。世界を終わらせ新生しようと、全てを過去へと連れ去っていく――
…………だが、しかし
「――――ざけんなカスがぁ」
『ン――――』
「――――好き勝手するのも大概にしろ」
『何故話せる……神への畏怖を……』
――その拘束を解き放ち、二人の人類より言葉が漏れた……次の瞬間――!!
『ナ……に――』
『これは何が……』
“神”の表情を凍り付かせるだけの
滾り、もつれ、絡み合いながら空へと螺旋を打ち上げた白と黒の十二の翼が、“無”も“無限”も切り払いながら、激情の雷火と灼熱の悪意を渦にして、それぞれの得物を持ち直す。
「てめぇらぁ……!!」
「お前達……ッ!!」
血管浮き上げ激怒した男達は――
永き因縁にヘドロの如き殺意を向け合い続けて来た二人の男は――
「俺の世界にぃ……!!」
「みんなの世界に……ッ!!」
『……ナン、だ?』
――この瞬間、
大気震わせるだけの怒号と敵意が、今しかと
「「
目を丸くしたコルカノとクロンは、押しやられ始めたそれぞれの終焉と開闢を認め、
“神”らしくも無い、苛立ちの歯軋りをして声を重ねた。
『『
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